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リサコラム
連載694回
      本日のオードブル

あるデザイナーの夢

第15話 最終的

「ノックが4つ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ドレープカーテン
コーディネートした
アイスラベンダー色の
ふかふかした絨毯
ブルーのパソコン
ココア色の肘掛け椅子
落ち着いた
木目調のアートな壁と
ピンクベージュのデスクのある
書斎で、先生と呼ばれる人が
振り返る10年間は
しっとりとして
そして
少しの
ジェラシーも。




 







        

 第15話 最終回 「ノックが4つ」




  「『こんにちは。お元気でいらっしゃいますか?ご活躍はかねがね伺っ

ておりますし、先生のことはすべて把握していると思っております。SNS

欠かさずすべて拝見いたしておりますし、インタビュー記事も、海外のメディ

アの取材記事もすべて読んでおります。実は今回の採用面接あたり、ぜひ私も

加えていただきたく、ご連絡をいたしました。つきましては、履歴書と職務経

歴書をお送りいたします。また、私のインスタとFacebookは下記のリンク

より…』というメッセージがまた届いています。同じ人物です。これで4回

目です。先生、どういたしますか?」iPhoneから聞こえてきた少々のとげの

ある声は秘書のアイで、続けて、「今、そちらに参ります」とコンパクトに

答えた。


            


 「コンコンコンコン」、ドアを4回ノックする音が聞こえた後、およそ10

秒後にゆっくりと部屋のドアが開いた。「まった、同じ方からの面接の依頼

ですよ」「どういうことかしら?」「どういうことか、というより、どうゆう

つもりなのかと聞いたほうがいいでしょう」「何かの間違い?」「おそらく間

違いではないと思います。先生のファンと言うより、ストーカーと言った方が

いいと思いますが。まあ、先生、自業自得でもありますね。私が思いますには。

それは、先生が先月のMODE誌のインタビュー記事で『ここ最近、仕事が多

くて、手が足りずに困っているみたいなことをおっしゃっておられますから。

そんなものを読んだストーカーもどきのファンなら、ぜひ、自分が先生の助

けにならなくちゃと、勝手に思い込むものですよ。でもまあ、先生がほんとに

アシスタントを入れられるというのでしたら、私は別に反対はしません。

しかし…』アイのほほにはラベンダー色のジェラシーが浮かんでいた。


            


 「あなたの代わりができるような人はいないわよ」先生はすかさず、そのラベ

ンダー色のほほに答えた。


 「そんな意味ではありませんが、私が申し上げたいのは、先生のブランドイ

メージをUPができるようなスタッフならいいですけど、という意味です。自

己中心的人物じゃなくて、」「そんな感じはしないけど、私はね。会ってみる

かしら?」「ほんとですか、先生?一方的に向こうから言ってきたんですよ」

「もちろん、自己中心的なところもあるかもしれないけど、でも、」「でも、

問題はですね、何と言っても先生は断るのが苦手なところですよ。これまでも

断った仕事なんて、一つもありませんよ。それでご自分をぎりぎり迄追い込ん

でおられるのですから、」アイはぷんぷんした顔でまた腕組みを組み直した。

「頼まれた仕事もそうですが、人を断るなんてこと、先生には絶対に出来ま

せんよ」


            


 「わかった。わかったわ、アイちゃん。でもね、会う前からマイナスのこと

を考えるのは、被害者意識よ。被害者意識が私は一番嫌なのよ。私は常に前向

きに、肯定的にね…」アイはピンクベージュ色のふかふかした絨毯の上にさら

にもう一歩足踏み出した。


             


 「先生、そんな弱気の受け身じゃ、この厳しい世界では生き残れないのでは

ありませんか?」アイはピンヒールの次のさらなる一歩をたたきつけるように

絨毯の上に置いた。しかし、残念ながらふかふかの絨毯の毛並みにはインパク

トはなかった。


            


 「それはわかるけど、でも、会うからには採用する覚悟をしなくちゃね。だっ

て相手だって自分に不足はないって思っているから言って来ているんだから」

長身のアイは腕組みをするとさらに威風堂々と見えた。それからふっと息を吐

いた。


            


 「わかりました。先生。それではお会いになるのですね?いいですか?ほ

んとに」と、きりっとした表情にさらに精悍さを加えた。そして先生が黙って

うなずくのを見届けるとアイはドアノブに手をかけた。「それでは、私から連

絡しておきます。でもこの数カ月、スケジュールはかなりタイトですよ。もう

余地なしって感じに。だから、」


            


 「わかりました。アイちゃん、時間はお任せしますから、何とかその応募者

に会えるように段取りをつけて頂戴」「はい。わかりました。それではスケジ

ュールを再確認してから一番相手がこれなさそうな時間帯にアポ取ります。

夜の10時とか、朝の7時とか…」」「ふふふふ、アイちゃんって、」先生が

そう言終える前にドアは静かにしまった。


            


 アイがいなくなると、先生は額縁に入った自分のイメージイラストを眺めな

がらこれまでの10年間を思い出していた。そして笑い出した。


            


 “10年前の、あの時に始まったのよね、思い起こせば。私が世間知らずに

も、Sari先生に私の部屋に遊びに来てくださいってメッセージを送ったら、

1回目は軽く上品に断られて、それでもめげずに2回、3回とお願いしたら4回

目にはなんと、ほんとに築40年の賃貸アパートの私の部屋にやって来てくだ

さって、今考えるだけで顔が真っ赤になるけど、でも、あの日のことは決して

忘れないわ。それから私の無謀というハードルが一気に10㎝くらいの高さに

下がったのよ。ずうずうしさも、向こう見ずも。そして来るものは拒まずって

包容力も大事だってことを、Sari先生から教わったのよね。それが今の私

のキャラなのかもね…”“それから先生は小指でテーブルの表面をめくるように

すると、キーボードを出し、アイ宛に簡単な文章を送った。


            


 「その応募者はね、10年前の私みたいなのよ。だから、4回言って来たら

会おうと思っていたのよ」


            


 それから間もなく、返信がやって来た。「Riko先生、それって、私を秘

書に採用された時と同じですよ。それに、ドアを4回のノックする理由はそこ

から来たんですね!?(LOL)

                              
おわり



  


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
    銀ドアを4回ノック。4回トライすると物事は少し変って来ますね。
    次回から水曜日の連載に変更させていただきます。
    次回は1月22日(水)です。


p.s. 2  インスタグラム始めました。
    私の日常、ただし、自宅がメインです。
  
    

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年1月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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