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リサコラム
連載765回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第2話

「パリの新居とアドラー」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




通りから
小径を伝って
行くとそこは
樹木に覆われた
建物がありました
緑の窓辺のベンチが
前オーナーのセンスを
語っているようですね。
さてこれから新しいオーナーが
どんな風に変えるのでしょうか?



 







        

 第2話 「パリの新居とアドラー」




  

 パリで3週間目の朝、私が白いフレンチ窓を開けると、向いのホテル

の天窓の縁に仲よく陣取って愛を語らっていた2羽のハトがさっと飛

び去った。


             


 その頃、南フランスの田舎町から出てきた私たちは3週間の予定で

パリのいろいろな場所のホテルに宿泊しながらパリの中で新居を探索して

いたところだった。私はハトの姿を目で追いながら、精神分析医の

アドラーの言葉をつぶやいていた。「究極的にみれば、この世には対人関

係以外の問題はないように思える。」私はこのアドラー心理学を一言で表

したこの言葉が気に入っているのだ。


            


 そう、世界の中にくすぶり続ける火種は対人関係から生まれる。その

火種が時に、いじめ、ヘイトスピーチへと姿を変え、それからヘイトクラ

イム、戦争へと発展するのだから対人関係の火種ほど厄介なものはない。


             


 
そして目下の私たち夫婦に永遠に消えることのない火種もまた、趣味

の違う人間関係から生まれたものだ。


             


 私は引退した暁には、ユングフラウを臨むスイスの山小屋風の家に住

み、人知れず息を引き取るのがわが人生の理想の幕引きだと思いながらこ

れまで生きて来た。それに対して私の妻はパリという観光地の世界一高

い100年前の古く狭い集合住宅で一生を終えるのが人生の大目標とい

うのだから、馬が合うわけがない。そんな私たちが戦争に至らないよう

にするには、どちらかが折れるか、それぞれが別の方向へ進むかしか

なかった。


             


 様々なプラス、マイナスを計算した結果、私が引くこととなったが、

その時、私が出した条件が、たった一つを除き、何も物を持たず、新たな

人生の再スタートを切るということだった。しかし、妻は意外にも、

「ええ、いいわよ」とそっけなく私の意見に従ったのだ。そう一言で承

諾されると、私の悩んだ日々がとても馬鹿げたものに思えて、返す言葉

が見つけられなかった。しかし、そこには巧妙に仕組まれた、と私には

思えたが、作戦があった。


             


 
ものを持ち込まないということは、つまり、必要なものもないわけだ

から、新たに購入する際には私の意見が通るはずだろうということだ。

これまで食器から、ベッドリネンやカーテン、家具、ソファなど、どれを

とってもインテリアの好みに合わなかった暮らし方を一変させることが

できるのだ。きっと敵は、いや、妻は私の魂胆を見抜いてはいないだろ

う。というのも彼女はとにかく物を買うことが大好きで、ごちゃごちゃ

と雑多なごみが家の中に散乱している。もちろん妻から言わせれば、

ごみではなく、そのひとつひとつには存在理由があり、ストーリーがある

アートだそうである。


             


 
一方、私はただ、何もないシンプルな部屋で、ユングフラウの白い頂

を眺めながらバルコニーでビールを飲み、ソーセージをかぶりつけられれ

ばそれでよかった。そして夜は、現役時代に買いためた本を、暖炉の前で

ロッキングチェアを揺らしながら読むのが夢だった。私はうるんだ目で自

分の姿を想像した。そしてはっとわれに返った。買いためた本は持って行

けないものになるのか?いや、本は別だろう。デザートは別腹のように、

本は別腹だ。当然、持ってゆく価値ある第一の物で、何も持って行かない

枠とは別枠のはずだ。私は自分を納得させると安堵した。


            


 と、同時に私の頭の中には、妙な幻覚が頭に浮かんだ。それはただ一

人の観客=妻を前にして檀上でアドラー心理学の解説をする私の姿だっ

た。私は言った。『人はパンのみにて生きるにあらず、よって、本なくし

て生きることはできない』。その時、妻は私にじっと冷たい視線を向けて

いた。そして広い会場に響き渡るような声で言った。「それって、ほんと

に、アドラー心理学ですか?彼はそんなこと、言ってやしませんけど」

私はそれを聞いて、ふらふらとその場に倒れ込んだ。私は幻想の中でも

妻という宿敵にやられてしまったのだ。


             


 私は作戦を練り直すしかないと思った。蔵書の1冊もなく、この先、

生きていく価値を見出すことはできなかったからだ。古い人間だと言われ

ようと、私はスマホで読む本ではとても読んだ気分にはなれなかった。

一方、妻は私と違って割り切りのいい人間で、何も持って行かないと決ま

れば、早々に、自分のコレクションを蚤の市やネットで販売し始めた。

しかし、彼女のことだから、新居に移ってもまた物を増やすつもりでい

るはずだ。私はそれだけは許さないつもりだった。


             


 
そんな水と油の私たちが出会った一つの物件にふたりとも飛びついた

のには別々のわけがあった。その物件とは、パリでは新しい部類になる

築50数年のモダンな建物の1階だった。元は1オーナーの3階建ての住

戸だったが、オーナーが別の場所に引っ越すときに階ごとに売りに出した

らしかった。周りは住宅が建て込んでいるわけでもなく、お隣はパリ郊外

という立地のため、歴史的価値ある建造物はないが、静かな環境で生活に

不便はないようだった。しかし、私はなにより、雑木林のような樹木に囲

まれたその建物に一目ぼれした。もちろん、妻もその瀟洒なたたずまいを

気に入ったようだった。


             


 その部屋の内装はほとんど取り壊され、バスルームも水回りもないス

ケルトンの状態だった。ただ、壁には2箇所、大きな収納スペースがその

まま設けられていた。


             


 
私は早速、近所を散策して情報を集めた。数件の古本屋を見つけると、

自分の本を丸ごと引き取ってもらえないかと交渉に当たった。売れた時で

いいなら、何でも引き取るという書店があったため、私は即座に取引を願

い出た。そしてもっとも私の大事な蔵書は図書館に寄贈し、そこから借り

て自宅で読むことにしようと決めた。苦肉の策ではあったが、私が蔵書を

持ち込むと言い出せば、「希少価値のない本なのに」と、妻の反対にあう

のは必至だった。そのため私は泣く泣くこれで妥協したが、私の本の問題

が解決できたとしても、その後の生活ではまた問題が数多く起きてくるだ

ろう。


             


 
私は、パリの空を自由に飛行する鳥の姿を追いながらまたぶつぶつ

とつぶやいた。「妻の機嫌が悪いときに、夫が責任を感じてはいけな

い。不機嫌でいるか、上機嫌でいるかは、妻の課題。その課題を勝手

に背負うから苦しいのだ」これからの私の行動指針は、アドラーで行

こうと私は思った




  




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 アドラー心理学を使った絵描きさんのシリーズも
以前書きました。やっぱり、アドラー、好きなのかもしれません。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年6月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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