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リサコラム
連載786回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第23話

「南京錠のかかる橋」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




旅行で
パリに
来てい
るなら
夏の終わ
りのまだ
日が長い
夜は外で
赤紫色に
染まる
塔を眺め
ませんか?
だってパリは
エッフェル塔を
中心に街ができているのですから
見ないとそれこそもったいないですからね。


 


 第23回 「南京錠のかかる橋」




 テーブルの上のスマホはコールし続けていた。


            


 「一体どこにいるの!」私は妻の金切り声を想像しながら、彼女が


電話に出るのを待った。しかし、20回コールしても出なかった。

私は一旦電話を切って、ソファに長々と横たわると、またプルースト

に戻った。



                 


  
その物語はひたすらゆったりと現在、過去を縦横無尽に行き来しなが

らミルフィーユの層のようにデリケートに幾重にも重なり続ける。

「プルーストとはなんと気長なやつなんだろう!やっぱりブルジョアで

なければこんなものは書けないな」それから30分ほどは辛抱強くペー

ジを繰っていたが、ステーキとワインを堪能した私の瞼は段々と重く、

開いているのが辛くなってきた。


            


  アンリは妻をこのゴージャスなホテルの部屋に呼んで、優雅なホテル

ライフを味わせれば、私たちの問題は可決するんじゃないか?と言った

が、こんな自由な気分を妻によって中断させられたくはなかったし、

そもそも、妻との調停は高級ホテルでやるべきではない。その理由は

妻と高級ホテルほど相性のいいものはないからだ。彼女は高級ホテル

という名の場所に一歩足を踏み込んだ途端、女優気取りでホテルライフ

を謳歌し始めに決まっている。すると、そんな贅沢を続けたら私たちは

破産などと私が言い出せば、きっと彼女は過去の様々なことを持ち出し

て、私を責め立てるに決まっている。そこで私が少しでも反論すれば、

彼女は得意の弁舌で議論をふっかける、私が応酬する。すると私より弁

が立つ彼女はさらに私を追い詰めるだろう。もしも、いままでひたすら

耐え忍んできた私のアドラー哲学が破綻を迎えるなら、私は45年分の

怒りを爆発させるかもしれない。運悪く、投げたワイングラスが

€10,000なのか、€50,000なのか知らないが、そんな高級な

家具に当たり、破損でもすれば、それこそ私たちは正真正銘の破産の道

を歩むことになる。私はそこまで想像してぞっとした。


            


 そもそもアンリは数学者だ、心理学者とは違う、相談すべき相手では

ない。私は70歳を迎えるまで必死に働いてきたのだから、もう、いい

かげん妻の顔色をうかがうことなく、意見されることなく、大自然の中

で質素倹約をしながら自由でいたい、そんなささやかな希望のどこが悪

いというのだ?ずっと今までそのつもりだったのに、違う方向に向かっ


ていることを私自身、どうしても受け入れることができないのだ。


            


 
アンリは「まだホテルを泊まり歩いているのか?そんな高級ホテルに

泊まってどうする?家はあるだろう?」と言って私のことを笑い飛ば

した。そう言いたい気持ちもわかる。私のやっていることは確かに

無意味だろう、数学者は結果が見えている無意味な計算などやらない

から。でも、実を言えば、私は少々悔しかったのだ。田舎からパリに出

てきて終の棲家を探すときも、貧乏性の私は星なしのホテルに宿泊し、

一方、妻は5つ星ホテルで優雅なホテルライフを楽しんでいた。質素

でいいとは言いながら、私だってそんな高級ホテルで束の間、優雅な

時を楽しんでもよかろうと思ったのだ。


            


 パリの観光名所を回り、エッフェル塔の見えるホテルに滞在し、

高カロリーのフランス料理を堪能しさえすれば、私もパリジャンとし

ての本分は果たせたのだから、それでパリは見納めできる。その後は

ひとりスイスの小さな山小屋に引っ込み、ユングフラウを眺めつつ、

質素な隠居生活を送れるだろうと思ってのことだった。


            


 「しかし、アンリ君」私は心の中でアンリに反駁した。

「人間というものはほんとうに割り切れないものなのだよ、君が割り

切れない数字に美とやらを見出して、宇宙の成り立ちに妄想を抱きな

がら幸せを感じるように、ラグジュリーなホテルの空間で簡素な山小屋

を想像するのも悪くはないものなのだよ。それにやっぱり人間には時

には安全で、清潔で、心地よい場所も必要なのだよ、」私は大きな

枕に体をゆだねたままでうとうとしていた。その時、ナイトテーブル

がいきなりピアノソナタを奏で出した。「ああ、」私はびっくりして

飛び起きた。


            


 
妻からだった。「今、シャングリラにいるんですって?アンリから

聞いたわ。一緒にパリ観光を楽しんだみたいね?私も昨日から16区

のソフィアのアパルトマンに来てるのよ。彼女の住まいも、そちらに

負けず劣らずゴージャスで素敵よ!ちょうどよかった、3人でディナ

ーはどう?彼女もあなたに会いたいって言ってるし、明日、ポン・デ・

ザールで待ち合わせにしましょうよ、どうぉ?」「ポン・デ・ザールっ

てどこの橋?」「知らないの?まさか!南京錠の橋よ!アンリから教わ

てないのね、恋人たちが南京錠を橋の欄干にくっつけて永遠の愛を誓う

って橋よ!明日はいいお天気らしいし、夕日を浴びたエッフェル塔が

ステキなのよ。絶好の撮影スポットよ!それじゃ、明日、午後9時、

ポン・デ・ザールで。いいわね?」妻はそれだけ言うと、キャッ、

キャッという笑い声を響かせながら私の返事を待たずに
電話を切った。


            



 私はよろよろと起き上がってバスルームへ行き、鏡の前に立った。

「ムッシュ・アンリ、」私はまた心の中でしゃべった。「ほらね、


は晴れてパリジェンヌになれたのだから、何ら問題も不満などもない

らしいよ。遊び相手はパリという街なんだから、他にはもう何もいら

ないだろう。もちろん、この私もね」


            


 
結局のところ、問題を感じているのはただ鏡の中の男だけのよう

だった



   


上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 11月からヨーロッパでは夏時間から冬時間(標準時間)
に戻りましたね。日本との時差が7時間。
いつもマダム・ワトソンでも自宅でも流れている
パリの放送局のラジオ・クラシックという番組を
聴きながら、
今、パリは何時なんだとかそんなことを思っています。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年11月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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