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マダム・ワトソン　My Style

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	連載９５３回　　　　　　『名画の中へ』第５話「３度目はエリー」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社
紙の本＆電子書籍）（2006年6月）
「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」
（電子書籍2014年8月）

道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
Ｆ・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

カシニョールの

描く女性は常にスレンダー

優雅と憂鬱と哀愁を足して

３で割ったような立ち姿は

美しいとしか言いようがありません。

背景の黒い海がまた

その気分を引き立てています。

第５話　「３度目はエリー」

　エリー、お元気？あれから、あっという間に１０年が過ぎてしま

いました。ほんと、久しぶり。エリーは相変わらずスリムで、うら

やましいわ～。きっと毎日を無駄なく、無理なく、きちんきちんと

生活を送っているからでしょう。

　　　　　　　　　　　　

　私？そう、私はと言えば、あなたと離れてからの１０年はまさし

く激動の日々でした。まぁ、激動と言うのは過ぎかもしれませんけ

ど、みんなそれぞれ、何かあるはずで、それが１０年も経れば、

当然、みんな激動になっちゃうものですから。

　　　　　　　　　　　　

　その私の１０年は、結婚して離婚して、また結婚してまた離婚し

て、つまり、2回の結婚と2回の離婚という失敗を繰り返した１０

年だったのです。笑っちゃうでしょう？私は大学卒業まで大失敗

ということをしたことがなかったのに…そう言えば横柄に感じる

でしょうけれど、実際、高校、大学と第一志望校にストレートで

入って、その後、大学院へゆき、そしてパリ大学にまで留学でき

たんですから、まあ、そこまでは失敗はなかったと言っていいで

しょう。その間、私の両親は私をよく支えてくれたと思います。

ほんとにエリーと同じくらいに感謝しています。

　　　　　　　　　　　　

　エリーと初めてこの家で出会ったのが、私が１８歳のとき。

そして１０年ぶりに再会した今のこの数日間を比べると、絶対に

今のほうが幸せだと思います。この数日で１０年間の人間関係の

ドロドロがすい～と漆黒の海の中に吸い込まれて行くように感じ

ます。ちょっとその辺まで旅行にでも行っていたような、そんな

気さえします。それでは、前置きはこのくらいにして、私の恥ず

かしい１０年をお話ししましょう。

　　　　　　　　　　　　

　まず、パリに留学中、知り合った男性と私は電撃結婚をしたの

です。その時は自分でも舞い上がってしまっていたと思います。

だってフランス人と結婚するのが夢だったんですから（笑）。

そして現実は見事に私の夢物語を裏切りました。夫であった彼

は別の女性とも同時に同棲していたんですよ。フランス人的に

はさほど珍しいことではないらしくて、自由恋愛というのか、

恋愛に対する許容度の大きさが半端ないってことでしょうかね、

その感覚は日本人にはちょっとなじみがないですよね。しかも彼

は、その前にも別の女性と結婚していて、その時もまた別の彼女

がいて、もうなんだかんだと５人、６人の話じゃないんです。私

が短期間に日本に戻った隙に、もう既にその彼女とは別の女性と

同棲していたんですから、笑い話ですよね。そんなこんなで離婚

しました。もう、絶対にフランス人の男なんて信用しない、どこ

ろか、結婚なんて二度と、心に誓いました。

　　　　　　　　　　　　

　その固い決意の元、日本に戻ってくると、周りの友人たちが

どんどん結婚していくんですよね。しかも、みんな幸せそうに見

えて…一度、そんな友人の家に遊びに行ったら、なんと旦那様が

エプロンをして、お菓子作りに励んでいるではありませんか！ア

ップルパイなのか、洋梨のタルトなのか、とにかくおいしそうな

香りのする焼き菓子をオーブンから取り出してきて、自ら、テー

タイムのサービングをして下さって、そして、お茶の間、笑顔で

相槌を打ちながら、私たちのたわいない話を聞いているんです。

そんなのを見せつけられたら、まぁ、私もこんな幸せな結婚をし

たいと思いはじめました。もっとステキな男性も見つかるはずだ

と思って。

　　　　　　　　　　　　

　そのうち、なんと、理想の相手が見つかったのです。最初の

結婚から３年後で、私自身、ほとぼりもさめていたのでしょう。

行きつけになったフレンチのお店のシェフと仲よくなって、足し

げく通ううちに、フランスの話で盛り上がって…そのレストラン

に通い始めて１年後にめでたく結婚したんです。ほんとうにこん

なにステキな人がいるのかと付き合っている間は幸せでした。結

婚したら、家でもお店と同じような素晴らしい料理の数々を作っ

てくれるだろうという私の甘い見込みは、結婚式の翌日から外れ

たのです。

　　　　　　　　　　　　

　彼は職人でした。私には料理など何一つ、作ってくれませんでし

た。つまり、料理を作ることがプロの仕事であって、作っているも

のは商品だから、日常の食生活とは全く次元が違う。彼はそう言い

たいのです。さらに家の食事は私が担当するのが当然のように思っ

ていたようなのです。つまり、お互いに自宅で料理を作るのは相手

であって自分ではないと思っていたのです。

　　　　　　　　　　　　

　もう驚いて、「これはいったい、どういうこと！」と、心の中

にもう「？」と「！」が交互に降り注いで…本当にスピード離婚

でした。日曜日に結婚式を挙げて、その週の金曜日に別れたんです

から。それからは、もう二度と、もう二度と結婚なんて！男なん

て、絶対に信用しないと、今度はほんとうに心に誓いました。

当然ながら、フランスもフランス料理も嫌いになりました。そして

時に拒食症、その反動で過食症になり、やせたり、太ったり、さらに

鬱になり、躁になり、そんな悪魔と詐欺師に騙されるような日々を

送っていたのです。それでも、仕事には何とか行ってはいました。

しかし、もう、思い切って実家に戻ることにしたのです。

　　　　　　　　　　　　

　さて、恥ずかしい話はこれくらいにして、今の時刻は、世間が寝

静まった明け方前の午前３時。夜の静寂（しじま）の中であなたを

じっと眺めています。忘れていたわけではないんですけど、久しぶ

りに今、こうしてじっくり対面して鑑賞しています。私に背を向け

て月の光に照らされているあなたの顔を見たいと思ったことも何度

かありました。しかし、表情を見せてくれなくても、十分、想像は

つきます。身長１８５㎝はありそうな長身でスレンダー、細い脚、

１０頭身、きっと長い髪がその帽子の中に隠されているんでしょう。

あなたには名前なんかついていませんよね。でも、もちろんある

でしょう。しかし、私はあなたのことをずっとエリーと勝手に呼ん

でいたので、つまりは私の愛しのエリーです。

　　　　　　　　　　　　

　この辛く、苦しく、苦々しい１０年間をこの数日で私はもうすっ

かり忘れてしまえそうです。エリー、その美しい顔は月光にだけ向

けられ、私に同情も憐れみもくれない、淡々と無感情な背中からに

じみ出る哀愁と喜び。そして背景はあらゆる忘れたいものを全部吸

い込んでくれそうな真っ黒な海。

　　　　　　　　　　　

　世間に背を向けたあなたのいるこの絵の中の世界が今の私にとっ

て一番の救いの場なのです。どうか、もう３度と騙されないよう

に、その絵の中から見張っていて下さいね、私の愛しのエリー。

　　

上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

p.s.１

カシニョールの女性はいつも帽子をかぶり

アンニュイな表情を浮かべていますが

珍しく表情が隠されているこの絵が、好きなのです。

p.s. 2　　インスタグラム、私の日常です。

　　
「もの、こと、ほん」は下の写真から、２０２５年２月号です。

　　　　　　　　　　　

p.s.3
　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」

　　　　の英語版です。

　　　　写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

　　　　　　　　　　　

　　　　タイトルは、"Bedroom, My Resort”

　　　　Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

　　　Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms

　　　　趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

　　　　チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

　　　　E-bookにしていただいたものです。
　
p.s.３
　　　　下は日本語版です。

　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　リゾコのベッドルームガイド」

　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

　　　　　　　　　　　　　　　　　

シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　
（木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Amazon、書店で販売しています。なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
　　1,944円にてお届けいたします。
　
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