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リサコラム
連載688回
      本日のオードブル

あるデザイナーの夢

第9話

「風穴」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



白い螺旋の
模様のある
紫を帯びた
濃紺の絨毯
優雅な
カーテンは
アールデコ調
白いテーブルクロスに
イニシャル刺繍入りの椅子
天井のクロスは絨毯と
合わせたデザイン
さてと、
壁の向こうに見えるのは
なんだか素敵なベッドルーム
全部オリジナルのようですね。



 







        

第9話「風穴」





  「YuriとRikoの2人のチームは午前8時からの清掃の仕事もお昼

もほぼ終わり、あとは庭の清掃だけ残すのみになり、近所の公園の木のベンチ

に腰掛けて、お弁当を広げていた。しかし、Yuriはほとんどしゃべること

なく、スマホの表面を撫でながら無言で昼食を終えようとしていた。


           


 「なんだか、最近、変よね」と同僚のYuriが空を見上げながらぼそりと

言った。小春日和のポカポカ陽気にちょっと雲行きがあやしくなったのかと、

Rikoも空を仰いだ。


            


 「そうじゃなくて、Riko、最近、変ったよね?」「えっ?」Rikoは

Yuriの意図がわからなかった。「変ったよ~」Yuriは自信ありげな声

色でRikoの肩に人差し指を立てると、首をかしげて少し意味あり気に笑っ

た。


            


 「えっ?私のこと?」「もち!」「え~、変ったって、どこが?」Yuri

は、ふふふと笑うと、「彼氏ができたとか?」とRikoの顔を覗こんだ。

Rikoはその瞳の中にあ然とした間抜けな2つの顔を見た。「いやいや、

そんなことじゃないよ」Rikoは両手を交互に降りながら少し後ろにのけ

ぞりながら小さく笑った。しかし、Yuriは片方の眉をぴくりと上げて、

「それじゃ、なあに?」とまた意味ありげに問いただすと、弁当箱のふたの

ロックをパタンパタンと締めた。


            


 「あっ、そうだ、コーヒー、飲む?」Rikoは自分の水筒ふたのカップを

外して次ぐと、Yuriに手渡した。「サンキュー!」「あっ、熱いよ」「ホン

トだ、熱い!」「これ、最近買ったポットでね、25時間冷めないやつなの」

「へ~そう」Rikoはごまかしたいわけではなかったが、Yuriに自分の

最近の変化を悟られたことに内心とても驚いていた。


            


 「彼氏じゃなければ、何?」RikoはYuriの詰問に戸惑いながらも、

コーヒーをゆっくり口に含むと、その間に返事を考えようと思った。自分が前

と違うというYuriの直観は確かだろう。しかし、女性というものは、つく

づくは侮れないものだと思った。


           


 「そんな特別なことじゃないけど、家をリフォームしてね」「リフォーム?

だって、Riko、賃貸アパートよね」「うん。そうだけど、大家さんがとて

もいい方で、私の希望をいろいろ聞いてくれるの」「だって、賃貸でしょ?」

「そう、すごく古い賃貸、築40年くらいのね。だから、私がきれいにする分

にはいいそうなの」「へ~そう。見せてよ、写真、あるんでしょ?SNSでも

見れる?」「いや、そんなのやってないよ。恥ずかしいし」「でも、実際、

最近のRiko、前と全然違うよ。仕事に熱、入ってるし、床磨きなんて、敵

みたいにごしごしやっているから。それに早いしね~。どうしたのかなって。

なんかいいことがあったんじゃないかって、みんな噂してるよ」「みんな?」

「だって、全然違うもん」「そんなに?違うかな?」「違う、違う、全然違う」

「え~そうなか~?」Rikoは面食らってうつむいた。


            


 「ねえ、部屋、見せてよ~」Yuriはちょっと甘えるような声を出した。

「いいよ」Rikoはあっさり言った。「えつ?ほんと?」今度はYuriが

不思議な顔をした。「ほんとにいいの?」「いいよ。この仕事終わったら」

「今日、ってこと?」「うん。いいよ」Rikoはこともなげに言うと、

「ええと、ちょっと待って、今日はね…」」Yuriはまたスマホの画面を撫

で始めた。


            


 「ごめん、今日は予定入ってるから、来週はどう?」「来週の、土曜日って

こと?」「そうね」Yuriは相変わらず、スマホの画面から目を離さないで

言った。「ああ、ごめん、来週もダメだ」「そう、」Rikoの微かな落胆が

Yuriに伝わったらしくYuriは、またスマホを触りながら、「ああ、

今日、大丈夫そう。今、メッセージ送って、遅らせたから」「そう。それじゃ、

ぜひ。会社から自転車で10分くらいだから、きっとYuriちゃんの家にも

そのくらいで帰れると思うよ」「わかった」「でも、いいの、突然行っても」

「いいよ」Rikoはうっとりした表情でYuriの顔を見た。


            


 「そんなに素敵なんだね~」「そんなにってことはないけど、自分で縫ったり

貼ったりしただけよ、素人リフォームなの、期待しないで」Rikoはすっと

立ち上がると二人は前庭と中庭に分かれて掃除を始めた。


            


 およそ20分後、庭掃除を終えた二人はKカーで事務所に戻り、それぞれの

自転車でRikoのアパートに向かった。


            


 二人は田んぼ道に来ると並んで自転車をこいだ。「ねえ、どんな風にリフォー

ムしたの?」Yuriは早速、Rikoに向かって言った。「ふふふ、たいした

ことないよ」「え~、ちょっとだけ教えてよ。ベッド買ったの?ソファ?」

「どっちも買ってないよ。私ができる限りのことやっただけだから、すごく低

予算の、リフォームってとこかな?」「ふ~ん」Yuriは不思議そうに返事

をした。


            


 二人はRikoの玄関までやってくると、Rikoが鍵を開け、Yuriを

先に部屋の中に入れた。RikoはYuriの反応を見たかった。


            


 Yuriは、大家さんの奥さまの時とは違って、「きゃ~」と大きな叫び声

を上げると、両手で顔を覆った。Yuriは白いテーブルクロスのかかったテ

ーブルをまるで珍しいものを見るような目でぐるりと周囲を回った。そして、

窓のアールデコ調のカーテンをそっと触ると、「これ、高いでしょ?」と言っ

た。「生地はね。だから、自分で縫ったの。テーブルクロスも、椅子のカバー

もね、壁の絵も私が描いたものなの」Yuriはひとつひとつをじっくり見な

がら、「うそ~!」を連発した。そして、部屋の中の開口部に気づくと、そこ

から覗くように向こうを見た。


            


 「えつ、向こう、あるの?どうなってるの?」「ああ、大家さんの奥さまが

ね、お隣の部屋が1年以上入らないから二部屋につなげようかと思っておられ

たらしくてね、それで、壁の一部を開けて開口部を作ってくださったのよ。

だから、こちらはリビングで向こうはベッドルームなの。一つの部屋は1か月、

5
千円で借りてるのよ。床も張り替えてもらったのに」「え~、5千円でコネ

クティングルームなの?それに、これどうなっちゃってるの?」Yuriは天

蓋カーテンの下がるベッドの前で佇んだ。「まるで、お城じゃない?うちのお

客様のお宅よりすごいよ~」「お金かかってないのよ。でも、私にはこれが精

いっぱい。毎月支払えるか、ちょっと心配だけどね。学校の課題もお金かか

るしね」「こんな古いアパートでも、こんなこと、できるのね。すごいとしか

言いようがないわ。ベッドルームはマリーアントワネットみたいだし、リビン

グは高級ホテルのレストランみたいだし、築40年?とても信じらんない!」

Yuriはずっと顔を両手で挟んだままで、二つの部屋を行ったり来たりした。


            


 「実は、最近、Rikoがきれいになったって、前と全然ちがって、生き生

きしてるって噂してたの。だからなんかいいことがあったんだと思ってはいた

んだけど、…」Yuriはカーテンを触りながらため息をついた。「私、人

さまのお家を掃除してきれいにするのは、仕事だからやってたの。もちろんお

金のためにね、でもね~…」それだけ言うと、Yuriはショルダーバッグを

肩に背負って玄関ドアを押した。


            


 「じゃあね、」「ああ、ごめんなさい。予定あったんだよね、ごめんね、遠

回りさせてしまって」Yuriは一言、「いや」とだけ言った。「私も帰って

掃除したくなったの。じぁあね!」Yuriはそう言うと、ろうかを走りスチ

ールの階段の音を響かせて、自転車に飛び乗った。2階の廊下からRikoは

手を降ったが、Yuriの自転車はあっという間に居なくなった。




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  「風穴を開ける」とはよく言ったものですね。
    部屋と部屋がつながると空間だけでなく、
    気持ちにも大きな風穴が開くようです。

p.s. 2  インスタグラム始めました。
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年11月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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