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リサコラム
連載882回
      本日のオードブル

『夢、描きます。』

第11回

「最後の肖像画」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



長い髪を
なびかせる
美しく若い女性
背景にはエッフェル塔が
虹色の中に浮かんでいます。
胸の
十字架は
苦難の日々を経て
新たな人生を決断した
きりっとした横顔にも見えます。


 



第11回 「最後の肖像画」



 「あの、すいません、ちょっと大丈夫ですか?」画家は2m先の椅子

に座っている依頼人の女性に声をかけた。彼女は今にも椅子から転げ落

ちそうな風で、舟を漕いでいる。しかし、返事はない。完全に夢の中に

入ってしまっていると思った画家は女性の方へ歩み寄り、「大丈夫です

か?」と肩を揺らした。


            


 「あぁ、すいません、寝てましたか?」

「お疲れのようですね。」

「いえ、ほんと、すみません。私としたことが…」女性は慌てて長い

髪の毛を両手で撫でつけると、「ほんとにすいません」を数回、連発

した。「お疲れだったら別の機会でも…」「いや、もう、今日しか時

間がないんです。恐縮ですが、今日、仕上げていただきたくて…」

「わかりました」画家はまたキャンバスの方に戻ると、「あと3、

40分ほどで仕上がりますので、そのままでいられますか?」と

女性に尋ねた。「はい、もちろんです」女性はぴんと背中を伸ばし

手を膝の上に置いた。そして、あまり口を動かないように気を付

けているかのような口調でまたしゃべり始めた。


            


 「疲れているのもあるかもしれませんが、ちょっとお昼を食べ過ぎ

たようで、今日は友人達と最後の午餐といいますか、ちょっとシャン

パンも飲んでしまって、とてもおいしいフレンチを久しぶりにいただ

いたものですから、お腹いっぱいになって、つい睡魔が…」「いや寝

て頂いても構わないのですが、ちょっと心配になりまして」画家はそ

う言うと、キャンバスの裏に身を隠した。


            


 「こんなことじゃほんとにだめなんですけど、」女性を張りのある

声で、自分を戒めるかのように言った。「つまり、何と言いますか、

独身最後の夜なんていますよね、いえ、結婚するわけではないんで

す。結婚と言えば、神様との結婚といいますか、誤解があってはいけ

ないのですが、私、明日からシスターになるんです」画家はちょっと

筆を止めてキャンバスの横から顔出した。


            


 「シスター?とおっしゃいました」「ええ、仏門で言えば出家する

ようなものですね。ある教会の、いえ、シスター見習いですが、明日

が初登庁日です。つまり今日が俗世での最後のランチでしたので、

それでちょっとゴージャスに頂いてしまって、今後はこんなことは

できなくなると思いまして。シスターになろうと思ったのも、これま

での人生の人生を悔い改めるために、と言っても、殺人とか窃盗とか

そんなことじゃありませんけれど普通の生活の中での悪い行いです。


            


 その前に、スペインの有名なサンティアゴ・デ・コンポステーラへ

巡礼しようとも思ったんです。長い巡礼の道を歩きながら、同じよう

な思いの人たちがこれまでの人生を語り合い、助け合いながら長い巡

礼の道を歩くそれです。でも、体力的にそんな長い距離を歩けないの

ではないかと、きっと途中で挫折するだろうと気付いて諦めました。

そんなことまで考えるくらい、私のこれまでの人生はどれもこれも中

途半端でした。やり遂げたことがなかったのです。いろいろな仕事も

やりましたが、すぐに挫折し、その度に自己嫌悪に陥り、きっと真面

目な勤め人の人たちから見たら、とてもいい加減な生き方に見えると

思います。でも、私はそれでも真剣に仕事をしてきたつもりではあっ

たのです。しかし、いろんなトラブルにも巻き込まれて、何とか借金

だけはせずに済みました。そして行き詰って、教会の門を叩いたので

す。礼拝に通いながらもしばらくは疑心暗鬼でした。でもようやく、

神父さんに自分のことを話せるようになって、これまでの私の人生を

悔い改めたいと思うようになりました。そして、様々考えた挙句、シ

スターを目指すことにしました。私ごときが悔い改めたところで誰か

が救われるわけではありませんが、少なくともそうしないと私は自分

自身を許すことも救うこともできないのです。女性はブラウスの襟を

整えると、また座り直すかのように背筋をさらにぴんと伸ばした。で

も、恥ずかしいです。こんなところで居眠りするなんて、明日から出

家する人間のやることじゃありませんよね…」


            


 画家はしばらく沈黙していただが、絵筆を置くと、「『 牧神の午後

の前奏曲』ってご存知ですか?バレエ音楽です。クロード・ドビュッ

シーの音楽です。神様だって居眠りはするようですから。ここ部屋に

は何の物音もしませんからきっと眠くなっちゃったんでしょう」「い

え、私の不覚です。この瞬間から悔い改めます」画家は髪の毛の1本

1本を描くために、繊細に筆を動かし続けながら、「ご自分に厳しい

んですね」と言った。「今までが甘すぎたんです。明日は朝早く出

て、教会のシスターのもとに向かう予定です。山奥の小さな教会で

畑仕事が日々の日課です。村の人たちの助けも借りながら、同時に

お手伝いもしながら、ほぼ、自給自足の生活を送る予定です」


            


 「なるほど、今日が塵芥との別れの日ということですね」

「ええ、まだ、未練もありますが、もう決めたことですので、すっ

ぱりその道に行くことにします」「それで、さっきおっしゃってた

エッフェル塔を描きいれるのはどうしてですか?今回のご決断にど

う影響したんでしょうか?」女性を一瞬ぽっと頬をあからめて、

「実はパリには行ったことがないんです。もう行くこともないと思

うんですが、だから思い残したことを描いていただきたくて」

「そうですか、それでは、ちょっとデフォルメしたエッフェル塔

にしましょうか」画家は、それから黙って20分間ほど筆を動か

していたが、ようやく「いかがでしょうか」と言ってキャンバス

の乗ったイーゼルごと女性の方に向けた。


            


 女性は一瞬「あっ」と小さく叫ぶと、両手を口に当てて、

そして、「すばらしいです。自分ではないみたい、きれい」と言う

と、深々と頭を下げた。


            


 「実はこれから髪の毛を切りに行くことにしています。小さい頃

からずっと伸ばし続けてきたのですが、バッサリ耳の下あたりで切

ってみようと思うんです。そうすることで最後の未練を断ちたいと

思っているのです。だから長い髪がたなびいている絵はとてもうれ

しいです。実物の数百倍も美しく描いていただけて本当にうれしい

です」


            


 「いいえ、実際にあなたはとてもお美しいです。その美しい横顔

を描いただけです。お話しを聞いてからロザリオを描きいれまし

た」「ほんとに、ありがとうございます。うれしいです。でも…

実はこの絵は持っていけないのです。身の回りの多少の衣類以外

は何も持って来てはいけないのです。ですから、この絵を今、こ

こで、しっかり目に焼き付けて…髪を切ってすっぱり切り替えて

、明日から悔い改める人生を歩みながら、同時に他の人の役に立

ちたいと思います。ですから、この絵を私の記憶の中に閉じ込め

る意味で、このお部屋にかけていただくことはできませんでしょ

うか?」「このアトリエに、ですか?」「もちろん、アトリエで

なくても、お邪魔にならない、ええと、他の場所、物置の中でも

結構です。どこかに置いていただけませんでしょうか?お代金は

ここに置かせていただきます。それでは、未練がましくなる前

に、こちらで失礼させて頂きます」そう言うと、女性はくるり

と背を向けてそのままドアの向こうに消えてしまった。


            


 画家はしばらくイーゼルに載せた絵の前でじっと見ていた。

「これまで1番よくかけた女性の肖像画だったんだけどな…

でも、人の気持ちは浮雲のようなものだから、この絵を引き取り

にくることがあるかもしれないから、まあ、その時まで…」

画家は隣の部屋から工具箱を持ってくると、壁にビスを打ち込ん

で自分の最高傑作の肖像画を何もない真っ白い壁に掛けた
.



   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

サンティアゴ・デ・コンポステーラ

一生に一度だけ歩きたい巡礼の道です。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年9月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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