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リサコラム
連載696回
      本日のオードブル

ホテル・センチメンタル
part.2

第2話

「永遠の彼女」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




あのホテルは
あの有名な作家の
通りを曲がって
さらにかの有名な
音楽家の生家を
曲がった先の通りにあります。
迷うことなく辿り付くためには
GPS?
いいえ、
猫のような
動物的勘が
あれば十分です






 







        

 第2話 「永遠の彼女」





  「あなた、どこから来たの?ねえ、どこから来たの?」その声はどうも、

私にむけられているようだった。私はホテルのコンシエルジュカウンターの脇

の小さなコンソールテーブルの下に隠れて昼寝をしていたが、渋々ごく薄く目

を開けた。私は忙しいのだ。すべてのお客さんの相手をしてはいられない。


            


 「もしかして、ここの人?」私はその一言で、首を上げた。ごくわずかにだ

が。迷い込んだ通りでホテルの従業員に無理やり拾われたとは言え、私だって

れっきとしたスタッフに変わりはない。ことに最近は忙しくなった。コンシエ

ルジュカウンター横のコンソールの上が私の持ち場ではあるが、みんな私を見

ると、なでなでしてゆく。しかし時に高飛車なマダムらしき人物は、ブランド

もののウールのコートを着せられた子供が私に触ろうとすると、「ダメダメ、

ばい菌が付くから!」とぴしゃっと子供の手をはねのける。そんな時、私は知

らんぷりを決め込むことにしている。言いたい奴には言わせておけばいい。猫

族の中でも無類の清潔好きであるこの私に、ようもぬけぬけと言ったものだと

思いながらも、いちいちそんな嫌がらせに反応しているような暇はないからだ。


            


 私は人間がいかに自分勝手なのかをよく知っている。都合のいい時にはなで

なでしておきながら、機嫌が悪いと、「あっち行け!」と私をコンソールの上

からどかして、自分の鞄を置くような人間もいる。私はこれでもホテルのコン

シエルジュカウンターの見張り番という重要な任務を得ているのだから、そん

な言い草があるかと思うのだが、しかし、私はそんな時はホスピタリティ満載

の顔で、静かに場所を譲ることにしている。長いものには巻かれるがよし。そ

んなことわざを私は今さら人間たちに教えなくてもよさそうなものなのに、し

かし彼らはちょっとしたことをいちいち気にかける。こちらではレゾ・ソシオ

と言うが、ソーシャルネットワーキングとやらに敏感に反応しては不安な気持

ちになる。そもそも、人間の言動には大きな矛盾があるのだから、そんなこと

を一々気にしているのはおかしなことだ。


            


 私はその子供の顔をじっと見た。相手も私の目をまっすぐに見た。

「ここの人?」この子は女の子のようだ。年齢は5才くらいか?ベージュの

マフラーをしている。ということはお母さんもそんなベージュのマフラーをし

ているはずだ。人間の親子というものはたいていペアルックを好むからだ。


            


 その女の子は私の顔を見続けたままで、私の頭をなでもしない。

その代わり、「ねえ、この人、ここの人?」とお母さんと思しき、案の定、

ベージュ色のマフラーに黒いロングコートを羽織ったショートカットの女性を

見上げながら言った。ペアルックの女性は私を見つけると、「あら、こんなと

ころに、迷い猫君、ちゃんかしら?」と言っただけで、カウンターのコンシエ

ルジュの方にまた向き直り、わりに込み入った話の続きを始めた。女の子は仕

方なく、また私の顔に何か書いてあるかのようにじっと見つめた。そんなに見

られると、私だってちょっと赤くなるというものだ。私は致し方なく、顔をそ

むけた。すると、女の子はまた私の顔の方向ににじり寄って来て、また顔をじ

っと見た。しかし、顔を撫でようとすることもなく、じっと両手を後ろに回し

たまま、私の顔を見続けた。それからくるっとペアルックの母親に方に向き直

るとコートの裾を引っ張りながら、「ねえ、ねえ、この人、ここの人?」と懇

願するような顔で聞いた。「さあ、どうかしらね?」と母親は女の子の相手を

しない。


            


 大人という者は、実に自分勝手なものだ。子供がそんな有意義な質問をして

いるにもかかわらず、無視し続けるのだから。私はめったにやらないことだが、

批判を込めて「にゃお~」とひときわ高い声で唸ってやった。


            


「ねえ、にゃお~て言ったよ、ママ」とまた女の子はママの黒いコートの裾を

引っ張った。「あら、そう、猫だからワンとは言わないでしょ」と言うと、私

に一瞥もくれず、また黒服のコンシエルジュに、ペラペラと何かをまくし立

てた。

            


 どこかの場所を調べさせているようだ。そんなことなら、この私に言えば、

どこにだって連れて行けるのに。コンシエルジュのあいつはパリジャンじゃな

いから、私に言わせれば、パリの街のことなんて、なんにも知らないさ。田舎

から出てきて3年で、住み込みだし、休みの日はぐうぐう寝ていて、彼女もい

ないから隠れデートスポットも知りはしないんだよ。それに比べて、この私は

どんな路地も抜け道も今では全部存じ上げているさ。


           


 大体、ホテルのお客さんはコンシエルジュなら何でも知っている知的な人間

だと思っているが、当然、レベルがある。それにお客さんも普段なら、すぐに

スマホを出して調べるはずなのに、ホテルに一歩足を踏み入れた途端、金庫に

スマホを入れて来たかの如く、全部コンシエルジュに任せきりっていうお客さ

んがなんとパリには多いことか!人間はスマホという便利なものを発明してお

きながら、頼れる人間ができた途端、地下鉄の乗り換えだって聞いてくる。そ

んなの、調べりゃすぐにわかるだろうって思うんだけど。


            


 そもそも人間以外の動物にはGPSなんて必要ない。なくても道を間違うこ

とはめったにない。しかしまあ、方向感覚が劣っているのが人間であり、だか

らこそ、いろんな道具や機械を発明してきたんだろうけどね。でも近い未来、

この地球自体がなくなるそうだから、それなら、今、この刹那を目いっぱい楽

しむしかないかもね。私はそんな独り言をぶつぶつとつぶやいてみたのだが、

女の子は、「ママ、また、にゃお、にゃおって言ったよ」としか聞き取れやし

ない。こんな時、私はいつもお手上げ状態になる。


            


 それでもママはやはり、「猫なんだから、にゃおぐらい言うのよ」と言った

だけで、やはりコンシエルジュと格闘している。私はもう面倒になって、大あ

くびをしながらのびのびと体をストレッチさせると、またコンソールテーブル

の上に這い上がった。


            


 女の子は、私のその様子を不思議なものを見るようにして、またママのコー

トの裾を引っ張りながら、「ママ、この人、やっぱり猫じゃない、」と言った

のだ。この私を猫じゃないといったのはこの女の子が後にもおそらく先にもい

ないだろう。私はそのとたん、自分の目に大きなハートマークが浮かぶのがわ

かった。


            


 「私の永遠の彼女よ♡」私はその気持ちを込めて、熱いメッセージを彼女に

贈ろうとした。しかし、すぐに、私は胸の奥に隠し持ったもう一つのハートが

チクりと痛んだ。そうそう簡単に永遠の彼女の地位を明け渡すわけにはいかな

いぜ。私にはすでに、熱い契りを結んだ彼女がいるんだから。私は、

「ちぇっ!」と舌打ちをした後で、瞳のハートマークをしまい込んでニヒルな

表情に戻ると彼女に向かってこう言った。


            


 「残念だが、君、私にはあいにく先約がいるもので」女の子は、心なしか寂

しげな顔をして、やっと私の頭にちいさな手を置いた。


            


 「そいつは、パリって名前なんだよ」私は自分でも赤面するような、196

0年代の俳優が口にするようなクリシェを吐いた。これで幾多の女性を悲しま

せてきたことか!


 欲を言えば、パリが女性名詞であればさらによかったが、あいにく街は

全部男性名詞なものでね…」私は長いまつげの第二の彼女にウインクの代わり

に2度目の長いあくびを贈った




   


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
    吾輩は猫君もパリが好きなようです。
    もちろん私も数十年来のパリ好き。
    次回は2月5日(水)です。


p.s. 2  インスタグラム始めました。
    私の日常、今週はパリシリーズです。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2020年1月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
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