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リサコラム
連載689回
      本日のオードブル

あるデザイナーの夢

第10話

「オンナ心」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




丸く膨らんだ柱のバルコニー越しに
木漏れ日の美しい庭が見える寝室
黄緑のベルベットカーテンが
2重に掛かる美しい窓辺に
ダブルサイズのベッド
ベージュのシフォン
レースのカーテン
パステルカラーの
クッションが6個
心地よさは十分
満足感もきっと十二分



 







        

第10話 「オンナ心」




  「そんなこと、心配しなくていいよ」チーフはRikoの前で大仰に両手

を振った。


            



 「そうでしょうか?」「ああ、それより、お先に!」チーフはそれだけ言う

と、さっさとKカーに乗り込んで仕事場に向けて走り去った。Rikoはため息

の代わりに深呼吸をした。


 Rikoが自分の部屋に同僚のYuriを招き入れてから1週間、Yuri

は体調を崩して欠勤が続いていた。そのため、親子ほども年齢の差があるYu

koさんと組んでいつものお宅に2度目の清掃に行くことになった。Riko

はその年齢差ゆえか、どうもうまくゆかない気がしていた。Rikoから見る

とYukoさんはRikoのやり方が全く気に入らないように思えた。Rik

oは精いっぱいやっているつもりではあったが、それでも事細かに、細部にわ

たり指摘を受けた。Yukoさんは寝室の清掃の最後で、Rikoのカーテン

の束ね方に注意をした。


            


 「カーテンはね、束ね方で見え方が全然違うのよ」Rikoはわけがわから

ず黙って、窓から離れた。Yukoさんは窓のそばの床に両膝をついて、カー

テンのヒダの取りをやり直し始めた。


 「まずはこうして裾を持ってパタパタと伸ばしてから、そして、カーテンの

上の方、吊元をじっと見ながら、ドレープのひだ山の通りに畳んでゆくのよ。

均等にね。自分の指先に神経を行き届かせて、こんな風に…」ひだに添ってた

たまれたカーテンは、すとんとすとんとYukoさんの白い手袋の中に吸い込

まれるように納まってゆく。「そして、きれいに束ねたところで、こうしてタ

ッセルで留めるの、」Yukoさんは片手でカーテンの束を持ちながら、タッ

セルを回すとタッセルの先端のひもをタッセル掛けに掛けた。


             


 「ああ、きれいですね!」Rikoはため息をついた。「まだまだ、これか

らよ。ここまでは誰でもできる。問題はここから先。束ねたカーテンをすこぅ

しずつ手前から弧を描くように持ち出してゆくのよ。そうしてきれいなカーブ

を描くように調整するのよ」Yukoさんの手は、まるで生まれたての赤ちゃ

んを手の中で抱くように、慎重に優しく束ねたカーテンにカーブを作って行っ

た。


             


 「あなたもやってみる?」「ああ、はい」「それじゃ、向こうの窓で同じよ

うにしてみて」Rikoはすぐに反対の窓に寄って、先ほどYukoさんに言

われたようにやってみたが、案の定、うまく束ねることさえできなかった。


             


 「すみません。上手にできなくて」Rikoは何度もやり直しながら、焦り

が汗になった。「わかった。もういいわ。まあ、最初だから私が替わるわね」

RikoはYukoさんに場所を譲ると、斜めの位置に膝をついて、じっと手

元を観察した。


            


 「すばらしいですね。カーテンがYukoさんの思うがままみたい!」

「年季が入っているだけよ。みんな練習すれば上手になるから」そう言いなが

らもYukoさんはあっという間に、カーテンの美しいドレープを作り上げ、

そして左右の合わせ部分に見事なカーブを作り出した。


            


 「あの、このくらいできるようになるには何年くらいかかるんでしょう?」

「何年ってことはないけど、あなたも家のカーテンで練習すればいいのよ。

毎日、カーテンを開けたらこうしてドレープを作って束ねて、カーブを作って、

タッセルをかける、これを習慣にすれば、ほら、家のカーテンだって、美しく

なるでしょ」「なるほど、家で練習がてらやればいいんですね」「まあ、そ

ういうことね」Yukoさん指さし確認をすると、すっと立ち上がった。

Rikoも立ち上がった。


            


 YukoさんはRikoをちらっと見て、「立ち上がるときにね、『どっこ

いしょ』みたいな感じはきれいじゃないわよ。あなたは若いんだからもっと

スマートな立ち振る舞いをしなくちゃダメよ!」「ああ、申し訳ありません」

Rikoは素直に頭を下げた。「私に謝る必要はないけど、お宅のお客様に見

られたら、いかにも重労働をさせられるみたいな嫌味な感じを与えてしまう

ものよ。自分ではそんな気はなくてもね。そんな立ち振る舞いまでの細かな部

分にも気を配れるようになって、初めてプロの仕事っていえるものだから」

「はい。勉強になります」Rikoはまた素直に頭を下げた。そして二人はあ

とずさりをしながら寝室を出ると、勝手口で挨拶して、裏庭を通って外に出た。


             


 手入れの行き届いた美しい庭の樹木は初冬の少しピリッとした空気の中で、

いっそうフレッシュに鮮烈に見えた。二人はきらめく木漏れ日を浴びながら庭

の心地よい小径を歩きながら話を続けた。


             


 「Rikoさん、あなたのお家、お城みたいにきれいらしいわね。Yuri

さんから聞いたけど」Rikoはびっくりしたが、うれしさでほほが緩んだ。

「いえ、そんな、お城だなんて。だって賃貸アパートですよ。築40年の」

「それなら、なおのこと、すごいわ。自分でカーテンも縫ったんだってね。

素晴らしいじゃない」「結構、いい生地を買ったんですが、オーダーまでは

できなくて、四苦八苦して、自分で仕立てました。出来栄えは自慢できませ

んけど」「謙遜しなくてもいいのよ。でも、その気持ち、とてもよくわかるか

ら。だって、あの有名なデザイナーさんのお宅に行ったらね自分の部屋もきれ

いにしたくなるもの無理はないわ」


             


 「ええ、私、すごく影響受けちゃって、それで、できる範囲でリフォームを

したんです。そしたら大家さんの奥さまが見に来られて、何か言われるんじゃ

ないかって心配していたら、その反対にとても感動してくださって、その上、

隣の空き部屋と私の部屋をコネクティングルーム、って言うのか、続き部屋に

までしてくださったんです。もう、感謝感激っていうか、いきなり私の障害物

が一つなくなったみたいで…」Rikoは夢中になって自分のリフォームの様

子をYukoに話し出した。今まで怖い小姑的存在だったYukoさんとやっ

と打ち解けたことに嬉しさを感じながら。


 「ああ、Yukoさん、すみません。私、自分のことばかりペラペラしゃ

べっちゃって」Yukoさんは駐車場までの2、3分の道のりを黙ってうなず

きながらRikoの話を聞いていたが、やっと穏やかな口調で話し始めた。


             


 「実はね、私もあなたとほぼ同じような道のりを辿ってきたのよ。お客様の

素敵なお部屋に影響を受けて、自分の部屋をまずはきれいにして、それから家

中大改装してね、信じられないかもしれないけど、今では、友人たちからは、

Yuko宮殿って言われているのよ」「そう、なんですか!」Rikoは驚い

た。「私たちの行くお宅はどこも素敵なお宅ばっかりでしょ、そこをさらに私

たちがいつも磨き上げて、なのに、自分の部屋は忙しさにかまけてないがしろ

なんて、おんなじ女どうしで、なんか、悲しすぎるじゃないの…」Yukoさ

んはそう言うと助手席に乗り込んだ。Rikoは慌ててそのドアを静かに閉めた。


            


 Rikoもすぐに運転席に座ると、Yuriさんは「さあ、もう一軒よ!」

とRikoを促した。「だからね、チーフも言ってたみたいに心配しなくてい

いのよ、Yuriさんのこと。あなたが自分の部屋を見せたから、関係がギク

シャクしたわけでも、体調悪いわけじゃなくてね。きっと今頃、必死になって

家中、かたづけて、掃除して、そして部屋を宮殿化しているはずだから、そう

でないと、あなたの顔を見るのもつらいのよ、きっと」「そう、なんでしょ


            


うか?」Yukoさんはそれには答えず、黙って微笑んだ。


 Rikoは自分だけじゃないんだという、うれしいような、しかし、得体の

知れないジャラシーのようなものがちょっぴり首をもたげてきて、ちょっと

フクザツな女心を抱えてハンドルをきった




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
    男性は勘違いするようですが、
    おんな心はマイナスのジェラシーではなく
    実にプラスのライバル心です。

p.s. 2  インスタグラム始めました。
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年12月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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