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リサコラム
連載787回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第24話

「コンシェルジュリー」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




不気味な尖塔と見れば
確かにそんな気がする
塔を持つ汚れた建物は
コンシェルジュリー
小さな窓は牢獄だった
証です。
その中の
マリー

アントワネット
のいた部屋を
血生臭く
感じる
のは
まだ
たったの
230年前の
出来事だからでしょう。


 


 第24話 「コンシェルジュリー」



 私は翌朝の朝食をレストランで取ったあと、この高級ホテルを出る

ことにした。もう、これ以上、無意味な散財をしてもどうなるもの

でもない。


            


 
昨晩、無理やり約束させられた妻と友人ソフィとのディナーまで、

まだ半日以上の時間があったが、それまで何をすればいいのか、どこへ

行ったらいいのか、私にはアイデアもなかった。そのディナーはもちろ

ん楽しみでもなかったが、すっぽかすと私たちの関係がさらに不都合

な方に向かうのは確かに思えた。第一、自分の友人を私より大事に

する妻のメンツのためもそれもできないだろう。さらに、スマホで

管理されるようになった今では、逃げ隠れし続けることはまず

不可能だ。そこまで考えた後、私は部屋に戻ると身支度を整え、

急きょ手に入れたスーツに身を包んで部屋を出た。


            


 
廊下ですれ違う若いスタッフはちょっと立ち止まってはみな敬意

を込めて、「ボンジュール、ムッシュ」とにこやかな挨拶をする。

しかし、そんな人生でもまれな高待遇もうあと数分のことだ。この

ホテルの玄関から一歩、外に出た途端に彼らは冷淡になる。

これが、つまりはホテルと一見客との合理的な関係なのだから。


            


 
しかし、そんなその場限りの関係はホテルのスタッフだけではな

い。私がこのパリの新参者の住人として親しくしてくれる人間はい

ったい何人いるだろうか。数少ない友人たち、その中にアンリも含

まれるが、それ以外は見知った人間はいない。時々行く図書館のス

タッフも行くたびに変るため、私の顔を覚えている人間はいない。

パン屋、八百屋、魚屋の主人だって私が寄り付かなくなったからと

言って心配するわけはない。きっと私が一方的に親友と思っている

だけのアンリだってそうだろう。私から連絡しなければめったなこ

とで向こうから連絡が来ることはない。他の友人にしても言わずも

がなだ。


            


 
ことに最近はみな、自分や家族やその他もろもろのことで精一杯

で他の誰かがどうしているかなんて、手紙は無論のこと、メールも

電話もよこす人間はいなくなった。それでは、私の妻はどうかとい

えば、3日間、家を空けて不良老人をやってみたが、ショートメー

ルが来たのはたったの一度きり。と言うことは、このパリの空の下

私が車に轢かれても、レストランの厨房の裏で同じく車に轢かれた

ねずみと変わらないということだろう。つまり、このパリに置いて

は、誰にも顧みられない人間だということになる。私はそんな厭世

的な気分のまま、カウンターでチェックアウトをすると正面玄関に

向かった。


            


 
イケメンのドアマンは、慇懃無礼で大げさな動作でドアを開ける

と、「よい一日を。またお待ちしております」と言った。私はその

イケメンドアマンの顔を見て、「ほんとうか?」と聞いた。そのと

たんドアマンは固まったような表情で一瞬ぽかんとしたが、すぐに

「と、おっしゃいますと?」と聞き返した。


            


 「私を待っているというのはほんとうかね?」私は表情を変えずに

言い換えた。「ムッシュ、何か問題でもございましたか?」と彼は逆

に質問してきた。そしてすぐに、小型マイクに向かった暗号めいた言

葉を吐いた。「いいや、何も問題はないよ」私はそう否定してから、

「もちろん部屋もすばらしかったよ。すばらしい滞在だったよ。また

いつか来るよ」と言って私は手を振って階段を降りた。彼も軽く手を

振った。


            


 
きっとあのイケメンドアマンは私を偏屈な老人だと思っただけだろ

う。大金を払ったつもりでいても、彼らにそれ以上の何を期待すると

いうのか、「去る者は追わず来る者は拒まず」というこの冷淡さが

パリの高級ホテルのしきたりだと聞いたことがある。そんなものだろ

う。私は大きなため息をつくと行く当てもなくその辺りをブラブラ散

歩した。


            


 2、3分歩いていると、私くらいの老年の夫婦がドイツ語なまりの

英語で道を聞いてきた。私は聞き取れず、2度聞き直してやっと、

『コンシェルジュリー』と言っているようだとわかった。それは

マリー・アントワネットが閉じ込められていた場所と彼らが言ったか

らだった。私は「ああ、残念ながらわかりません」と言って、自分

のスマホを指した。彼らは不思議そうに、「メルシー」と言って去

って行った。


            


 だいたい、現地人とみるや、だれかれとなく道を聞く人間のなんと

多いことか。パリにいるからと言って歴史的建造物や有名なカフェ、

美術館をすべて知っているわけはないだろう。私のように南から移住

してきたばかりの人間だって、パリ見物にフランスの田舎から出て来

た観光客だって数多くいるのだから。しかし、その時、私はマリー・

アントワネットが捕らわれたそのコンシェルジュリーに興味を惹かれ

た。そうか、そんな場所に行ってみてもよかろう、どうせ時間は売る

ほどあるのだから。


            


 
そこで私も観光客のふりで道行く人間たちに聞いてみることにし

た。しかし、最初の2人は聞いたことはあるが、知らないと言っ

た。「でも、スマホで調べればすぐわかる」と同じ答えをしたた

め、「ありがとう。結構です」と言ってドイツ人の二人連れをおな

じように立ち去った。


            


 その後も聞く相手、聞く相手、「あ~、えっと」と言いながらス

マホを出す。私はなんだか愉快になって来た。そして、何人目かの

親切そうな若者は「それはシテ島にありますよ、」と言ってバトビ

ュスの乗り場を案内してくれた。私は「ありがとう」と言って別れる

と彼が見えなくなってからタクシーを拾った。


           


 
「コンシェルジュリーへ」と言うと、黙ってその運転手は走り出し

た。そして約15分後、マリー・アントワネットが幽閉された元牢獄

の前に私は立っていた。


            


 
案内版には今は一部の建物は裁判所や警視庁の留置所として使われ

ているとの説明がなされていた。おそらく私も何度かこの尖塔を見た

ことがあるはずだが、しかし、マリー・アントワネットが捕らわれた

建物だとは気にも留めたことがなかった。私は観光客の群れに入り、

ブラ周辺をブラブラ歩きながら、連続したアーチ型の天井をもつホー

ルを歩いてみようかとも思ったが、別に今日、慌てて見物することも

ないし、マリー・アントアントワネットの居たという生々しい部屋を

見てその亡霊のひとつでも背負う気にはなれなかった。私はまた橋の

向こう側に渡って、じっと建物を眺めた。


            


 
リタイヤした後の悠々自適な日々をあれほど願っていた私が、

この先どうすればいいのか、いや、今日というたった1日をどう過ご

せばいいのかすもわからなくなっていた。そう思えば、残り少ないだ

ろう私のこれからの人生の日々とこの牢獄で過ごしたマリー・アント

ワネットの空しい時間感覚にさほど違いはなかろうとも思った。


 
私の前を流れるセーヌは水を湛え、昨日と今日のそして、未来の

ことを案じるような様子もなく、変わらず悠々と流れているには

いるのだが




   


上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 パリは犬も歩けば棒に当たるみたいに
世界遺産に当たりますから、知らなくて当然ですね。
パリで日本の世界遺産の○○稲荷神社は知っているかと聞かれて
まるでわからなかったことがありました。

p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年11月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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