MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載795回
      本日のオードブル

マダム・シック

第1話

「マダム・シック、
旅に出る」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



パリのどこかの
朝靄に煙るカフェ、
白いテーブルクロスの
かかったテーブルには
一人の美しい女性が
朝のエスプレッソを
飲んでいるよう
ですが、
右の
若い
紳士は
ホテルスタッフ
あるいはおかかえの運転手?


 


 第1話 「マダム・シック旅に出る」



 パリの高級住宅地のとあるアパルトマンの大きなドアがゆっく

り開いた。


           


 出て来た女性は毛先がカールした栗色のロングヘアに、薄緑のロング

コート、サーモンピンクのショールを羽織っている。そして、パリのマ

ダムらしく、ショッピングカートを持つ手はベージュのやわらかそうな

手袋で覆われている。マダムの後ろでギイという年代物がたてる重厚で

排他的な音を伴ってドアがゆっくりと閉まったとき、「ボンジュール、

メリザンド、ごきげんよう」とマダムに声を掛けてきた男性がいた。


            


 
「あら、ゴロー、お元気?」それから二人は1分ほど世間話をし、

長たらしい、いや、丁寧な別れの挨拶を交わしたあと、メリザンドと

呼ばれたマダムは右手に、ゴローと呼ばれた白髪の紳士は進行方向の

左手に歩いて行った。


            


 メリザンドという呼び名はマダムの本名ではない。メーテルリンク

のオペラに登場する美しき謎の女性をゴローがあだ名としてつけたら

しい。無論、ゴローというフランス人の名前にしては耳慣れない名前

もマダムが付けたあだ名で、メリザンドの夫として同じオペラに登場

する。


            


 マダムはさっそうとした足取りでカートを引きながら、今朝も近く

のマーケットにお買い物に出かけるようである。マーケットと言って

もスーパーマーケットではなく、露天商の並ぶ市場で、もちろん、そ

のすべての店主たちとは長年の顔見知りである。マダムはまず、魚屋

に行き、サーモンの切り身、貝を手に入れ、次に100種を超えるチ

ーズから素早い速さでいつもの銘柄を指定しながらスピーディに買い

をしてゆく。次に八百屋で玉ねぎ、新鮮なプチトマト数種類、ラディ

ッシュ、葉物野菜を買い込み、カートに入れたあとで、「あら、わた

しとしたことが」と、何か、買い忘れたものを思い出したかのようつ

ぶやくと、くるっと旋回して八百屋の主人の元に戻った。


            


 「ジェローム、明日からしばらくこちらへは来られないけれど、

心配しないでね」胸に大きなかぼちゃを抱えた、ジェロームと呼ばれ

た八百屋の主人は口をぽかんと開けたまま、マダムが次に一体何を言

い出すのかと次の言葉を待っていた。


            


 
「私ね、しばらく旅に出るから」「旅?旅って言ったよね、マダム

・シック?でも、一体どこに?」「わからないわ」「いつまで?」

「それもわからないわ」それを聞くとジェロームは

「ノン、ノン、ノン」と両手を広げて小さくつぶやいたが、かぼちゃ

をゴロンと地面に落としてしまったことには気づかなかった。


            


 
「それじゃ、お元気でね」マダムは軽く、ベージュの手袋の手を降

ると、またくるっと回るって歩き出した。「マダム!待って!」ジェ

ロームが叫ぶと、フロマジュリーも、魚屋も、肉屋もみんなが一斉に

マダムに注目した。


            


 「マダム・シック、ご冗談を!」ジェロームが店の脇から飛び出して

くると、玉ねぎ数個も一緒について出て来た。「もちろん、ほんとうの

ことよ」「いつ帰るのかもわからないなんて、そんな、イギリス人が言

うみたいな別れのジョークを言って!からかってるんだよね?」マダム

は穏やかな笑みを浮かべると、「ほんとうのことよ」と言った。そして

なすすべもなく立ち尽くしている八百屋の主人を置いて、さっとカート

を引いて市場を出た。そして角を曲がると1軒のカフェのテラス席に座

った。


            


 マダムはすぐにやって来たギャルソンにコーヒーを注文した。

「かしこまりました、マダム・シック!」ギャルソンはそう言って店の

奥に引っ込むと、マダムは大仕事を終えた画家のように椅子の背にもた

れかかって通りを見ながら幸せな表情を浮かべた。


            


 それから間もなくマダムの前に水とエスプレッソが置かれた。「今日

はすばらしいお天気になりましたね、マダム」ギャルソンはそう言うと

にっこりほほ笑んだ。「ほんとうに。お天気でよかったわ」とマダム・

シックも微笑み返した。それからマダムはまた一口コーヒーを飲むと軽

く目を閉じた。きっと今頃、市場の店の主人たちは、「マダム・シック

が旅に出るんだって!!」と大騒動しているだろう。それもそのはず、

マダム・シックは常に、高級住宅地の古いアパルトマンと市場とちょっ

とその辺りを巡回でもするようにパリから離れないマダムとして通って

いたからである。だから、市場の主人たちはみな、毎朝、市場で買い物

をするマダム・シックとの会話、そして彼女が帰った後の残り香、それ

は行きつけのパフュムリーで調香させているプレーン・リュンヌという

香りだが、その香りさえ、しばらく、いや、もしかしたら永遠に嗅げな

いのではないかという不安と恐れを抱いているのではないか、そんな想

像をマダムは巡らせているのかしかし、表情はいたって平穏だった。

そして小ぶりなコーヒーカップを手の中に持つと、おいしそうに一口す

すった。


             


 
しばらくすると、先ほどのギャルソンが濃いマロン色の大ぶりな旅行

カバンを抱えてやって来た。「マダム、運転手の方が来られました」

「あら、そう、ありがとう。それに、昨晩からバッグを預かってくだ

さって、ありがとう」と礼を言うと、代わりに足元にある自分の買い物

カートを手渡した。「よかったら、今夜のお料理に使って頂戴」

「えっ?こんなにたくさんですか?」ギャルソンはびっくりして、

それでも、「遠慮なくいただきます」と言った。そしてカートと一緒

にいつもの倍のチップをギャルソンに手渡した。いつの間にか、マダム

・シックの後ろには、黒いスーツに黒い蝶ネクタイをした若い運転手

が立っていた。


            


 
「ボンジュール、マダム、お車はすぐ近くに停めております」運転手

はそう言うと、マダムの手を取って椅子から立ち上がらせ、「どうぞ、

こちらへ」と手招きした。


            


 
去り際、マダムはギャルソンにエレガントな横顔を見せながら、

「サムよ、私の息子なの」と言った。

「えっ?息子さんなんですか!」とちょっと驚いた表情でマダム・

シックを見たが、その意図を察したのか、何度もうなずきながら、

「ボンボワイヤージュ!」と大きな声で送り出した。そして二人が

角を曲がるまでずっと手を振り続けた




   


上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 パリを舞台にしたマダム・シックのユーモア小説始まりました。
さて、どうなりますことか!

p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年1月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.