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リサコラム
連載764回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第1話

「一枚の絵」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



半分だけ
開けられた
窓を通して
小さな池と
ぷかぷかと
浮いている
白鳥2羽。
池の向こうは
濃い緑の森のようです。
微かに黄色い屋根と赤い煙突の
家と白いっぽい壁に赤い屋根の家
ここはいったいどこでしょうか?
いえ、これは絵のようですね。



 







        

 第1話 「一枚の絵」



  

 5か月前の早春、私たちは南フランスの小さな町からパリに移住する

ためにやって来た。


            


 
妻と私は同い年で、互いに仕事の第一線から離れていたし、二人の子供

たちは18歳でそれぞれ独立し、3年前には相次いでパートナーを見つけて

家族を形成し始めていたから、私たちはやっと肩の荷が下りた思いで、自分

たちの人生だけに専念しようと決意した末の決断だった。


            


 
この6年前、引退後の翌日から私たちは車でヨーロッパの街々、村々を

旅した。妻の両親は共にスペインからの移住者で、彼女自身は長年、高校で

スペイン語の教師をしていた。当然、スペイン語、イタリア語、そしてドイ

ツ語、英語も話せた。つまり、妻がいればヨーロッパを巡るに何の問題もな

く、さらに現地の人々をすぐに親しくなることができた。


            


 
私の方は両親ともチュニジアからの移住者だったため、アラビア語、英語

もできた。そのため、アフリカ、アラビア半島の安全な国々に足を延ばすと

きはやっと私の出番となる。


            


 
まずは私の好みでエジプトの世界遺産を3回訪れた。サウジアラビアの

渡航が認められてからはムスリム文化にも傾倒した。しかし、妻はもう十分

だと言うようになった。そうは言っても、私にとっての北アフリカとアラビ

ア半島の国々は、一部で戦争、紛争の傷口が癒えることのない場所であるも

のの、先祖の血がうずくように惹かれる土地でもあった。しかし、妻の語学

力とそれを凌駕する発言力は旅先を決める際に強さを発揮した。私は段々と

妻の意向に従うことが多くなった。


            


 
驚くことには、ゆく先々で、フランス人と聞けば夏は地中海リゾート、

冬はシャモニーのような高級スキーリゾートとバカンスで大金を使うのも

のだと思っている人のなんと多いことか!それは裕福な人々の話で、家族4

人でモナコの高級ホテルに2週間も滞在すれば、ひと財産くらいでは済まな

い。そんなことがみんなできるわけがない。当然、観光客相手の企業、自営

業者はかきいれ時に休むことはない。つまり、バカンスとはいえ、家でテレ

ビを見ながらゴロゴロというのはいずこもある光景なのだ。


            


 当然、私たちも高級なリゾートで優雅に過ごすようなバカンスばかりを楽

しんできたわけではない。1度は奮発してイタリアのイスキア島の高級リゾ

ートに2週間滞在したこともあったが、それ一回きりで、以来、夏は地中海

周辺を避け、スイスの山を見に行ったり、スカンジナビア半島を旅したりし

た。そして冬はスキーリゾートには行かず、近場のEU圏内の旅行が主だっ

た。たいてい4つ星クラスのホテルで、その中の普通の部屋に滞在した。

クリスマスシーズンにはドイツに足を延ばしてクリスマスマーケットを回り

ながらスケジュールなしにのんびり楽しく過ごすこともあった。


            


 そうこうしているうちに、私たちは旅で日々を過ごすことに次第に疲れを

感じるようになった。しかし、妻は、この南フランスの田舎町で一生を終え

るのはつまらないと言い出したのだ。


            


 私はすぐにスイスのユングフラウの村を提案した。シャレーの窓からユン

グフラウを眺められたら最高ではないかと思ったのだ。しかし、妻は田舎町

をかたくなに拒んだ。まず、スイスは物価が高いという理由を盾に取った。

田舎好きの私と都会の便利さを好む妻との1年に及ぶバトルの末、私が折れ

ることになったのだ。結局は予想通り、妻の強引さに負けたと言わざるを得

ない。そうして私たちは70歳を迎える年齢で、生まれてからずっと住み続

けて来た町を後にすることになった。


            


 私たちは移住に際して、一つの約束事を決めた。それはすべてを処分し

て、何も持たずに行くことだった。お互い大事なものをたったひとつだけ持

って、パリのアパルトマンに移住することになった。


            


 その一つとは、妻が長年愛用してきたピアノと、私は妻の記憶にさえなか

った2階の廊下に掛かっていた1枚の絵で、2羽の白鳥が浮かんだ池とその

向こうの森に隠れた2軒の家を、開かれた窓を通して見たような風景画だっ

た。


             


 朝、目覚めて窓を開ければ、青空に白く輝くユングフラウの頂を臨むとい

う私の人生の収束点の予定は、窓を開ければ、隣のアパルトマンの窓という

想定外の方向へと向かうことになった




  




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 新シリーズを始めました。
出だしはいつも悩みますが、今回はHOUZZ. Frという
建築、インテリアのサイト上のある記事からヒントを頂きました。
二人の今後は、私の想像で…

p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年6月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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