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リサコラム
連載693回
      本日のオードブル

あるデザイナーの夢

第14話

「クッキー缶の部屋」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




壁は
ラベンダー
ナイトテーブルは
チャコールグレー
ブルーベースに金糸の
ヘッドボードカバーと
ボルドー色のクッション
モーブ色のピロケース
グレイッシュなベージュ色
のモダンなアームチェア
ピンクベージュの絨毯が
敷き詰められたシックな
ホテルのようお部屋
どんなセンスを
持つ人が
どんな風に
住んでいるの
でしょうか?
気になります。




 







        

第14話 「クッキー缶の部屋」




  「ねえ、どう思う?わたし、あまりに、ずうずうしかった?」Rikoは

有名デザイナーのSariに、『自分の部屋に遊び来てください』などとメッ

セージを送ったことを同僚のYuriに手短に説明した。その後で、じっと

Yuriの反応を待った。


            


 Yuriは腕組みをして聞いていたが、「ふん!」と鼻から息を吐き出すと、

Rikoに真剣な顔を向けた。しかし、すぐにその表情を崩すと、「いいんじ

ゃない?何言っても自由だから!」と軽く言い放ち、それからおなかを押さえ

てくすくすと笑った。そして笑いながら、「だって、相手は有名人でしょ?そ

んなお誘いなんて、やンまのように来るわよ~」とまた笑った。Yuriは笑い

がやっと収まると涙を拭きながら、お弁当箱をパンと閉じて、「さあ、お茶の

時間よ」とRikoを促した。そして自分のバッグからごそごそと何かを取り

出した。


             


 「こっちは有名シェフのチョコレートクッキーで~す。まあ関係ないけどね」

「へ~、すてき、おいしそうじゃない!」Rikoは長方形のスチールのクッ

キーの缶を眺めた。「なんでわかるの?おいしそうって」「だって、おしゃれ

な部屋の絵が描いてあるから、きっとこんな部屋のイメージがこのお菓子なん

でしょ?」Rikoは部屋の絵が描かれた缶のつるつるつした表面を手で撫

でた。


 「へ~、そんなことおっしゃって、Rikoさまったらどうしたの?花より

団子だった人が、変われば変わるものね~。でも、さすがに、Rikoもデザ

イナーのはしくれってことか!」「えっ?そう思う?お世辞でもうれしい~!」

RikoはYuriが缶の周りの透明テープをぐるっと外している間もじっと

その絵にこびりつくような視線を置いていた。


           


 「そんなにこの部屋、好きなの?」「だって、カッコイイじゃない」

「そうお?どこが?」Yuriが缶を開いて美しく並んだクッキーをRiko

に見せたが、Rikoはふたを持ってままで、その絵の中にミニチュアの自分

自身を探すかのようにじっと眺めた。


 「ほら、早く選んでよ。時間なくなるから」Yuriは缶でRikoの腕を

押した。「いいわね、こんな部屋も。今度はこんな風に変えようかな?」

YuriはらちがあかないRikoの膝の上に、3、4個のクッキーの小袋を

投げるように置くと、「ほら、コーヒー担当さん、もういい加減にしてよ!」

と冗談めかして怒ってみせた。


            


 「ああ、ごめん。ごめん。コーヒーね、あるわよ」Rikoは自分の鞄の中

から水筒を出すと、蓋にコーヒーを注いで、まずYuriに渡し、それから自

分用を注いでから黙ってクッキーの袋を開けた。そして口に入れた途端、

「おいしいわ~!」と小さく叫んだ。


            


 「でしょ?フランスで星を取ったシェフがね、最近、近所にお店を開いたら

しいのよ」「えっ?ということは、そのシェフさんて、女性でしょ?」「どう

してそんなことわかるの?」「だって、こんな素敵な部屋に住んでいるんでし

ょ?そのシェフさんのお部屋じゃないの?」「そうかな?絵とは関係ないと思

うよ」Yuriは不思議そうな顔でRikoをちらっと見ると、クッキーをほ

うばり、急いでコーヒーで流し込んだ。そしてまだもぐもぐさせながら、

「さあ、時間だよ!」とRikoの肩をポンとたたいた。「わかった。でも、

この部屋、とっても気になる。だって、初めて自分のお店を出したシェフがク

ッキー缶にこんな絵を描くってことはよ、パリかどっかでしょ、きっとこんな

部屋に住んでるのよ…」


 「かもね。でもさ、」YuriはRikoから缶のふたを奪還すると、

「わたし、こんなダークな色の部屋、あんまり好みじゃないな。それより、自

分の部屋の方が絶対素敵だと思うな~」そう言うと、カタンとふたを閉じて

クッキー缶を自分の鞄に戻した。Rikoはそう言ったYuriの横顔をちら

っと覗くとにっこり笑った。


            


 「わかる、わかる、その気持ち。わたしもよ。リフォームってほどじゃない

けど、古い賃貸アパートだからね、でも、自分でカーテン縫って、クッション

カバー縫って、それで友人にね、ベランダの鉄の柱にパルテノン神殿みたいな

白いかぶせ式のフェイク柱を作ってもらったらね、なんだか、ほんとに自分の

部屋が神殿じゃないかって思えて来て、すっごく気分が上がるって言うのか、

仕事してるときも、学校でもよ、思い出してニタニタ笑っちゃうのよね~、な

んだかワクワクワクワクってしてきて、そんな高揚感がとまらなくなる感じな

んだよね~」Rikoは両手を重ねて胸の上に置くと、薄く目をつぶった。


            


 「さあ、お立ちになって、Rikoさま、お時間ですよ」Yuriは微笑み

ながらRikoに手を差し出すと、「私だって、わかるわよ」と言ってから、

Rikoを無理やり立たせると、「私だって、Rikoが畏れ多くもあんな有

名人に堂々と自分の部屋に遊びに来てって言った気持ち、よ~くわかる。誰に

だって言いたくなるんだよね。それがたまたま有名人だったてだけでしょ?。

でもね、冷静に考えてみると、立場上、ちょっと言い過ぎだったかもね」その

YuriのセリフにRikoの表情が一瞬で曇った。


            


 「ああ、やっぱり、それがYuriの本音?やっぱりそう思う?」Riko

はYuriに懇願の表情で尋ねたが、Yuriは無言で公園の出口に向かって

急ぎ足で先を歩いて行った。Rikoも小走りに後ろをついて行くと、

「ねえ、やっぱり、私って恥知らずだった?あんなすごいお部屋に住んでる有

名人に、畏れ多くも、『遊びに来ていただけませんか?』なんてね、しかも、

お客様なのに…ああ、どうしよう?」とYuriにたたみかけた。


            


 「大丈夫だって、ジョークよ」YuriはRikoに振り向くと、また笑い

ながら、「さっきも言ったけど、あんな人たちって、そんなお誘いばっかなん

だから、気にすることないよ!」と言ってさらに先を急いだ。Rikoはまた

小走りにYuriに追いつくと、「パーティとかなんとかってことでしょ?

でも、そんなパーティをするお宅は豪邸に決まっているし、それなのに、私

ったら、やっぱり、よっぽどの恥知らずって思われるよね、どうしよう?」

Rikoは両手に顔をうずめるように覆うと、立ち止まってから、大きなため

息をついた。右手にはしっかりとスマホを持ったままで。


            


 「だからさ、そんなことないって。受け流してくださるわよ」「そうかな?」

「もちろん。『いつかそのうちお邪魔しますね』みたいな感じでさ」「まあ、

そうかもね。家に遊びに来てっていう人たち、たくさんいるわよね、世界で

活躍する有名人なんだから」Rikoはやっと開き直った感じで顔を赤らめた。


 「さあ、もう、忘れようよ。次のクライアントが私たち救世主を待っていら

っしゃるんだから!」Yuriはしっかりとスマホを持ったまま手放さない

Rikoの背中をポンとたたくと、走るようにと急き立てた。そして二人はバ

タバタとKカーに乗り込むと、Rikoは次のお宅に向かってハンドルを切っ

た。そして二人は無言のままで住宅地の中をくるくると抜けた。


            


 10分ほどたった頃、「リン」とメッセージの到着を知らせる音が鳴った。

「あっ、きっとSariさんだ!ねえ、読んで、読んで!」Rikoは前を見

たままで、助手席のYuriに叫んだ。「わかった、わかった、ええと~」

「ねえ、なんて書いてある?読んで!」「わかった。ちょっと待っててよ」

「間違って消したりしないでよ。どんなことが書いてあっても私、平気だか

らね」


            


 Yuriはスマホの画面を顔に近づけてから、「へへへ」と言うと、笑い出

した。「やっぱり、予想通り?」Rikoはただ笑い続けるYuriを気にし

ながら、曇りの空の下でグレーに霞んだ山を右手に見ながら、先を急いだ




  


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
    銀座のウエストのクッキー缶をよくクリスマスに頂くのですが、
   工場スタッフにもおすそ分けした後も缶だけ戻してもらっています。


p.s. 2  インスタグラム始めました。
    私の日常、ただし、自宅がメインです。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年1月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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