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リサコラム
連載680回
      本日のオードブル

あるデザイナーの夢

第1話


「ワンルーム」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



天井は
アーチを描き、
ピーコックブルーの
チェックの壁紙です。
オークルの明るい床には
たくさんの絨毯や
マットが敷かれ
ています。
同じく
ピーコック
ブルーの大きな
書棚にはたくさんの本
青い濃淡のストライプの
一人掛けの椅子はの上には
イニシャル入りクッション
デイベッドの上には
ブルーやパープルの
クッションが
たくさん。
素敵なお部屋のようですが、
お客様がお待ちかねのようですね。


 







        

第1話 「ワンルーム」




 「どうぞ、お好きなところに掛けて」新進気鋭のデザイナーと呼ばれてい

るSariは5mほど離れたキッチンの中からRikoに声をかけた。


            


 「ああ、はい」Rikoは周りを見渡した。淡いブルーに濃いブルーのペン

シルストライプのひじなしカウチの上にはSの刺繍がされた同系色のクッショ

ンが載っている。ここは、きっとSariのお気に入り椅子に違いないから、

その横にあるデイベッドのような長椅子に掛けるべきだろうかと思った。


            


 その長椅子は2mほどもあり、しかし、その左右には、円柱や長方形のクッ

ションが10個以上も載っていて、空いている空間はと言えば真ん中のほぼ

2、30㎝巾くらいのスペースしかなかった。“他に椅子は?”Rikoは奥の

方を見渡した。


            


 奥のダイニングスペースには、こちらも2m以上はありそうな大きくて重厚

なテーブルと椅子が6脚並んでいる。しかしその椅子は6脚とも、同じものは

一つもなかった。しかもいずれの椅子も重厚感のあるどっしりと重そうなもの

で、およそ、自分が座るのはふさわしくないような感じを受けた。Rikoは

そのまま立っていればいいだろう、ここにと言われるまではと思った。しかし

Sariはなかなかキッチンの奥から出てこない。


            


 Rikoは手持ち無沙汰で部屋の中を見渡した。SOHOのワンルームの部屋

はかなり広い。見渡せる部分でざっと奥行き7、8mはある。さらに巾はそれ

より広く、10mくらいはあるから70から80㎡はあるだろう。床は足ざわ

りのよさそうな天然木で、その至るところにマットや絨毯が敷かれている。そ

の枚数は10枚ほどあった。そして、さらに、Sariのいるキッチンは中央

の4分の1くらいのスペースをしめている。


            


 「カプチーノは飲めるかしら?」Sariの通る声がした。キッチンからは

先ほどからカタカタと食器の鳴る音が響いていたから、「お構いなく」と言お

うと思いつつもRikoは言いそびれていた。


 Rikoは慌ててひとつ軽く咳払いをしてから、「あの、恐れ入ります。

どうか、私にはお構いなく」とキッチンの方に向かって姿の見えない相手に

答えた。また2、3分すると、キッチンの方ではがたがたとかカチカチとか、

いろんな音が響いてきた。そしてその内、コーヒーのいい香りが漂ってきた。


            


 「わたし、カプチーノだけはプロ並みなの」Sariはトレイに大きめのカ

ップを二つ載せて持ってやって来た。そして、立ったままのRikoを見つけ

ると、「あら、まだ?」と驚いて、「さあ、どうぞ」とダイニングテーブルの

椅子のひとつを指示した。Rikoが恐る恐る椅子を引くと、ギイと床が鳴っ

た。


 「ああ、すみません」Rikoが慌てて謝ると、「いえ、大丈夫、この椅子、

とても重いのよ。スペイン製なんだけどね、一脚注文して、よかったからまた

追加で一脚注文したら、違う椅子が来ちゃって。それで、また注文しようと思

ったら、もうそのどちらも廃盤になってて、それで、それなら、別の椅子でも

いいかと思って、全部違う椅子にしたのよ」Sariはにこやかに微笑んでト

レイをテーブルに置こうとした。しかし、テーブルの上にはおびただしい本の

山があちこちにできていて、カフェオレボウルの載ったトレイを置く余裕は見

当たらなかった。しかし、Sariは全く気に留める様子もなく、あまり高く

ない本の山の上に無事にトレイを着地させると、その中の一つのカップをRi

koに手渡した。


            


 「ああ、恐れ入ります」Rikoはお辞儀をしながらカップを受け取ると、

それを自分の膝の上に載せた。Sariはちょっと恥ずかしそうな表情で、

「ご覧の通りなの」と言ってから、「さあ、熱いうちに」とRikoに勧めた。


            


 「はい。遠慮なく頂戴いたします」Rikoはソーサーを膝に置いたままで

カップからそっとカプチーノを口に含んだ。シナモンの香りの次に香ばしいコ

ーヒーの香りと栗のような甘い味わいがした。


 「どうかしら?おいしい?」「ええ、」Rikoはそう言った後、次の感想

を述べようとしたがなかなか思いつかなかった。そしてやっと「栗のような」

と言った。


            


 「そう、その通り。和栗なの。田舎から送って来るんです。この時期にね。

でも、皮のままじゃ、私、何にもできないから、それを行きつけのイタリアレ

ストランのシェフにお願いしてマロングラッセにしていただくのよ。まあ、そ

のおいしいこと、おいしいこと。でも、あまりにもおいしくて一気に食べてし

まいそうになるでしょ?それで、こうして少しずつ砕いて、カプチーノのトッ

ピングにしたりして大事に冬中持たせることにしているの。旬って大事でしょ

う?旬を味わえることは幸せなことよね。今じゃ、野菜は工場みたいなところ

で作るようになったし、でも、さすがに木になる果物みたいなものはそう言う

わけにはまだ至っていないようで、だから、秋においしい栗や柿やぶどうを味

わえるのはもっとも贅沢なことの一つだと思うんです」Sariは友達言葉と

敬語をミックスさせながら独特のほんわかしたしゃべり方でみるみるうちに

Rikoを自分の領域に惹きこんだ。


            



 「そうですね。私も田舎出身なので、ただ、農家ではないからもっぱらおす

そ分けをいただくばかりですけど、でも、おっしゃることはよくわかります」

Rikoはカプチーノと秋の味覚で初対面のSariとの間がやっと少し縮ま

ったようで、緊張も少しほぐれてきた。


            


 Sariもカプチーノをしばらく味わってから、「でもね、私ができること

は、この部屋で仕事をすることと、カプチーノを入れることくらい。ほかはか

らきしダメで。まあ、ご覧の通りです」と言うとちょっとだけ顔を赤らめた。


            


 「いえいえ、とてもいいお住まいで」Rikoはそう言った後で自分の表現

力のなさを感じて黙った。


 「それで、いつから?」「ああ、はい。ええと、いつでも結構です」

「ああ、そうよかった」Sariはほっとした顔で、椅子に背をもたせ掛けた。

と次の瞬間、「それじゃ、今日からまずはお願いできるかしら?」Rikoは

そう来るとは思っていなかったために、驚いて、慌ててカップを膝に戻したが、

「ええ、大丈夫です。一度家に戻ってからでしたら」と答えた。


            


 「うれしい。よかった!実は夜の飛行機でパリに出張なの」

「今晩ですか?」Rikoは腕時計を見た。午後2時半を回っている。

「それでお戻りは?」「ちょうど一週間後の夜なの。だからそれまでに、ぴか

ぴかにしていただきたいの。ここで大事なミーティングがあるから。鍵は郵便

箱に入れてもらえればいいから」「わかりました。それで、ご準備はもう?」

「あとはスーツケースに詰め込むだけ。10分もあれば。でも後始末をちょっ

とお願いしたくて…」「わかりました。私、すぐに家に戻ってから準備して

きます」Rikoは残りのカプチーノを飲み干すと、すぐに椅子を立ってキ

ッチンに自分のカップを持ってゆくと洗おうとしたが、後でまとめて洗おうと

思った。そのキッチンは想像通り、食器や食品の袋などで溢れかえっていたから。


            


 Rikoは無言でテーブルに戻ると、「それじゃ、準備して1時間以内で戻

ります。ごちそうさまでした」Rikoは挨拶をすると、玄関を飛び出し、表

に停めていた自転車に飛び乗った。そして全速力で自転車をこぐと、自宅アパ

ートの自転車置き場に自転車を停めて、スチール製の階段をカンカンカンカン

と鋭い音をたてて駆け上がった。


            


 Rikoが部屋の玄関を開けると、窓にかかったブルーと白のストライプの

カーテンがふわっと揺れた。6畳のワンルームのフローリングの部屋には小さ

な丸い白いテーブルと小さな白い椅子が一つ。そして、傍らにシングルベッド

が1台。あとは何もない。


 Rikoはさっき出たばかりのSariの部屋を思い浮かべた。二つの部屋

の共通点はただ一つ。それはどちらもワンルームだということだった




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
 
 新しい物語をはじめました。どんな展開になるのか不安…
  


p.s. 2  インスタグラム始めました。どこにも行く暇がなく、
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年10月号です。

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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