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リサコラム
連載687回
      本日のオードブル

あるデザイナーの夢

第8話

「運命の分岐点」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




グリーン、
ブラウン、
モカベージュ、
ピーコックブルーの
クッションが並ぶ
ピンクパープルの
モダンなソファ。

ベージュの
アームチェアに
腰かけて見える
正面の白い3連窓。

風に吹かれる
ネイビーの
レースカーテンもすてき。
ヨーロピアンなホテルの
ラウンジなの?
それとも?




 







        

第8話「運命の分岐点」




  「あの、奥さま、お茶のお代わり、いかがですか?」Rikoはうっとり

とベッドを眺めている奥さまに、そっと声をかけた。


            


 「あら、そんなにお邪魔していいのかしら?あなた、今日はお仕事じゃない

の?」「いえ、今日は休みですから大丈夫です」「でも、お勉強があるんじ

ゃない?」「ええ、まあ、でも、奥さまがわざわざ来て下ったので、なんだか

胸がいっぱいで。まだ時間ありますから、大丈夫です」「そうお?」「それじゃ

あと1杯だけお茶をいただいたらお暇しますからね」「一杯とおっしゃらずに。

どうかごゆっくり」Rikoはすぐに席を立って3歩先のキッチンに入った。

そしてポットに水を足しながら、「部屋がきれいになったら、うれしくて、

なんだか、つい、ニタニタしてしまって、すみません。私自身は、何も変わっ

てはいないのに、なんだか私までアップグレードしたみたいな気になって。

それで、私、こんな部屋に住んでいいのかなって、不安になるくらい、うれし

いんです。そしてこの気分をまた誰かに知ってもらいたくて、だから、ああ、

これ、さっきも言いましたね」「いいのよ、」奥さまはテーブルの上に細い手

を重ねて、Rikoのベッドを眺めたままでRikoに言った。「よくわかる

わ、その気持ち」


            


 Rikoがティポットに熱い湯を注ぐと、ぱあっとさわやかな香りが6畳の

空気を満たした。「まあ、いい香り!」「ええ、りんごのお茶なんです。田舎

から送って来たので」「そう、それじゃもっとアップルパイを持ってくればよ

かったわね」「いえいえ、そんな、」「そうね、それじゃ、このお茶持って、

私の家に来ない?」「このままですか?」「ええ。せっかく淹れていただいた

お茶だから、今度は私の部屋でね、ほら、すぐそこだし」そう言うと、奥さま

「はははは」と品のある笑いをした。「そうですね、そぐそこですね。でもお

邪魔してもいいんですか?こんな、私なんかが」「もちろんよ。ぜひ、来てち

ょうだい」「ほんとですか?わ~うれしいです」これまでは挨拶をする程度で、

奥さまとこんなに近しくしゃべることもなかったため、ほんとうにうれしかっ

た。その上、自宅にまでお邪魔できる、そうと思うと好奇心は高揚感に変った。


            


 Rikoはついこの間も大家さんのお宅の玄関先まで行ったが、いつも新鮮

な花が品よく飾ってある玄関の突き当りから右に曲った先が一体どんな風にな

っているのか、いつも知りたい気持ちで一杯になっていた。


            


 「それじゃ、早速、移動しましょ!」Rikoはポットをトレイに載せて奥

さまの後に続いた。大家さんのお宅は白い塀と美しいバラの庭の奥に玄関がある。

「さあ、どうぞ!」奥さまはRikoを中に案内した。Rikoは玄関のバラ

の花瓶を見ながら、恐る恐る靴を脱ぎ、出されたスリッパをはいた。


            


 「わぁ~!」Rikoはリビングのドアの前で思わず叫びそうになった。

「すてきですね。ほんと、すてき」「さあ、どうかしら?どうぞ、遠慮なく、

適当に掛けてね」奥さまはリビングの隣の部屋に入った。そして間もなくケー

キプレートにアップルパイを乗せて戻って来た。


            


 「ここはクローズドキッチンなんですね」「ええ、前は、ダイニングからキ

ッチンが見えていたんだけどね。実はリフォーム好きで、いつもどこかをいじ

っているのよ。さあ、召し上がって」奥様は高級そうな皿に、アップルパイを

取り分けると、Rikoのポットからやはり高級そうな紅茶椀にアップルティ

を注いだ。


            


 「こんな風になっていたんですね」Rikoは周りを見渡しながら言った。

「中はどうなっているのかなってとっても気になっていて、こんなに素敵な窓

辺とこんなにハイセンスな家具に、カーテン、ほんとびっくりです!」「もっ

とおばさん風だと思った?」Rikoは慌てて、紅茶を一口飲むと、アップル

パイの欠片を流し込んでから、「いえいえ、そんな意味では。ほんとステキで、

なんだかパリかロンドンか、ヨーロッパのどこかのホテルのラウンジにいるみ

たいです。ほんとすてき…和んでしまいそうです」「あら、それはよかった。

ゆっくりしてらしてね。実は最近、サッシも変えてみたのよ」奥さまは体をよ

じりながら、お気に入りの3連窓をあらためて見た。「私は若い頃、家具やさ

んで働いていたのよ。そして、今の主人と出会って一緒になったのよ。だから、

主人はつまり、お客様だったの」「へ~、そうなんですか!びっくり!」

「昔はもっと髪の毛が多くて、ふさふさだったけどね、結婚した当時、主人は

建築会社で働いていて、昼も夜もない生活をしていたのよ。でも、20年前、

思い切って辞めて脱サラしたの。それで、今はあちこちのアパートを買って経

営することになったってことなの」奥様は気軽に自分の経歴をしゃべった。


            


 「それで、あなた、ご結婚の予定は?」「いや、全然」「そう。それなら、

その方がいいわ。将来を見据えてのことでしょ?」「ええ、まあ。でも、そう

簡単にはいきそうにないです。デザイナーで食べていける人はほんとに一握り

で。大半はセールスの方に行くみたいですが、でも、実は最近、掃除の仕事で、

有名なデザイナーさんのお部屋を担当することになって、しかも私と同じくら

いの年の方で、なのに、そのセンスの違いにあ然となって、仮にも私はデザイン

なんかを志すのに、こんな適当なインテリアの部屋で寝起きしていたら、到底

だめだと思ったんです」「なるほどね、まずは自らが手本となれということね」

「そんなたいそうな志があったわけじゃないのですが..でも部屋の模様替えを

やり始めたら、やればやるほど、作れば作るほど、どんどんやる気が起きてき

て、私、そんなに頑張れる人間じゃなかったのに。おかしいですね。もう30

も半ばになって今頃、中学、高校で先生に言われていたことの意味が分かった

みたいで…笑いますよね」「いえ、お気持ち、わかるわ~」「まだ、実は、バ

ルコニーのフェンスの柱をギリシャ神殿の柱みたい膨らませることが終わって

ないんですけど、それは友達に頼んでて、」「そこまでやるの!それはすごい

わ」奥さまはそれからほんのしばらく考えているようだったが、ちょっと決心

したような風にRikoの方に向き直った。


            


 「実はお隣のお部屋が空いているのよ。もう1年以上ずっとね、真ん中の部

屋だし、古いから仕方ないけど、この先、誰も入らないのにクロスも床も張り

替えるのももったいないかな~って、ずっと躊躇してたのよ。狭いから入らな

いなら、二部屋の続き部屋にしてもいいかなとも思ってたら、あなたが入って

来たの。それなら、あなたのお部屋との間の壁の一部を開けるから、あなた二

部屋借りない?ベッドとは反対の向きだからカーテンには影響ないと思うし。

床はこちらで張り替えるから、他はどんな風にやってもいいわよ。そしたら、

お部屋、広くなるでしょ?ほら、リビングもできるし」


            


 「えっ、そんなこと…、」「いえ、いいのよ。もう古いアパートだから、

住んでもらえるなら、それでいいの。お家賃5千円UPでいかが?」「えっ、

5千円でいいんですか?」「あなたがよければ、私たちは喜んで」「5千円で

お部屋が2倍になるんですか?」「あなたがよければね」


            


 奥さまはテーブルの上から、躊躇しているRikoに右手を出した。Riko

は慌てて、手のひらをシャツで拭くと、右手を出した。「それじゃ、契約成立

ね!どんな風になるのか私も楽しみだわ」「ありがとうございます。実は、

もう一部屋あったらな~と思っていたんです。なんだか、わくわくしてきまし

た。あの~」Rikoはすっと立ち上がった。「今日はたくさんごちそうにな

りました。これからすぐに2部屋目のプランニングを始めたいです」


           


 「どうぞ、ああ、もしも必要なら、お隣の部屋の鍵、いつでも借りにいらし

てね」Rikoはお辞儀をすると、ポットを持って急いで大家さんの玄関を出た。


            


 「♪2倍、2倍、私の部屋が2倍になる、わたしの世界が2倍になる~こ

れって、運命の分岐点?もしかして♪」Rikoは変な節をつけて歌を歌い

ながら、そっとアパートの階段を上った





   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  「運命の分岐点」それは日常にある廊下の先の曲がり角ほどのものですね。
     問題は気づくかどうか…

p.s. 2  インスタグラム始めました。
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年11月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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