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リサコラム
連載788回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第25話

「ソフィ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



夕暮れ
から雪が
またちらちらと
降り出しているような
ヴァンドーム広場の灯りと
街のイルミネーションが
夕日とコラボして
美しい
クリスマス
の風景です
まだ季節は
ほんの夏の
終わりなのですが。

 


 第25話 「ソフィ」



 ソフィと妻と私はポン・デ・ザール橋で落ち合った後、ソフィ行き

つけのレストランで食事をすることになった。


            



 日本人シェフが経営するその店は『サラダレストラン』という名の

ベジタリアンのフランス料理店だった。まずは、『ゴーギャン』と名

付けられた前菜に私は度肝を抜かれた。まさにゴーギャンが描いた絵

画のようにタヒチの自然と人物が皿の上に再現された野菜の芸術作品

だった。ピンセットで盛り付けられたそのゴーギャンを私は恐る恐る

壊しながら味わったが、見かけ倒しではなく、それぞれに繊細な野菜

の味わいがあり、非常に満足できるものだった。


            


 サラダ仕立ての魚もどき料理は『お花畑で生まれた魚』いう奇抜な

ネーミングではあったが、もどきの魚肉に野菜の味わいが染み込んで

いて実に美味しかった。そして最後の『宝石箱』と名付けられたデザ

ートは12種類の果物の果肉をすべてゼリー状にしてキャンディのよ

うな球体に閉じ込めたもので、口に入れた途端、ほろほろとほどける

ようにキャンディの中から果汁がほとばしった。日本人の作るフラン

ス料理なんて、大したことはなかろうと思っていた私の期待はここで

完全に裏切られた。それでもまだ、私の凝り固まった気分は宝石箱の

デザートのようにはいかなかった。しかし、妻は「おいしいわ、

すばらしいわ!」を連発しながら存分に堪能していた。


            


 「彼、昨年、星を取ったのよ、若いのに、すごいでしょ?」ソフィ

は私たちにそう言うと、カウンターの中にいる30そこそこくらい

シェフに向かって日本式の会釈をした。続いて妻も真似をした。

しかし、まだ会話はソフィと妻、ソフィと私というように必ずソフィ

を介して行われ、妻と私が直接話をすることはなかった。


            


 ソフィは食後のエスプレッソを飲みながら「ここ、ぜひ、あなたた

ちの行きつけのお店にしてね」と言った。妻は、「ええ、もちろん」

と、私ではなくソフィとカウンターの中のシェフに向かって言った。

「でもね、パリにはこんな美味しいお店がごまんとあるのよ」ソフィ

は妻と私に向かって小声で言った。


            


 私はソフィがどんな人間なのか、何をしているのかなどの予備知識

も何もなかったが、金髪のショートカットに白いベレー帽、白い靴、

真っ白いマントのようなドレスをなびかせる白ずくめの衣装から、

何かのデザイナーだろうと容易に想像がついた。さらに、16区にオ

フィス兼自宅を持っているのだから、成功者には違いないだろう。そ

んなアーティスティックな分野で成功を納めているキャリアマダムを

妻は大好きなのだ。


            


 しかし、妻はいつ、そんな友人を持ったのだろうか?私は100m先

の古書店の匂いを嗅ぎ分けられるが、彼女は1000m先のシャンパン

の香りを嗅ぎ分けられる。だから、海外のショッピングモールに行っ

ても無料でシャンパンをふるまっている場所と有名ブランドの店には

迷うことなく辿りつける。そう考えると、ソフィはきっと同じ16区

に住むイケメン設計士のつながりで知り合ったのだろう。


            


 ソフィは食事中からずっと、今取り掛かっている仕事の話をいかに

も楽し気に続けた。やはり何かのデザイナーには違いないだろうが、

上の空の私にはそれがアートなのか、ファッションなのか、具体的に

イメージできなかった。しかし妻はソフィの方に身を乗り出して興味

津々な表情で聞いている。私はソフィの話を聞いているふりをしなが

ら残りのワインを全部、自分のグラスにつぎ足した。


            


 「ヴァンドーム広場のデコレーションあなたのチームがやるのね!

それはすごいわ!」妻は奇声を上げた。「ここ3年はね。今回は廃棄

されようとしたものをそれぞれの専門分野ごとに集めて、それを高校

生ボランティアの力も借りてリサイクルしたオーナメンを使うのよ。

でも、リサイクルだと軽く見ないで。とてもそれとは思えないような

遜色のない美しいオーナメントやイルミネーションライトにできてい

るのよ」「なるほど、SDGsってわけね」妻はいたく感動した様子見

えた。確かにソフィのSDGsの取り組みはすばらしいが、それよりも

店を出るにはどんな口実がいいかということばかり私は考えていた。

その内、睡魔が襲って来て、不覚にもあくびをしてしまった。


            


 「あなた、失礼じゃないの!」とでも言うように、妻は私の腕を

つっついて鋭い非難の視線を送った。「失礼。今日はちょっとワイン

を飲み過ぎたかな」私は素直に謝ってから、「今晩はここで失礼をし

ようか、ソフィは忙しいようだから」と私は妻に向かって言ったあと

で、「私もぜひ、クリスマスにはヴァンドーム広場のディスプレイを

見に行かせてください。きっと素晴らしいでしょう、今から楽しみで

す」と述べて会計をしようとスタッフに手を挙げると、ソフィはお勘

定は済んでいるからとスマートに答えた。私は恐縮して、

「次はぜひ、家にいらしてください。狭い家ですが」と言うと、

ソフィは「それなら、その次はぜひ、私の山荘でおもてなしをさせ

て頂戴ね。パリとは違ってほんとうに質素で小さな山小屋だけれど、

静かでいい場所なのよ。それに近所の人たちはみんな人なつっこくて

すぐに親しくなれるわ」と今度は私に向かって言った。


            


 ソフィの言った「山小屋」という言葉に私はぴくりとしたが、彼女

とは今日知り合ったばかりで、即答できないでいると、彼女は畳み掛

けるように、「観光客のいない近くの穴場スキー場で存分に滑って、

その帰り、山で落ちた枝を集めてくるのよ。それを暖炉にくべて、

その横でソーセージを焼くの。じゅうじゅういわせてね。それがまた

地ビールによくあって…」ソフィはソーセージをかぶりついているよ

うな表情をすると、うっすらと目をつぶって、「ほんとにおいしいん

だから!」と言った。私は常々、女性とは満腹でも、次に食べる料理

の話しができる稀有な動物だと思う。私たちはそんなたわいもない話

をしながらも、もう、店の出口まで来ていた。


            


 「飾りけのない山の日常だけど、それもなかなかいいものよ。

それにね、窓をからは雪をいただいた雄大な、」ソフィはそこまで

言うと、急に私の方に向かって、かえるが獲物のハエに飛びかかる

前に見開いた目でじっと見つめるような視線で、「ユングフラウが、

真っ白なユングフラウがすぐそこに見えるのよ、まあ、山がお好きで

なければ無理強いはもちろんしませんけど、もし、よかったら…」と

言うと、にっこり笑った。そして、ソフィはドアを押すと妻と私を外

に出してから、わざとくるりと回転してみせた。白いマントのような

ドレスの裾がふわっと私の顔の前に広がった。


            


 「ありがとう、ソフィ、ヴァンドーム広場のクリスマスイヴェント

はまだ先だから、その前にぜひ、ごちそうさせてね!」妻はそう言い

ながら遠ざかるソフィに手を振った。


            


 私は金髪のソフィが真っ白なドレスを風になびかせながら次第に人

の群れに消えしまうまでじっと後ろ姿を見送っていた。まるで雪をか

ぶったユングフラウを眺めてでもいるかのように。



   


上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 ヴァンドーム広場のクリスマス
行ってみたいです。まずはクリスマスに海外に
行けるようにする方法を考えるべきですね。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年11月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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