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リサコラム
連載879回
      本日のオードブル

『夢、描きます。』

第8回

「逃げ足」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




金の
縁飾り
の装飾が
紺碧の壁に
随所に施され
白い曲線を描く
ベッドに横になって
濃紺のフリルを持つ
背もたれピローに
体を預ければ
ゆりの香りに
満たされて
夢の世界
もう誰からも
邪魔はされませんから





 



第9回 「逃げ足」



 「いきなりのアポですいません、でも、私、めちゃめちゃ頭に

きてるんです。それで、もう家出しようかと思って出てきました」

そう切り出したのは、ショートヘアの30代半ばくらいの女性で手

には小ぶりのボストンバッグを持っている。


            


 「まぁどうぞ、おかけください」画家は女性に椅子を勧めた。

しかし女性は、立ったままで、「結構です。鍛えてますから」と、

画家の前で仁王立ちしたまま、何かに対する怒りが止まないような

気配だった。


            


 「苛立っていらっしゃるようですが、私は精神分析医でも、コンサ

ルタントでもありません。私ができる事はただ1つ、絵を描くことだ

けなんです。どうぞ、まずはおかけいただけませんか?そうしないと

きちんとお話を伺うことができません」女性は画家の説得にも耳を貸

さない様子で右腕にボストンバッグを抱えたままで立ち続けた。

「そんな事はわかっています。あなたに夢の絵を描いていただきたく

てここにきましたから。ただこれが私自身で、今の私で、そして私の

真の姿なんですから」


            


 画家はじっとその女性の目を見た。「それはつまり、なぞかけです

か?」「なぞかけ?なぞかけなんかではありません。これが私なんで

す。高校時代は短距離の、スプリンターでした。そして卒業後はアメ

リカの大学で学んできたんです。日本とは比べものにならないくらい

自由な気風でした。もちろん、そこでも陸上は続けてきました。

でも、日本に戻って来てから、いままでと全く違う、日本的な年功序

列の商社に入りました。まぁ、それが間違いだったかもしれません。

さらに、そこで寿退社をしました。これが第2の間違いです。そして

3の間違いはこれが最も深刻なんですが、相手を間違えたと言うこ

とです。私ともあろうものが私には全くそぐわない相手を選んでしま

ったんです。画家の唇がわずかに動いた。


            


 「ちょっと待ってください。」女性は、左手のひらを画家に向けて

突き出して、止めるような合図をした。「分りました」画家はそう言

ったきり、もう何も言わないぞと言うような風でじっと正面の壁を見

た。きっと女性がこの先何を言おうとも仏像のように黙り込んでいる

に違いないとさえ思えた。


            


 「すみません。失礼な態度を心からお詫びいたします。しかし、

これが私なんです。思い立ったら止めらない性格で、イノシシ年の

さそり座で、猪突猛進、まあ、スプリンターには最適なんですが、

でも、周りにはあまりこの性格が受けなくて…、お忙しいでしょう

から、かいつまんで申し上げますと、私の夫は商社勤務で、年がら

年中、海外出張だのなんだのと楽しい思いをしています。一方、私

は、掃除、洗濯、食事の支度と子供たちの塾とお稽古ごとの送り迎

えで1日が終わるんです。そして夫はこの夏の1か月間、南フラン

スに出張でした。接待とか言ってましたが、顧客の別荘のあるビー

チリゾートにも行ったようですから半分遊びですよ!私は相変わら

ず、この暑い中、子供たちの世話と送り迎えで夏が終わりました。

それなのに、夫は南フランスから戻ってきた途端、ふんぞりかえっ

て何もせず、ごろごろして、『あれ持って来い、これ持って来い』

って、これで頭に来ない女性はいないと思いますよ。本当にどう思

います?!」急にふられた画家は、「まぁ、何かお飲み物でもお持

ちいたしましょうか?」と言った。


            


 「いえ結構です。女性はきっぱりと言った。「今日の今日は、ほ

んとに…離婚後、子供はどうするか?それだけを考えながら、タク

シーを飛ばして来ました。私がアメリカにいた時に思い描いていた家

族像とはまるで違うんです。家族みんなでバカンスに出かけるなんて

1
度もないですよ。つまり私はこの10年間、どこへも行っていませ

ん。私一人、ずっと子供の世話に明け暮れて、ひどいと思いませんか

?」彼女の声はすでに涙声に変っていた。


            


 「それでどうなさるおつもりですか?この先は?」画家はじっと

女性の顔見た。「あなたは絵描きさんですよね?そこまで私に立ち入

って聞く必要があるんですか?」「もちろんそういう必要も資格も何

もありませんが、あなたの夢がまだ見えてこないのです。私は絵描き

なので、どんな絵を書いたらいいのかまだ全くつかめません」「これ

まで私が話したことを聞いて想像ができないって言うんですか?それ

じゃあ、人の夢を描けないでしょう?」「夢を描くのは私ではなく、

お客様だと思います。ただ私はその手がかりを常につかめるように付

箋を貼るだけなんです」「付箋?あなたの絵は付箋なんですか?」「

まぁ付箋というか、しおりというか、ラインマーカーというか、そん

なようなものだと思います。私が夢の絵を描いたからといって、その

ようになるわけではありません。もちろんそのようになったと思って

いただいている方も多いようですが、それはお客様が夢を実現されよ

うと努力をなさった結果だと思います。実際のところ、私の絵はその

手掛かりをつける付箋に過ぎません。ご自分の目指したい夢を忘れな

いようにするためだけなんです」「まぁ、それはご謙遜だと思います

けど、そうおっしゃるなら… 」.


            


 「私には、あなたがやられたい事はすでに色々達成なさっていると

思います」「すでに達成なさっている?」女性は甲高い声で驚愕の疑

問符を画家めがけて投げつけた。「そうだと思います。人はやりたく

ないことをあえて選び取りませんから。あなたがあなたの今のご主人

と結婚なさったことも、お子さんのお世話をされることも、したくて

なさっているのだと思います。つまり、自分にそう仕向けられている

のだと…」「仕向けている?」「そうでなければ、ご主人のことも子

供のことも全て忘れてすでに一人で生活されておられるでしょう。そ

れとも今だけその怒りに任せてそう思われているのすか?」女性はや

っと腰を下ろした。同時に手に持ったボストンバッグが、どさっと音

を立てて床に落ちた。


            


 「もちろんこの先ずっと1人と言うわけには…それは無理な話で

す。今から仕事を探さなくちゃなりません。でも、10年のブランク

がありますから、その後のキャリアのない私に、満足できる仕事があ

るかどうか…まぁ、つまり…自分に対する怒りでもあるんですね。こ

れまで家事と育児に追われてきて、自分自身への教育をないがしろに

してきましたから。確かにおっしゃるようにそうやりたくてそうした

んだと思います」女性は小さな声でため息をついてから小さな声で、

「ええ、きっと、がんばりすぎたのかもしれません。時にはベビーシ

ッターを雇って、その間、自分の息抜きに近くの温泉リゾートに足を

伸ばすこともできたのかもしません」


            


 「それは自己犠牲と言います」画家は空気を切り裂くかのように断

言した。女性はちょっとびくっとしてから、「わかっています。おっ

しゃる通りです」と言った。「それじゃ、これから思いっきり自己満

足をなさったらいかがですか?塾の送り迎えなどなさらず、お子さん

に公共交通機関を利用させたり、タクシーでもいいんじゃないです

か?そこまでして自分の時間をお作りになられたほうが私は精神衛生

上よいのではないかと思います。おそらく、今、楽しげに遊んでいる

人たちも必死になって時間を作ってきたはずです。その間、陰口を叩

かれようと、自分の時間を作るために必死でやりくりしてきたはずで

すよ。そこまでしないと自分を癒す時間なんて、そう簡単に手に入ら

ないと思います」女性は深いため息をつくと、何度もうなずいた。


            


 「その通りです。わかってはいたんです。家族の幸せも、自分自身

の幸せも自己犠牲の上には成り立たないと言うことは、もうずっと前

に気づいていました。自己犠牲と言うのは卑屈な精神の源ですよね。

自己犠牲と幸せは同時に得られないのですから。もう、そんなもの、

かなぐり捨てたいんです」


            


 「それじゃ、かなぐり捨てませんか、今からすぐにでも」「あなた

の夢のお部屋を描きましょう。全部忘れて、自分の世界に浸れる部屋で

す。誰に遠慮もいりませんよ。思いっきりゴージャスな気分に浸れる部

屋で遊んでください」画家はキャンバスに鉛筆で下書きをし始めた」

女性はじっと画家の背中越しにキャンバスを眺めた。画家は鉛筆を動か

しながら話を続けた。「最近、すぐ近くに話題のすてきな都市型リゾー

トホテルができました。今日はそこにお泊まりになられたらいかがです

か?まだお昼を過ぎたばっかりですから、明日のチェックアウトまでゆ

っくりステイなさったらよろしいですよ。その間にこの絵を描き上げて

おきますから」女性は無言だった。


            


 「カタン」、ドアが静かに閉まる音で画家が振り向いた時は、椅子

の上には絵の代金だけが残され、女性の姿はなかった。画家はしばら

く鉛筆を動かした後、窓から外を眺めた。ちょうど、ビルのエントラ

ンスホールから小走りに去る女性の姿があった。


            


 「さすがに、スプリンター、逃げ足が速いな~」画家はつぶやく

と何事もなかったようにキャンバスに向かって鉛筆を走らせた




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

自己犠牲の反対語は自己満足、

これは、私の意見です。

意見には個人差があります。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年9月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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