MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載789回
      本日のオードブル

パリのアパルトマンの絵

第26話
最終回

「2枚目の絵」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




窓の向こうは
青い空に
映える
ユングフラウの
雄大な山と緑の草原
でもなんだかちょと変った
窓のようなきもします。



 


 第26話 最終回 「2枚目の絵」



 その朝、私は妻が昨晩持って帰って来たセクシーなドレスに軽く

文句を付けた。すると、妻は私の日ごろの行いをあげつらって私の5

倍返しくらいの文句を並べ立てた。服を投げ散らかすだの、バスルー

ムも、キッチンの掃除もいい加減だ、ごみの捨て方が汚いだの、靴を

磨いてくれなかったなどなど、私への誹謗中傷の限りを尽くした。

そして挙句の果て、結婚してからの彼女の人生は私のせいで台無しに

なったとまで言い、さらに、自分だけがずっと私の品行の悪さに我慢

し続けてきたのだと言った。


            


 私は驚いて、それはそっくり私のセリフだと言った。私こそ、彼女

の機嫌の悪さに耐え、一度も大声をあげることなく我慢し続けてきた

のだと。しかし、私はそれ以上の言い争いを避けたかった。いつもの

ように私が先に折れて、「悪かった」と言えばよかったのかもしれな

かったが、その時はどうにも言えなかった。その代わり、私は黙って

自分の部屋に入り、ボストンバッグを持って妻の居るリビングに戻っ

てくると、妻に「アデュー」と一言ってから玄関を出た。

私は「これでもう、終わりだ」と言ったのだ。しかし、行く当てなど

もちろんなかった。


            


 
もし、スイスに山小屋を持っていたらそのまま駅へ行き、電車に飛

び乗ったかもしれない。しかし、もう、そんな山小屋の美しい暮らし

は遠い絵のようなものにしか思えなかった。


            


 それは、先日招かれて行ったソフィの別荘で失望したからだった。

いや、彼女の別荘はすばらしく、かつ、壮大な美しい景観の中にあっ

た。しかし、私たちがいた間、ほんの数時間だけ晴れはしたが、他は

常にどんよりと曇り、お目当てのユングフラウはなかなか見えなかっ

た。それ以上に、夏の終わりの観光地はまるでテーマパークのおとぎ

話風で素朴さはなくなっていた。どのカフェも地元の住民ではなく、

観光客でいっぱいで、英語、スペイン語、中国語など色々な言葉が飛

び交っていた。席を確保するにも順番待ちをせざるを得なかった。

さらに驚くほどの物価高に私自身、辟易した。


           


 妻はソフィの別荘にやって来て2日目で帰ろうと言い出した。

もちろん、帰るのは私たちのパリ20区の自宅にほかならないが、

南フランスの片田舎から出てきて、家を見つけ、リフォームして、

落ち着くまで5か月はそれまでの60数年の人生の中では激動の日

々だった。


            


 私は妻と言い争ったときなど、よく友人のアンリに電話で話を聞かせ

たことがあった。その度に彼は「それがどうした?」と一笑に付した。

確かに退職した私の第2の人生の些細な日々の出来事など、数学と共

に愛しい日々を生き続けている彼にとっては「それがどうした?」だ

ろう。それをわかってはいても、私はアンリに聞いて欲しいと思っ

た。私はそこまでパリに来て追い込まれていた。


            


 
そのパリは短い期間で田舎者の老夫婦の生活も人生をもすっかり変

えた。ことに私は自分の夢の人生設計が大きく変えられたせいで

戸惑い、新しい場所に馴染めず、行き場を失い、生きる目的まで見

失った。妻の真似をして高級ホテル巡りも多少経験したが、だから

と言って、パリジャンにはなり切れなかった。


            


 
そんな私に対して、アンリは「いいかげん、白旗を挙げたらどう

か?」と言ったが、妻に対しても、パリに対しても白旗はもうすでに

挙げすぎるほど挙げていた。相変わらず狭い寝室で我慢し、妻の散財

にも片目をつぶり、庭の手入れと読書を友として1日を過ごしていた

のだから。事実、多くの人が言うようにパリはフランスではなかっ

た。そしてパリには魔物が住んでいた。


            


 パリは田舎者の垢ぬけない妻をして16区の高級住宅地に住むよう

なマダムに変えた。友人、知人関係もまるで変った。さらに妻はど

んどん若返り、古いピアノでまた昔のようにパリに生きた音楽家の

曲を弾くようになった。そんな中、私だけは未だ田舎者のままだった。


            


 
最後のさよならを言ったその朝、それから行きつけの古本屋で時間

をつぶし、蚤の市を何時間もぶらぶらあてもなく歩いた。そして、

素人画家の描いた絵を並べている店で1枚の絵に目が留まった。晴天

に突き刺さるような白とグレーの岩肌をさらしたユングフラウを背景

に緑色の草原が描かれていた。


            


 
「スイス、行かれたこと、あります?」ちょうど私くらいの白いひ

げを生やした男性は私の顔を覗くように言った。「なかなかいいでし

ょう?私、スイス人です。ここが私の田舎なんですよ。いいところ

ですよ。よく、ユングフラウの絵をスイス帰りの常連のお客様が買っ

て行くんですよ。実際はこんな雄姿はなかなか見られないものです

からね、はははは」私はそれでもにっこり笑うだけで、ずっとそ

の絵を見ていた。


            


 「あなた、パリジャンです?やっぱり、パリは別格ですね、」男性

は絵を売りつけようとしつこく話しかけてきた。「長いんでしょ?」

「まあね」「やっぱり。洗練されておいでなんで」私は黙っていた

が、しばらく考えてから、「寝室に飾ろうかなと思って」と言っ

た。「目覚め、いいですよ!」私はまだしばらく迷ったが、その絵

を買うことにした。


            


 私は絵を抱えて歩き出した。そしてしばらく行った後、男性の方に

振り返りながら「パリは格別?冗談じゃない。パリは魔物なんだよ」

と言った。そしてユングフラウを抱えてまた今来た道を戻って行った。


                         おわり

   


上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 最終回、全26話までお付き合いいただきありがとうございます。
始まりはこの物語の主人のような夫婦が南フランスから
1枚の絵とピアノだけを持ってパリに移住してきたHOUZZ Fr.の
記事を読んでからです。
その後の展開わかりませんので、私が勝手なストリートを
作ってしまいました。
来週からまた新たな気持ちで、紡ぎます。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年11月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.