MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載880回
      本日のオードブル

『夢、描きます。』

第9回

「母の肖像画」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ベル
ベットの
真っ黒い
ドレスを着た
長い髪の女性は
花の髪飾りをして
十字架のペンダントと
ウエストに赤い宝石を
埋め込んだバックルを
つけています。
見たことの
あるような
ないような
意志の強さと
自信がみなぎっています。





 



第9回 「母の肖像画」



 
女性はミニマリズムともいうべきか、がらんとして何もない画家の

アトリエの椅子に座っていた。時折、画家の絵筆がキャンバスとこす

れ合う微かな音とショパンのごく静かなピアノの音色だけで見渡すも

のもないその部屋で、女性は小一時間、じっと手持ち無沙汰にしてい

たが、「これまでずっと実の母親と確執があったんです…」と、やっ

とその長い沈黙を自ら破った。


           


 「和解といいますか、お互いにもういい年齢ですから、喧嘩の人生

も終わりにしようと思って、それで、母の誕生日に若い母の肖像画を

お願いした次第です」目の前のキャンバスの裏に隠れるように筆を走

らせている画家は、一瞬、手を止めた。「お母様との折り合いがつい


            


たということですか?」「いえいえ、そんなもの、永久に、未来永劫

ありません。折り合いがついたのは私が私自身と折り合いがついた

んです。親子でもここまで違うものかなと思うくらいに私と母の性質

は違っていましたから。もの心つくころから今もずっとですね…」

画家は顔を見せずに「それは例えばどういう部分で?」と尋ねた。

女性は、「ほ~」と大きなため息とも覚悟の気合ともどちらともつか

ないような声を上げると、「この際、何でも話します」と言った。


            


 「食い違いの大半が日常のほんとにささいなことです。もうお話し

するのも忍びないような、まさに些事です。食器の洗い方とか掃除の

仕方とか、今ではほとんど死語だと思いますが、行儀作法に至るま

で。彼女は家の中の隅々まで完璧に整える完璧主義者なんです。

完璧主義はその人だけで完結してくれたら周りも助かるのですが、

そういう訳にはいかず、家族みな、完璧主義者に従わなければなら

ないのです。私には弟と妹の4人がいるんですけど、子供の頃から

大変でした。朝起きたら自分の担当の掃除場所を掃除してからでな

いと、テレビもラジオも何もつけることはできなかったのです。

私はお風呂とトイレ掃除。そして4人の弟、妹たちは自分たちの

部屋と廊下と階段掃除でした。祖父母もいる結構な大家族だった

ものですから、みんなそれぞれ分担がありまして、母がすべて仕

切っていました。まあ、この辺りまでは、昔風の家にはどこもあ

ることですが…私の名前、咲子といいますが、母が名付けたそう

ですが、その由来をしきりに言っていました。そして、常に、『

一花咲かせるのよ』と言われ続けてきました。普通じゃだめと」


            


 「なるほど、親心としては当然かもしれませんが、子供には押し

付けられた気持ちがするでしょうね、ことに小さい頃は」「ええ、


自分だって、つまり、母だって、ひとかどの人物てわけではないの

に、なんで、私が、一花咲かせなくちゃいけないの!と反発したも

のです。それでも母の存在は大きくて、高校、大学と母が弟も妹も

全員の進路を決定したんです。私が法学部に進んだのは、将来、

弁護士にさせるためでした。でも、うまく行きませんでした。法

学部に進んだ人、全員が弁護士になれたら、弁護士だらけになっ

てしまいますから!」


            


 画家はちらっと女性の方に顔を出した。「それでは、何をなり

たかったんです?」「芸術家です。ピアニストとか、バイオリニ

ストとか、先生みたいな画家とかです。でも、小学生で絵の才能

も音楽の才能も母に見限られてしまいました。母は早々にピアノ

を誰かにやって、私から絵も音楽も取り上げたんです。以来、芸

術的なことから離れてしまいました。つまり、私がやりたかった

事は何一つできなかったんです。今、ここで流れているピアノ曲

はショパンですから、よくご存知だと思いますけど、私は大学生の

あるとき、ショパンの最後の恋人だったジョルジュ・サンドを知っ

て、それから図書館で彼女のことを調べるようになりました。古い

書簡まで調べたりして、まあ、興味深い人物ですよね。今で言えば

どんな人がそれにあたるのかな~?今はみんなやりたい放題、自由

にできる時代になりましたから。それでも彼女の祖国は自由の国、

フランスだったからできたようなものだと思います。ジョルジュ・

サンドは数多くの男性遍歴を重ねながら、自分自身の小説の題材に

していたんですよ。嫌な男性はその小説の中でこてんぱにやり込め

るんですよ。その男性が亡くなった後にその本が出されていますが

、その男性のことを書いたとしか思えないようなものがあるんで

す。すごく強い女性だなぁって思いました。すでに有名人でした

から、彼女と恋愛関係になったら大変なことになると男性たちは

思ったでしょうね。だからショパンと恋愛関係になったあとも、

内政的で神経質なショパンに対してほとんどお母さんが子供に接す

るように接したそうです。あだ名が「ショピ・ショピですから面白

いですね。それに、男装して葉巻をくゆらせてパーティに出たそう

です。女性はウェストが極端に細くて膨らんだスカートはいた時代

ですから、当時としては大スキャンダルでしょうね。私もそんな風

に誰の顔色も伺わないで済むような地位になりたかった。だから、

ショパンを聞いていると、ジョルジュ・サンドから、シャネル、

ソニア・リキエル、マドンナみたいな、しなやかで強くて自己実現

を果たしてさらに魅力的な女性に憧れた青春時代を思い出すので

す…ああ、一方的にしゃべってすみません。あの、それで、絵はど

うでしょうか?」女性は中腰になって、キャンバスを横合いから覗

き見するような姿勢を取った。


            


 「うまくいってますよ。今のところはですね」「あとどのぐらい

でしょうか?」「そうですね。どこで止めても結構です。絵には完成

というか、終わりはありませんから」「そう、なんですね、絵には終

わりがない…レオナル・ド・ダヴィンチもモナリザに生涯、筆を入れ

続けたそうですね。肖像画は、その人が生きてきたそのものが現れる

わけですよね」「まぁそういう目で見ていただければうれしいです」

画家はそう言った後、また黙々と筆を走らせた。そしてさらに沈黙の

1時間がショパンのピアノ曲と共に過ぎて行った。


            


 「さあ、いかがでしょう?」画家はキャンバスの乗ったイーゼルご

と慎重にひっくり返すと依頼人の女性の方に向けた。「先ほど申し上

げましたように、もちろんこれで完成ではありませんが…お話しを伺う

限り、お母様はこんな感じかなと思って描きました」女性は絵を見た

途端、「あっ!」と言って立ち上がり、口に手を当てたままで凍りつ

いたように見えた。「なんで?なんで?私の母をご存知?」


            


 「いいえ、もちろん存じ上げません」

「そうですよね、でもあんまりにも似てるので、びっくりして」

「あなたとジョルジュ・サンドのイメージを合体させて描いて

みました」

「でも、ほんと、母の若い頃にそっくりなんですよ。私はジョル

ジュ・サンドのイメージははっきりとはわかりませんが、

でもこの絵は母に非常に似ているんです。でも…」


            


画家は絵の後から周り込むように女性の方の前に来ると、「私は独身

なんですが、若い頃、結婚しようと思ったことのある女性がいまし

た」と話を始めた。「ある日、正式に彼女のご両親に会いに彼女の

家に行ったんです。私は玄関に出てこられたお母さんにびっくりし

て、『すいません。大事な用事を今、思い出しました。大変申し訳

ないのですが、今日はここで失礼させていただきます』と言ってひ

とりで駅まで走って、電車で帰りました。それ以来、彼女に会うこ

とはありませんでした。その彼女のお母さんというのが私の母に、

他人の空似というもので、非常によく似ておられたんです。私の姉

もあなたと同じで、母親とうまくいっていませんでした。母親のこ

とを非常に嫌っていたんです。しかし、結婚して自分が母親になっ

たら、次第に母そっくりになってきたんです。習慣とか好みとかだ

けでなく、母の若い頃の写真の女性そっくりになって来たんです。

それは私だけではなく周りの親戚縁者みな口をそろえるように言っ

たものです。私はよく言われる、『娘の将来の姿はその母親を見れ

ばわかる』と言う俗説は真なりと思いました。だから若いながらも

私はその時はっとして逃げ出したんです。それから紆余曲折あって

、今は画家と呼ばれる仕事をしていますが、あなたのお話を聞いて

いたら、あなたもお母様にそっくりなのではないかと思いまして、

ジョルジュ・サンドのイメージであなたを描いてみたんですが…

いかがでしょう、そんなにお母様に似ていますか?」画家はまだ、

凍り付いたままの女性に満足げににっこり笑ってみせた



   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

ジョルジュ・サンドに憧れたのひとりが

マルセル・プルースト

マルセル・プルーストと同じベッドまで買ったのが

フランソワーズ・サガン、そのベッドにそっくりの

ベッドを私は買いました。何の繋がりもないのですが。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年9月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.