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リサコラム
連載860回
      本日のオードブル

スキャンダル・ イン・
ホテルモリス

第3回

「 驚くうちは」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




サーモン
ピンクの壁に
白い装飾的な
図案が描かれています
その右手のへこんだ場所に
小さなベッドと手前にカーテン
レースカーテンにはグリーンのフリンジが
手前に赤、白、青のトリコロールのカーテン
青い窓枠の外は
見渡す限り
森、森、森



 



第3回 「驚くうちは」



 「驚くうちは楽しみがある」彼がその日の最初に私の顔を見て言っ

た言葉にちょっと引っかかった。


            


 このセリフ、どこかで聞いたようなと私の頭の片隅でベルが鳴った

のだが、その時はまだ玄関先で「やあ、久しぶり、元気そうだね」

などと挨拶を交わした後だったため、つい、聞き流していた。


            


 そして、昼食を終え、私は自分の悪魔のシナリオが無事未遂に終

わることになり、身勝手にもほっとしていると、彼はキッチンに戻

って、ガリガリという音を立て始めた。「ああ、いい匂い~うれし

いな~、豆から挽いたコーヒーを飲めるなんて、」私はコーヒーミ

ルのハンドルを回している彼に素直にそう言った。彼はニコッと笑

っただけで私に顔を向けることなく、ガリガリとハンドルを回すこ

とに集中していた。「最近は忙しくて、レギュラーコーヒーどころ

か、インスタントばっかりだったもんな、ああ~いい香りだ。楽し

みだね~」私はそう言った。すると彼は玄関で言ったあの言葉を繰

り返した。「驚くうちは楽しみがある」しかし私は2度目も軽く受

け取って、「ああ、楽しみだ」と言った。それでも彼は何も反応を

せず、上機嫌に鼻歌など歌いながら香ばしい香りをたて始めた。


            


 彼の家に来ると私はいつもそのように調子を外される感覚を覚え

る。まあ、考えて見れば当然のことで、私のサラリーマン生活と

自給自足の彼の優雅なシングルライフとはあまりに違い過ぎる。

だからつい、私には絶対に手に入れられない非日常の空間と時間

にとても妬ましい気持ちが先に出てしまう。私も他の多くの日本

人同様にあらゆるものが簡単に、すぐに手に入るのが当たり前の

暮らしを続けているために、災害で何かひとつでもストップすれ

ば、まともな暮らしは送れないと思っている。その正反対がつま

り、キッチンで鼻歌を歌う人間なのだ。


            


 この森の中の家は一番近い町まで車で30分はかかり、当然、

コンビニなんてあるわけはない。そんな辺鄙な場所で自給自足の

生活をしながら、この家をきちんと維持管理していくのは、おそ

らく容易なことでは無いはずなのに、いつ来ても部屋は森の高級

コテージに来たように整っている。さらに、彼は農作業に大工仕

事の傍ら、内装のデザイナー兼職人でもありミシンで服もカーテ

ンまで縫ってしまう。さらにパティシエ、シェフ、そして給仕人

にもなる。こいつは一体何者なんだろう?私は彼の家に来るたび

に思っていた。しかし、それこそが彼の目指したライフスタイル

だとわかったのは、彼が自分のこの家に『ホテル・モリス』と表

札を掛け、そんな名前の玄関マットさえ作ったことだった。それ

以来、私は彼を「モリス」と呼ぶようになった。


            


 モリスとはウイリアム・モリスのことで、19世紀末のイギリス

人テキスタイルデザイナーだという。何をやった人物かと言えば

アーツ・アンド・クラフツ運動と言われるイギリスの産業革命に

よって生まれた粗悪品の大量生産を憂いて、自然回復と手工芸を

見直そうと、独自のラディカルデザインを生み出しつつ、その運

動の先頭に立って活動した人物なのだ。彼はまさに、そんなモリ

スのようなスローライフを実践するために森の隠居場所を作った

のだった。私は「モリスは手仕事の衰退に警鐘を鳴らしたってだ

よね~もう150年以上も憂いた人間がいたとはね」などと、悠

長なことを言ったが、コンビニもない、森の中のひとり暮らしな

ど私にはとてもできそうにない。


            


 一度、私は彼に尋ねたことがある。それは、「どこか別の場所

に行きたいとか、旅行でもしたいとか思わないのかい?」と。

しかしモリスの返事は、質問自体がわからないとでも言うように

「別に」と、ただそれだけだった。私は自分の中で、「別に」を

咀嚼してみたが、やはりわからなかった。


            


 私はと言えば、どこかの観光地や新しいテーマパークがいいと

言われれば、行ってみようかと思ったり、特に見たいわけでもな

いのに美術館の特別展に行ったり、ネットで評価の高い温泉宿は

どこかと探してみたり、お金も時間もなければSNSでなにか目新

しいことはないかとスマホをいじってみたりと常に何かを受動的

に欲している。それが今の人々の普通だから、それがない生活は

退屈で、それこそ牢獄のような気もする。しかし、彼はまるで違

う。自分の手にかかったものだけに囲まれ、自分の手が耕した野

菜と米を食べ、常に家のことをあれこれやり、新しい景色を能動

的に作り出している。誰に文句を言われることも、せかされるこ

ともなく、すべて自分のペースで。


            


 彼は今日、私に新しい小部屋を見せてくれた。「元は納戸だっ

たんだが」と彼は言ったがそれは女性が好むようなピンク、

ブルー、グリーン、赤、白という色付きで、森の中で自給自足を

する中年男性の世捨人が作ったとはとても思えないようなカラフ

ルでヨーロピアンなかわいいデザインの部屋だった。


            


 「はあ~これは、すごいな~」私は正直、倒れるくらいに

驚いた。「これ、まさか、ひとりで?」「ああ」モリスはそれ

だけ言った。そして一呼吸後で、「驚くうちは楽しみがある。

夏目漱石の『虞美人草』の中の甲野さんのセリフだよ。

もう忘れたか?」


            


 そうだ、そうだ、私は頭の片隅鳴ったベルを思い出した。

私たちが知り合ったのは、大学の図書館のアルバイトだった。

私は遥か昔の薄ぼけた記憶を辿った。あの頃は本の中のひとつ

ひとつの言葉に敏感だった。あれから数十年、日々に流され、

押し寄せる情報に翻弄され、心から驚くこともなくなった。


            


 「驚けなくなったら人間、おしまいだから、僕は自分で自分を

驚かせているだけかもね」モリスの言葉がぐさりと私の胸に

突き刺さった



   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *2023年4月よりリサコラムは毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1

 「驚くうちはたのしみがある」高校生の頃から
好きな『虞美人草』のこのセリフは、時代と共に味わいが
変り、深まりました。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年4月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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