MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載685回
      本日のオードブル

あるデザイナーの夢

第6話


「大家の奥さま」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



ミルク
たっぷりの
ミルクココア色の
タイルカーペットの上に
白いチェストと白い
ナイトテーブル

淡いブルーのベッド
スプレッドをかけたベッドの上に
天蓋のレースカーテンが
揺れています。

その中で
シシーのローズ色
のパジャマを着て、
クマを抱いてうっとり
する女性がひとり。



 







        

第6話  「大家の奥さま」




  Rikoの心臓は太鼓でもたたいているように強く打っていた。


            


 それは高校2年生の障害物競走のスタートラインに両手をついた時のあの時

とそっくりだった。隣のレーンの二人にこの心臓の音が聞こえているだろうと

思うと恥ずかしくなりながらも、足も体もブルブルと震えていたあの長い長い

一瞬のように。30も半ばで、未だ高校時代の自分を思い出すのは恥ずかしい

ような気持ちにもなるが、しかし、今は緊張と期待と不安が混ぜこぜになった

気分だった。Rikoは古いアパートの自分の部屋の玄関先で震える体をなだ

めるかのように足踏みをしながら、Rikoの部屋を見たいという大家の奥さま

を待っていた。しかし、信じがたいことに、まだあれから1週間しか経ってい

ない。


            


 始まりは、ネットで見つけたある素敵なリゾートホテルの部屋が自分の部屋

と広さも窓の位置も変わらないことに気づいたことだった。Rikoはそれを

一大発見のようにさえ思えた。「やればできるかも」そんな思いがぱぁ~とR

ikoの見える世界を拡大した。


            


 翌日から、通勤途中の風景さえ新鮮に美しく見えた。木々も建物も、川面に

浮かぶ鳥の群れも、土手の緑も、そしてあんなに嫌いだった踏切の遮断機さえ

グリム童話か、ムーミン村の中の風景のように物語じみて優しく穏やかな風景

に見えた。清掃の仕事中でさえ、バルコニーの床磨きをしながらでも、ついニ

タニタ笑いが出てしまっていた。


            


 それだけではなく、切羽詰まった学校の課題の模型作りにも、自分の部屋の

リフォームのためのカーテンやクッションカバー作りにも熱が入った。校内で

夜、警備員さんが巡回にやって来て、もう帰ってくださいと言われるまで残っ

て頑張ることさえできた。「これって、なんだろうか?私って、こんなにがん

ばり屋じゃなかったはずだけど…」Rikoは教室を出て、自分の立てるスニ

ーカーの靴音を聞きながら非常階段を降りた。


            


 Rikoが2度目のリファームのためにあらたに買って来たのはタイルカー

ペット2ケース、直径60㎝の円形のテーブルと湾曲して背もたれが気に入っ

たシンプルな椅子2脚、小ぶりな白いチェストと白いナイトテーブル、そして

淡いブルーグレーのベッドスプレッドに枕、大きなクッション、カーテンやク

ッションカバー用の生地。Rikoはそれらをまとめて15回払いのカードで

支払った。


            


 そしてまずRikoがやったことはベッドの配置変えだった。部屋の3分の

2くらいの、窓に近い場所にベッドのヘッドボードを右側の壁につけて配置し

た。今まで、長い一辺が壁で行き詰まっていたあの閉塞感がすう~と抜けるよ

うに軽くなったことにRikoはまず驚いた。


 「壁で遮られないって、こんなことなの…」Rikoはそんな単純なことに、

今まで解けなかった何かの謎の糸がするするとほどけるような気さえした。

それからは、まるでロボット並の疲れ知らずで、タイルカーペットを貼り始め

た。それが終わると天井の下地を確認する道具を当てて、レールを取りつけ、

そこから自分で縫ったカーテンを吊り下げるとRikoの陳腐なベッドが優雅

でゴージャスな雰囲気に変身した。


            


 そうして日曜のほぼ1日を使ったRikoの2度目のリフォームで、Riko

のリゾートホテル化計画はほぼ完成に近づいた。残るは、ギリシャ神殿のよう

な柱だが、これは、友人で『のっぽの女子』と言われているMikiに作って

もらうことにした。


            


 建築学科のMikiは日ごろからいろいろな材料を実家の材木店の倉庫に集

めていたから、彼女にかかれば、ありとあらゆるガラクタが発明品かアートに

変身した。Rikoがギリシャ神殿のような柱を作って欲しいと言った時も、

Mikiは笑いもせず、「いいよ、任せて!」と二つ返事で引き受けてくれた

からきっと素晴らしいものができるだろう。その柱が、バルコニーの鉄パイプ

をくるんでくれれば、ほぼ100%に近いくらい、Rikoの理想の姿の部屋

になる。


            


 Rikoはそっとベッドの上に横になってみた。どうしても捨てきれなかっ

たクマを抱いて。こうして部屋のほぼ中心で横になると、左右が解放されたお

かげで、寝返りを打てば、壁に体の一部がぶつかるという不安感がなくなった。

そんな小さな壁さえ、元からある経済的な壁、夢と現実の間にそびえたつ年齢

の壁と同じ現実の壁だったことに気づかされた。しかし、その現実の壁が取り

払われたおかげで、他の2つの壁もどうでもいいような気になってきている自

分自身がいた。ベルリンの壁崩壊30年?Rikoには、そんな世界的なテー

マでさえ、同レベル以下にしか思えなかった。


            


 しかし、実はRikoの部屋のリフォームにもっと大きな関心を寄せていた

人物がいた。アパートの大家の奥さまだった。「完成したらぜひお部屋を見せて

くれないかしら?」というメールが昨晩、Rikoのスマホに入って来た。


            


 Rikoは翌日、「準備ができていますので、いつでもどうぞ」と返信する

と、内心、何か言われはしないかと、興奮と不安が交じり合った気分で部屋の

外で待っていたのだった。間もなく、カンカンとサンダルの音がスチールの階

段に響き、廊下の向こうに大家さんの奥さまの上品な姿が見えた。


            


 「ああ、どうも」Rikoはドアの前で挨拶した。「楽しみにしてたのよ。

なんだかすごいことになってるんじゃないかしらと思ってね」奥さまはにこや

かに笑みを浮かべていた。「いえ、それほどまでは」Rikoの心臓はもう口

から出てくる寸前に思えた。「恥ずかしいですけど、どうぞ」Rikoは傍目

にもわかるくらいの震える手でドアノブを回すと、中に案内した。


            


 刺繍を施したハーブグリーンのカーテンがふわっと揺れた。奥さまは恐る恐

るRikoの部屋の真ん中迄行くと、黙ってレースの天蓋カーテンを見上げ、

ベッドの上に並ぶ数個のクッションを眺め、そして丸いテーブルに掛けられた

ジャガードのグリーンのテーブルクロスの先端を触った。


 そして奥さまは振り返ると、Rikoにうるんだ瞳を向けた。

「ここはどこなの?」




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
 
  「調子に乗って、もういい加減にしなさい!と
  子供を怒るお母さんがいますが、
  大人も調子に乗っていることがよくあります。
  インスタグラムの中はそんな方ばかり。わたしもそのひとり。
  


p.s. 2  インスタグラム始めました。
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年11月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.