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マダム・ワトソン　My Style

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	連載６８４回　　　　　　あるデザイナーの夢第５話「ギリシャ神殿のような柱」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社
紙の本＆電子書籍）（2006年6月）
「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
（電子書籍2014年8月）

道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、Ｆ・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

グリーンの
シェードを
かぶったシャンデリア
ブルーグレー、グリーンの
ストライプのカーテン
ベッドの上には
美しい
バランスと
天蓋カーテンが
下がり、ブルーグレーの
ベッドスプレッドをかぶせた
ベッドがあります。
そして外は
白く丸く膨らんだ
柱のあるバルコニー
どうぞ、ごゆっくり
おくつろぎ
くださいませ。

第５話　「ギリシャ神殿のような柱」

　つい先日、あれほどがんばって掃除をし、壁のペンキ塗りをし、ストライプ

の柄さえ描いたのに。そして、あんなにうれしかったのに。ワクワクしながら、

アパートの階段を上って、どきどきしながらドアのカギを差し込んでいたのに…

Ｓａｒｉの瀬戸内海を見下ろす別荘を見た途端、Ｒｉｋｏのホームベースは瞬

く間に色あせて見えた。

　　　　　　　　　　　　

　私、こんなことをしていて、この先、未来はあるのだろうか、年齢も変わら

ないＳａｒｉは、すでに世界に羽ばたいていて、私はと言えば、こんな古びた

アパートで一人暮らし。しかも、未だアルバイトをしながら、デザインの勉強

中で、いつか独立できるかどうかなんて、きっと夢のまた夢。ほんとにそんな

ことができるんだろうか？　Ｒｉｋｏはいつものその焦りの気持ちがムクムクと

持ち上がってくるといつもそこからどこへも進めなくなる。

　　　　　　　　　　　　

　Ｓａｒｉと自分を比べたところで、共通点は同じ年代だというだけで、他に

何もない。Ｒｉｋｏはじっと塗り直したばかりの黄色い壁を見た。そこにはダマ

になったペンキが垂れて、固まっている部分が数か所ある。ベッドの上にはぽ

かんとした表情で天井辺りを見続けるクマのぬいぐるみがいる。なにかが大き

く違う。Ｓａｒｉの部屋は散らかってはいたが、ブルーグリーン、イエロー、

オレンジ、グレーがうまく配置されていたとても落ち着く部屋だった。しかし、

私のこの部屋は、そんなコンセプトもなく、ただ、塗りたい色を塗り、安物の

中でも、さらにＳＡＬＥになったクッションを並べて置いただけの部屋。そん

な部屋ではインスピレーションが湧かないのも不思議ではない。

　　　　　　　　　　　　

　「それじゃ、インスピレーションが湧く環境って、どんな？」Ｒｉｏｋoは

ネットサーフィンを続けた。素敵なホテルの部屋は世の中に数限りなく、そし

てそのどれもが今この空間とは別世界で美しく魅惑的に見える。その場にいる

人々は穏やかな表情で歓談している姿が見えるようだった。部屋もロビーもレ

ストランもどこも美しく、優雅で、いい香りがしているだろうことは想像でき

た。

　　　　　　　　　　　　

　Ｒｉｋｏは改めて自分の６畳のワンルームの部屋を見渡した。

「あともう一部屋あればいいのに。ベッドのすぐ脇で食事をし、勉強をし、

デザイン画を描くという暮らし方には、いいインスピレーションの湧く隙間さえ

ないように感じた。

　　　　　　　　　　　　

　ネットサーフィンを続けるうち、Ｒｉｋｏはあるひとつのホテルの部屋に目

を留めた。決して広くはない部屋だが、壁についたベッドの頭の上から、カー

テンが下がり、正面には窓がある。ベランダの手すりは真ん中が膨らんだ真っ

白い石か、石膏のようなものできている。きっとその向こうは美しい庭が広が

り、蝶が舞い、鳥のさえずりが聞こえる芝生の庭になっているだろう。大きな

樹木がその芝生の庭に深い陰を落としているかもしれない。そして、その芝生

の上にデッキチェアを置いて木の陰をパラソル代わりに本を読む私がいる。そ

こでなら、イヴ・サンローランがマラケシュで様々なデザイン画を描いたみた

いに、インスピレーションの泉が湧き出てくるはず。Ｒｉｋｏはついさっきの

落胆の縁を覗き込んでいた自分とはまるで違うＲｉｋｏという人間がいること

に気づいた。そういうことか。Ｒｉｋｏは立ち上がると、その画像を見ながら

デッサンを始めた。自分の部屋の広さも窓の大きさも天井も、先日、採寸をし

たから寸法は頭に入っている。

　　　　　　　　　　　　

　「私のこの部屋だって、もしかたら、この通りにできるのかもしれない」描き

進めるうちにそんな気も芽生えてきた。「結局、スケルトンで考えれば、

広さも窓の大きさもほぼ同じくらいだから、もしかしたら、同じようにできる

のかもしれない」Ｒｉｋｏは胸の中でつぶやいた。「そうだ、やり直そう。

きちんと寸法を取って、最初から正確にやり直そう。さっき自分がイマジネー

ションの庭で遊んだように、その絵の世界を今のこの部屋で作り出せばいいのよ」

　　　　　　　　　　　　

　Ｒｉｋｏはわくわくする気持ちを抑えられなくなって、思わずベランダに出

た。古いバルコニーの手すりはペンキが剥げ落ち、もともとの鉄の色が見えて

いた。これをあの白く膨らんだギリシャ神殿のような柱に作り変えることはで

きるのだろうか？型を取って、石膏で固めたら、あるいは木を削って、この鉄

の柱にかぶせたらどうだろうか？あるいはまずは白いペンキで塗ったら？いや、

それじゃ、またこの前と同じになる。小手先でやってしまおうというその考え

がだめなのよ。

　　　　　　　　　　　　

　そしてＲｉｋｏは急いで、部屋着の上にカーディガンを羽織ると、階段を

降りて、隣の敷地にある大家さんの玄関先にやって来た。そして思い切ってチ

ャイムを鳴らすと、中から、７０台半ばのまばらな白髪頭の大家のご主人が出

て来た。

　　　　　　　　　　　　　

　「どうかしましたか？」温和な感じのその主人は、Ｒｉｋｏに不愉快な顔を

見せずに尋ねた。「あの、ほんとうに、すみません。こんな夜分に」主人は振

り返って、壁の時計を見た。午後９時になろうとしていた。「ほんとうに申し

訳ありませんが、実は手すりが、バルコニーの」「手すり？壊れたんですか？」

その口調には、さもありなんという響きがあった。

　　　　　　　　　　　　

　「いえ、あの、自分でちょっと工夫してもいいですか？あの剥げかかってい

て」「ああ、そういうことですか。自分でされるなら、どうぞ。」「えっ？ほ

んとですか？」「ええ、ご自分でなさるならね。いいですよ。もう古いから、

剥げもするでしょう。この私の頭みたいにね」そういうと、頭をなでながら照

れ笑いをした。

　　　　　　　　　　　　

　「それじゃ、どんな色でもいいですか？」「どんな色に塗りたいんです？」

「白く、」「白くね～、まあ、いいでしょう。突飛な色でなければ。まあ、白

くね～きれいにはなるでしょう。ギリシャ神殿の柱みたいにね、はははは～」

大家の主人は大きな声を上げて笑ったが、Ｒｉｋｏは予期せぬ言葉に驚いて、

慌てて付け加えた。「ええ、そうなんです。私も、そのギリシャ神殿のような

柱みたいしたいんです」「そうですか、どうぞ、どうぞ、お塗りなさい。それ

じゃね、」そう言うと、大家の主人はドアを閉めた。

　　　　　　　　　　　　

　Ｒｉｋｏはそのドアの前で、ガッツポーズを作ると、「ありがとうございま

す」と深々と頭を下げた。

　　　

　上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

p.s.１　
　
　　ホテルの部屋と自分の部屋を
　　対比して考えることは、
　　居心地の良さはどこにあるのかを考えることでもありますね。
　　

p.s. 2　　インスタグラム始めました。
　　　　私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

　　
　　「もの、こと、ほん」は下の写真から、２０１９年１０月号です。

　　　　　　　　　　　

p.s.3
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
　　　　の英語版です。
　　　　写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

　　　　　　　　　　　

　　　　タイトルは、"Bedroom, My Resort”
　　　　Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
　　　Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms

　　　　趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
　　　　チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
　　　　E-bookにしていただいたものです。
　
p.s.３
　　　　下は日本語版です。
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

　　書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

　　どうかご了承くださいますように。

シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　
（木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Amazon、書店で販売しています。なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
　　1,944円にてお届けいたします。
　
　ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　
　　　　お申込はこちら→「Contact Us」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

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