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リサコラム
連載686回
      本日のオードブル

あるデザイナーの夢

第7話


「大家の奥さまと節ちゃん」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




バスルームの窓から
海が臨めるような
美しいベッドルーム
マロン
クリーム色の
壁とカーテンと
チョコレートがトップ
コーティングされてるような
バランスカーテンがクール!
淡いブルーのレースカーテン
天蓋カーテンはペパーミント
天蓋は深いブルーグリーン
こんな部屋で眠りたいと
思っていたのです。
大家の奥様は。
 







        

第7話  「大家の奥さまと節ちゃん」




  Rikoは答えに困った。


 「えっ、」と言ったきり、心臓の鼓動はさらにどくんどくんとRikoの胸

を打ち続けた。


            


 「ここは、ここよね?」大家の奥さまはまた、不思議な言葉を発したが、

Rikoにはもちろん、その意味は痛いほどよくわかった。Riko自身が自

分の部屋の変貌ぶりに驚いていて、ここはほんとうに自分の部屋だったのか、


自分はこんな素敵な部屋に住むような人間なのか、そして、住んでいいものな

のかという交錯した思いに駆られているのだから。その歓喜に似た興奮に体が

ちょっと床から浮くような浮遊感をも加わって、夢ではないか、いや、夢なわ

けがない、でも、もしも夢ならずっと見続けていたいとその円の上をぐるぐる

と回った。


            


 「はい。そうです」Rikoはどくどくどくと同じビートを打ち続ける心臓

をさりげなく、しかし、ぐっと握りこぶしで押さえながら奥さまの質問にやっ

と答えた。


            


 「そうよね」奥様は部屋の中をまたうろうろし始めた。「いったいどうした

らこんなに?」Rikoはまた別の心臓が鳴り始めた。なけなしの貯金の額を

頭の中で分割しながら、カードで支払った材料、それで、自分でミシンをかけ

て作ったカーテン、クッションなのだから、別に何も悪いことはしていないは

ずだし、何の問題はないはずなのに、こんな時、Rikoは自分の気の弱さが

恥ずかしくなる。


            


 「こちら、座っていいかしら?」奥さまは緑色の椅子の背に細い指先をそっ

と置いた。「ああ、はい。失礼いたしました。どうぞ、どうぞ。すぐにお茶、

お入れします」「ありがとう」Rikoは3歩先のキッチンに入るとやかんに

水を入れた。


            


 「あの、コーヒーか、紅茶か、緑茶か」「そう?」「ああ、はい」「それじゃ

、お紅茶頂こうかしら。実はね、手作りのお菓子持って来たのよ。アップルパイ、

大丈夫?」「ああ、すみません。大好きです。ありがとうございます」「それ

じゃ、ここで一緒にティタイム?いいかしら?」「は、はい」


            


 「これ、全部、ご自分で作られたの?」奥さまはガス台の前でやかんの番を

しているRikoの背中に向かって言った。「ええ、そうです」Rikoは半

身を向けて、精いっぱいの笑顔を作って言ったが、まだ緊張の糸はピンと張っ

たままで、次の言葉がなかなか出てこなかった。


            


 「すばらしいわ、ほんと、あなたが全部作ったのね、カーテンとかクッショ

ンとかも?」「ええ、私が縫いました」「学校で?」「はい」「私も昔はでき

たのよ。お裁縫がね。それと、そんな気持ちがあったのよ。そんながんばれる

気持ちがね」


            


 Rikoは紅茶ポットとカップを2つ持って来た。「すみません。高級なお

茶ではなくて、あの、カップも、すみません、100均で」「あら、いいのよ。

こんなアパートでロイヤルコペンハーゲンの器で出されたら、そっちの方がよ

っぽど奇妙よ」大家の奥さまはやっといつも通りの穏やかな表情に変った。

「それじゃ、遠慮なく」Rikoは差し出されたお菓子の箱を開けて、皿に

のせた。


            


 「シャンパンはないけど、お祝いしましょ。完成記念に」「ああ、ええ、あ

りがとうございます」「たいへんだったでしょ、ここまでやるのは?」「ええ

、まあ、でも、夢中でやったので、火事場の馬鹿力というのか、あんまり疲れ

ませんでした」「ふふふ、そう、」奥さまは笑った。その笑みにはアップ

ルパイのほの甘い温かさに似た優しさがあった。そして先にアップルパイに

ザクッとフォークを入れると、「あなたも、さあ、召し上がって」とRiko

を促した。「ああ、はい。それでは、遠慮なくいただきます」二人はしばら

く無言でアップルパイを食べ、お茶を飲んだ。


            


 「今、どんな感じ?」奥さまが沈黙を破った。「いや、その、どんな感じか

と言われますと」「夢みたい、よね~」「ええ、そうですね。まだ感覚が馴染

まないというのか、6畳の自分の部屋がいきなり、モルジブとかあの、ええと

その」「ビーチリゾートみたいなってこと?」「そうです。いきなり自分の部

屋がそんな場所に引っ越したような感じで、なんだか自分自身もよくなじまな

いんです。こんな素敵な部屋に、私、いていいのかなとか?自分の部屋でドキ

ドキしてしまって、なんだかとても変な感じで」「わかるわ~。私もね、新婚

旅行で始めて行ったハワイのホテルでそんな感じがしたのよ。私、こんな素敵

なところにいる資格あるのかしらなんてね。でも、いいのよ。その内、なじん

でくるから、ご自分のお部屋にね、はははは」奥さまはにこにこしていた。

Rikoもやっと自然な笑顔になった。


           


 奥さまはフォークを置いて、Rikoの方をまっすぐに見た。

「私ね、女子中、高、おまけに女子大でね。そして、ずっと寮生活だったのよ。

高校生まで二人部屋だったのよ」「そうなんですか」「今はプライバシーとか

でひとり部屋が普通なのかもしれないけど、私が若い頃は二人、3人部屋も普

通で、だからルームメイトとうまくやらなくちゃならなかったの。喧嘩しても

出てゆくとこがないから。それが人間関係を知った最初よね。結構、大変だっ

たわ。それに、きれい好きとその反対の子がいてね、力関係もあったし、そん

な場合は力関係で相手に合わせざるを得なくなるのよ。幸いなことに私のルー

ムメイトは潔癖でね。カーテンは月に1回は洗ってたし、もちろん、シーツも

交換日だけじゃいやだからって、自分専用のシーツと持って来て、交換日の間

にそちらを使っていたほどなのよ。その子、節子ちゃんって言って、その名の

通り節度のある子で、お休みの日もほとんど出かけないで自分の机で本を読ん

だり、縫物をしてかわいい小物を作ったりしてたの。私はその反対。今は真逆

っていうのかしら?でもね、そんな子って勉強ができるけど、友達と遊ばない

から、嫌われたり、仲間はずれにされたりするのよね。でも節ちゃんは、全然

めげなかったの。自己流を貫くっていうのかしらね。夜は必ず明日の制服のブ

ラウスにアイロンかけて、スカートは寝敷きして、そして靴を磨いて部屋のドア

付近の定位置に置いていたのよ。靴なんて、誰が見るの?そんなの毎日磨いて

どうするの?って、私、思ってたのよ。カーテン洗ったり、シーツ洗ったりア

イロンかけたり、そんなことばかりして、いったい何が楽しいのかしらって、

みんなでからかったりもしてたのよ。そんな節ちゃんのこともすっかり忘れて

しまっていたし、あれからずっと音信不通だったんだけど、今度、同窓会でね、

50年ぶりに会うことになって」「そうですか」Rikoは節子さん像を思い

浮かべた。真面目そうな表情に眼鏡をかけて、にこにこ笑っている、いいおば

あちゃん…


            


 「それがね、聞いたところによると、彼女、海外でホテルを経営しているん

だって。それも一つや二つじゃないのよ」「わ~、そうなんですね。すごいで

すね」Rikoはさっきの老眼鏡を外したクールな笑顔の節子さんにイメージ

を変えてみた。


            


 「今日、あなたのお部屋に来て思ったけど、やっぱり、分不相応でいいの

よ。そのうち、相応になってくるから。お部屋をきれいにして、靴をぴかぴか

に磨いて、カーテン洗って、シーツにアイロンかけて、待ってたのね、きっと、

節ちゃんは」奥さまは紅茶椀を両手で持ってRikoの天蓋カーテンを眺めた。


            


 「待ってた?」Rikoはその横顔に尋ねた。「そう、チャンスがやって来

るのを、準備して待ってたのよ、きっとね」その表情は穏やかなベールを帯び

たようにうっとりとして見えた





   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
 
   真面目な節子さん。真面目の意味は難しいです。

   漱石の『こころ』の先生の言う真面目と、真面目に
   勉強する真面目とはちょっと違うような気もしますし、
   そんな人が必ず成功するとは限らないのようです。
   でも人生の収支では成功人生になるはずだと私は思っています。
  


p.s. 2  インスタグラム始めました。
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年11月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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