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リサコラム
連載690回
      本日のオードブル

あるデザイナーの夢

第11話

「伝染病はマカロンの香り」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



やや
ピンク
勝ちの
ピンクと白の
ベッドルームには
青みがかった黄緑が
お似合いです。
マカロンの
ような
クッション
美しく甘く
ちょっぴりな塩気もある
大人かわいいお部屋です。



 







        

第11話 「伝染病はマカロンの香り」




  「Rikoの同僚のYuriは2週間ほど休んだ後、仕事に復帰してきた。

その朝のミーティングの最後でYuriは深々と頭を下げてから詫びてから、

「また、今日から通常のローテーションに加わりますので、どうかよろしく

お願いいたします」と言って頭を下げた。その表情は以前のYuriとはどこ

となく違い、その瞳にはきらめきがあった。


            


 スタッフはみなそれぞれに「よろしくお願いいたします」とRikoに言

葉をかけると朝のミーティングは終了し、いつも通り、2人か3人のチーム

になり、それぞれの職場であるお客様のお宅へ向けてKカーを発進させた。


            


 YuriとRikoのチームも2週間ぶりに再結成され、またいつも通り、

Rikoがハンドルを握り、Yuriが助手席に座った。


            


 「Yuriちゃん、元気そうでよかった」まずはRikoが口火を切った。

「ほんと、ごめんね。こんなに長く休みつもりじゃなかったんだけど…やっ

と体調も戻って。いろいろあったけど」「いろいろって?ご家族のこと?」

Rikoはそれとなく探りを入れようと誘導尋問を開始した。「いや、そん

なことじゃないけど、いろいろ考えてね」「ふ~ん、それで?」Rikoはな

んとか聞き出そうとした。「まあ、いろいろ考えて、私なりに結論は出たか

な…」それからYuriもRikoも少し気まずいムードで黙った。


            


 そのうち、今日の仕事場の一軒の家にやって来た。ガレージに車を停める

と、預かっている鍵で勝手口を開けて中に入った。


 築50年以上のこの和風の大きな家は、家族の変遷と共にリフォームを繰

り返したが、今では女主人のひとりの広すぎる家となり、清掃の依頼が来た

時は、家の中はかなりひどい状態になっていた。


            


 そしてこの家を担当することになったYuriとRikoの二人は、輝き

を失っていた床を磨き上げ、水回りに輝きを復活させ、そして庭木にまで息

を吹き込み、押し入れやクローゼットに散乱した衣類や不用品を整理、処分

した。そのおかげで、1年前とは見違えるほどに美しい邸宅に戻りつつあっ

た。


            


 Yuriがシンク周りを磨き、床に雑巾がけをして、キッチンと水回りの

清掃を終えたところに、リビングと寝室、その他の部屋の清掃を終えたRi

koが、「手伝いに来たよ!」と声をかけに来た。Yuriは「サンキュー、

でも、もう終わったから大丈夫。休憩する?」と、にこっと笑った。「あと、

庭掃除だけだから、私はもうひと頑張りしてもいいけど。もし、Rikoが

しんどくなければね」とハリのある声で続けた。Rikoはびっくりした。

いつも、「疲れた~休憩しようよ!」と言い出すYuriが長いブランク明

けなのに、もぎたての桃のようなみずみずしい表情で全く疲れを見せていな

かったからだ。


           


 二人は庭に出ると箒で落ち葉をかき集め、水を撒いた。そして二人がかり

10分ほどで庭仕事を終了させた。清掃が完了すると、いつも通り、すぐ近

くの公園のベンチに座って、お弁当を膝の上に乗せて食べ始めた。


            


 Rikoは普段から無口だが、いつもはスマホの画面から目を離さない

Yuriが今日はそれも見ずに黙って食事をしている。RikoはYuri

にもう少し突っ込んで質問をしてみようと思った。


            


 「ねえ、実際はどうしてたの?大丈夫なの?」Rikoは少し緊張気味に

Yuriの顔を見た。Yuriは「へへへ」と言うなり笑い始めた。ひとし

きり笑ったあとで、涙を拭くと、「これって、デジャブ?私が休む前、Ri

koをからかったよね。なんか変だから、彼氏できたの?って」そう言うと

またYuriは笑い出した。


            


 「実はね、これ、」YuriはRikoに自分のスマホを突き付けた。

Rikoは差し出されたスマホの画面の画像をスクロールした。「何?これ、

ホテル?どっか行ってたの?ヨーロッパ?パリ?」Rikoはピンク勝ちな

白いベッドのあるかわいい部屋をじっと眺めた。「ううん、別にどこも行っ

てないよ。病気だったんだもん」「それじゃ、ここは?」「まま、ある意味、

私の病院かな?クリニックと言うのか、オアシスっていうのか…」Riko

は白いベッドカバーのかかったベッドとその上のふわふわしたピンク色の濃

淡のまるいクッション、そしてその背後のピンク色のアーティスティックな

壁を見ながら、思わず「わ~きれい!」と数回、高い声を上げた。次第に

Rikoの心臓はどくどくと高く音を立て始めた。それは大家さんがRik

oの部屋にやって来た時と同じ感覚だとRikoは気づいて、右手を左胸に

当てた。


            


 「もしかして、ここ、Yuriの部屋なの?」Rikoの声はわずかに震

えていたが、「う、うん」とだけ言ったYuriの声も震えていた。Rik

oはまたじっと画面を見続けた。


            


 「熱い紅茶あるよ」Yuriは、持ってきたポットから熱々の紅茶をカップ

に注ぎ、Rikoに手渡した。「あら、ありがとう」いつもRikoの役目

だった食後のコーヒーや紅茶を今日は珍しいことにYuriが持って来てく

れたことにRikoは少なからず驚いた。


            


 「マカロンもあるよ」Yuriはちょっと照れながらもRikoに数個の

色とりどりのお菓子を手渡した。「珍しいでしょ。お団子派のこの私がね。

実はね、Rikoの家を出てすぐに自分の部屋を精いっぱい掃除したの。

そしたら、もっときれいにしたくなって、Rikoみたいに。だから、

壁紙とか、ベッドとかカーテンとか変えたのよ。私は、全部自分じゃでき

ないから、専門家にやってもらったんだけど。そしたら、こんなかわいい

部屋になっちゃって、私、もう、びっくり。そしたら、ここで過ごす時間っ

ていうの?そんなのがすごく気分がいいことがわかったのよ。それに、この

部屋でお茶するなら、お団子より、マカロンって感じがしてきてね、

はははは…こんな病気になるなんて思ってもみなかったんだけど、まあ、

伝染病の一種ね」


            


 「伝染病?」「うん、Rikoから移った伝染病よ。これって、伝染性が

強いよね~。だって一瞬にして、人間を行動的にするんだから。まあ、名づ

けて、『お部屋きれい、きれい病』っていうのかな?きれいするのが止まら

ないって感じよ」Yuriはカラカラと笑った後で、「私、お客様のお宅を

ずっときれいにしてきたのに、やっと今頃、自分の部屋をきれいにしたら気

分いい言ってことに気づくなんて、ほんと、私って、ばかよね」と自嘲的に

言った。


            


 それからマカロンを口に含むと、「でも、気づかせてくれて、ありがとう」

とRikoの顔は見ずにぼそりとつぶやいた




   


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
    きれいきれい病、ほんとに強い伝染力あります。

p.s. 2  インスタグラム始めました。
    私の部屋ばかりで、つまらないかもしれませんが。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年12月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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