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マダム・ワトソン　My Style

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	連載８８７回　　　　　　『夢、描きます。』第１６回「夢の跡」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社
紙の本＆電子書籍）（2006年6月）
「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
（電子書籍2014年8月）

道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
Ｆ・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

きらめく
花形をした
シャンデリア
その向こうに
濃いブルーの
ベルベットの
豪華なカーテン
バルコニーには
神殿にあるような
膨らんだ柱が並び
青い飲み物の入った
フルートグラスが２つ
白いテーブルクロスの上に
さて、ここはどこでしょうか？

第１６回　「夢の跡」

　「こちらが私の夢の家です。このとおりでお願いいたします」

女性は一旦座った椅子からすっと立ち上がると画家の方に歩み寄り、

プリントした写真を手渡した。

　　　　　　　　　　　

　画家は一瞬どう答えていいかわからないような表情を浮かべた後、

「どこかの邸宅ですか？」と尋ねた。

　　　　　　　　　　　　

　「いいえ、邸宅なんて…、どちらかと言えば、まあ、リゾートホテル

に近いですね」「そうですか」画家がそう言うと、女性はまた席につ

いたが、画家はじっと写真を見つめたまま１０分ほどが経った。女性

は落ち着かない様子でバッグの留め金を開いたり閉じたりし始めた。

　　　　　　　　　　　　

　「あの、先生、わかります。おっしゃりたいことは。つまり、写真

の絵がどこなのかと、夢の絵なのに、なぜ、写真の通りに描くのかと

いうことですよね。写真があれば、それでいいんじゃないかと…

でしょ？もっともな疑問だということもわかっています。それで、

あの、先にお尋ねしますが、この写真の部屋を見てどう思われ

ますか？」「この写真から受ける印象ですか？」「ええ、単刀直入

に。例えば、ゴージャスとか美しいとか、成金ぽいとか、嫌いとか

好みじゃないとか○○すぎるとかマイナスイメージでも結構です」

画家はまたしばらく黙っていたが、やっと「これは私の直感なので

すが、あなたの印象とこの部屋には少し違和感を覚えます」と言っ

た。

　　　　　　　　　　　

　

　女性ははっとしたような表情の後で、「なんでそんなことが…」

と言って表情を曇らせた。「なんとなくですが、スーツにスニーカー

を履いたあなたのスタイルはもしかしたら少しご無理をなさっている

のではないかとそんなふうに感じたものですから」女性はちょっと

嘲笑するように笑った。「スーツにスニーカー？普通ですけど、ダサ

イっておっしゃるんですか？」「いえそんなことありません。女性も

男性もスーツにスニーカーを履くのは今ではごく普通だと思います。

それを最初に流行らせたのは、リーボックというスニーカーのブラン

ドで、今は別の企業の傘下に入っていると思いますが、」「ええ、リ

ーボックの話、知ってますよ。まだ女性がスーツにパンプスを履いて

満員電車で通勤していた時代に、ニューヨークに勤務する女性たちが

スーツにリーボックのスニーカーを履いて通勤し始めたのがきっかけ

ですよ」

　　　　　　　　　　　　

「そのようですね。あの社会現象からスーツにスニーカーが定着して

いったと思いますが、私個人の意見で恐縮ですが、今でもスーツに

あえてスニーカーには違和感を覚えるんです」

　　　　　　　　　　　　

「違和感？」

「ええ、この絵から受ける漠然とした印象がそれです。失礼があった

らお許しください。この部屋は非常にゴージャスでクラシックなホテ

ルのお部屋のようですが、ホテルのプロモーション用に撮られた写真

ではない感じがします。あえて非現実のように見えますが、そこには

生気を感じます。つまり、夢ではなく、現実ではありませんか？」

　　　　　　　　　　　　

　「ああ、はい。実は…なんとも、先生には参りました。洞察力の優

れた方だと言うのは伺ってはいましたが、そういとも簡単に見破られ

ると、あの、何と言いますか、自分が愚かに感じますよ…」

「いいえ、卑下されることはありません。画家の直観です。この

小さな部屋でクリスタルのゴージャスなシャンデリアとゴージャス

なカーテンは不釣り合いな感じがしたものですから。それをあなた

のお召し物に例えて言っただけです」

　　　　　　　　　　　　

　女性は、ほっとしたようなため息をついてから、落ち着いたのか、

穏やかに話を始めた。「まさに、この部屋は、現実の私の部屋で

す。私は貧しい家に生まれましたから、その反動でゴージャスな

ものとか、きらきらするものにとても惹かれるようになりまし

た。それで、貧乏ＯＬをしながら、土日は近所のレストランで

アルバイトをしていましたが、友人たちは次々と裕福な男性と

結婚する中で、私は取り残された感じを持っていました。でも、

優雅な生活に対する憧れだけはずっと持ち続けていました。そんな

平凡なあるとき、高校の同窓会がありまして、まあ、同窓会に行く

と、幸せな結婚をした友人が輪の中心になりますよね。そうなる

と、どんな家に住んで、どんな車に乗って、ベンツか、ポルシェ

かと、そんな話ばかりです。しかし、中には家が買えるくらいの

車を持っていながら、どんな部屋に住んでいるのかは秘密なんて

いう友人もいました。でも、私には何も誇れるものがなかったの

です。

　　　　　　　　　　　　　

　そして、その同窓会の後、考えました。どうすれば、私もその裕福

な仲間に入れるのかと。そこで思いついたのが、一点豪華主義だっ

たのです。お恥ずかしながら…」「なるほど、面白いですね、どう

かお続けください」画家は腕組みをした。

　　　　　　　　　　　　

　「実はゴージャスに見えますが、カーテンはもちろんのこと、

こんなにたくさんのクリスタルのついたすごいシャンデリアでも、

軽自動車より安いことを知ったのです。この二つで部屋はまるで宮殿

のように変身しました。それから自分の賃貸マンションの部屋を少し

ずつきれいにしていったのです。先生はご存じかどうかわかりません

が、今、凄いのがあるんですよ。バルコニーの柵や取手に発泡スチロ

ールみたいなものを取り付けてパルテノン神殿みたいな柱に見せかけ

られるものが。私、そんなことまでして、見かけゴージャスな部屋を

作ったのです。そして、ＳＮＳに投稿してばらまきました。でも、

同窓会で再開した友人から連絡があって、遊びに来たいというので

す、この夢の部屋に！すると、ブランドのスーツにスニーカー的な

インテリアが恥ずかしくなってきて。だって、私の部屋は１ＬＤＫ

で、この他に５畳の寝室しかないのです。それで、思い切って引っ

越すことにしました。もう少し広い部屋に。きっとこのシャンデリ

アとカーテンがもっと映えると思います。それでも、この、偽物の

パルテノン神殿の柱はかなり気に入っていますし、それなら、写真

ではなく、絵に残したいと思ったのです」女性は一気に話し終える

とすっと立ち上がった。「先生、どうかどうか、よろしくお願いい

たします」そして、ドアまで歩いて言って、また振り返った。

　　　　　　　　　　　　

　「この偽パルテノン神殿の部屋に違和感を覚えた方はいませんで

した。先生が最初で、最後です。どうか、絵のことは誰にも言わな

いでください。私の成長の夢の跡なのですから」。

　

上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

p.s.１

　クリスタルのシャンデリアは部屋を１０倍

ゴージャスに魅せます。

その下にいる人も。

魔法のインテリアです。

p.s. 2　　インスタグラム、私の日常です。

　　
「もの、こと、ほん」は下の写真から、２０２３年１０月号です。

　　　　　　　　　　　

p.s.3
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」

　　　　の英語版です。

　　　　写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

　　　　　　　　　　　

　　　　タイトルは、"Bedroom, My Resort”

　　　　Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

　　　Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms

　　　　趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

　　　　チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

　　　　E-bookにしていただいたものです。
　
p.s.３
　　　　下は日本語版です。

　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」

　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

　　　　　　　　　　　　　　　　　

シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　
（木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Amazon、書店で販売しています。なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
　　1,944円にてお届けいたします。
　
　ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　
　　　　お申込はこちら→「Contact Us」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

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