MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載992回
      本日のオードブル

『ノックの音が』

第7話

「ロマンチックな満月の夜」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




イチョウが黄金色の絨毯を敷き詰めた

マンションの中庭。

今日は満月のようです。

ロマンチックな気分に浸りましょうか?


まさか、満月の夜だからって、

ドラキュラなんて

出てはきませんよね。



 



第7話 「ロマンチックな満月の夜」



 電満月の夜、そして、私の誕生日の夜、私は自宅マンションの5階

の小さな窓から首を出して、西の空を見上げた。


            


 「う~、まだかな?」私の窓から眺められる範囲にスーパームーン

のショウはまだやって来ていなかった。私は、風呂上りのほてった体

に、薄い肌着だけをつけて、頭からバスタオルをかぶり、申し訳程度

の小さなバルコニーに腰かけて、帰って来る団地の住人の頭にロマン

ス色の時のかけらをふりまいているイチョウの木を眺めていた。


            


 秋と冬の間の季節になると、マンションの住人しか通らない団地の

中に植えられた何本ものイチョウの木は、林立する黄金色の景色を作

り出す。こんなロマンチックな仕掛けを考えた団地の設計者はどんな

人間だったのだろう。わが世の春を自慢する桜でもなく、秋、それも

物悲しいともセンチメンタルとも捉えられる晩秋に最盛期を迎える

イチョウの木を選んだ人物とは、きっと自分と同じように変り者か

もしれない。同じ11月始めの生まれかもしれない、とそんなこと

を思いつつ、毎年、この季節を迎える。今日はその私の誕生日で、

スーパームーンと言われる満月の夜だった。


            


 いやが上にも郷愁を掻き立てられる単身赴任の自分の身には、

当然だが、家族のあたたかさが無性に恋しくなる。単身赴任を始めて

4年が経った。大学を出た息子は社会人になり、ひとり暮らしを始

め、妻は遠方で大学生になった19歳の娘にとてもひとり住まいを

させることができず、自ら転職をしてまで、娘と一緒に娘が通う大

学の近くのマンションに住んでいる。その心配な気持ちはもちろん

、私も同じだが、しかし、いつも気がかりなのは、3か所に分かれ

てしまった家族の今後のことだ。


            


 噂では、というか、息子のぼんやりしたニュアンスから、最近、

付き合い始めた彼女と一緒に住み始めたことが分かった。しかし、

当面結婚はしないらしい。私は誕生日の夜、まずは満月に向かって

うっぷんを晴らそうと思った。それは私の上司に対して。彼は気分

屋で、気性が激しく、かと、思えば猫撫で声で仕事を頼んでことも

ある。しかし、成果を上げてもイヤミの1つは言っても、お世辞で

も、褒め言葉を掛けることは思いつかないらしい。さらに、職場は

数学、物理を恋人に選んだ男ばかりで、もちろん秘めたロマンスと

は全く縁がない。こんな満月の夜に手料理を持って女性が訪ねてく

るなんて事は、まあ、映画や小説の中でしかないだろう。それでも

、できた若い部下は、私に夜食を買ってきてくれることがある。そ

んな部下には私は上司風を吹かせて、時々はランチをごちそうした

り、誕生日には、ささやかなものをプレゼントしたりして、人間関

係を良好に保ってきた。もちろん、彼らも私の誕生日には、彼らな

りのもっとささやかなものを贈ってくるようになった。そして、今

年の誕生日は特別だった。還暦を迎えたのだから。


            


 今日は退社時まで、まだ誰も、私にプレゼントらしきものを持っ

てこなかった。ということは、大いなるサプライズが期待できた。

4人の部下全員で、マンションにやってくることも想定して、飲み

物や、食べ物を冷蔵庫に入るだけ多く買って帰った。


           


 息子は例年通り、一番遅い宅配便で贈り物を届けるに違いない。

妻と娘に関しては、昨年の誕生日の時は私の帰宅が遅かったから、

待ち伏せしていた近所のレストランで待ちくたびれながらも待って

いた。今回はどうするだろうか?今のところ、予想がつかなった。


            



 私はスマホを見た。午後8時を過ぎたところだった。今年はレス

トランの予約はしていないと言っていたから、もしかしたら、二人

で最終列車に乗ってやって来るか気かもしれない。すると、部下た

ちの訪問と重なる可能性もあった。息子はやって来ないことは確実

だから、この2LDKのマンションに部下4人と妻と娘がやって来

たとしたら、私を含め、7人になる。部下が泊まることはないが、

二人が寝るためのゲストルームはもちろんある。泊まって翌朝、始

発に乗れば、娘は大学に、妻は職場に行くこともできる。


            


 バルコニーに、遠くから木枯らし音が運ばれて来た。合図だ、

と私は直感を感じた。そして、その直感は的中した。「コンコン」

玄関ドアを叩く音がした。胸が躍った。


            


 「サプライズが先だな!」と私はすぐに悟った。オートロックで

ない古いマンションには、外のインターフォンはない。しかし、

宅配便か、部下なら、玄関のインターフォンを鳴らすはずだ。つま

り、妻と娘がやって来たのということだ!サプライズ好きな彼らは

あえてドアをノックして、いつも私を喜ばせてくれる。私は少しじ

らそうと思った。このサプライズの瞬間を少しでも長く味わうため

に。


 「コンコン」また、玄関ドアに音がした。この日のこの時のため

に、私は、ハロウィーン用の仮面を用意しておいた。ドラキュラの

マスクだ。自分でかぶって、鏡の中をのぞいたとき、卒倒しそうに

なったくらいだから、この満月の夜のサプライズ合戦にはもってこ

いだ。


            


 「コンコン」3度目のノックの音がした。私は急いでドラキュラ

に変身すると、勢いよく玄関ドアを開けた。


             


 「うぁ~!」悲鳴が轟いた。そして、次の瞬間、私は大変なこと

をしでかしたことに気づいた。その地響きのような声は女性ふたり

の声ではなく、若い部下たちでもなく、頭に数本の髪の毛しか残っ

ていない自治会の理事長の発した声だった。後ろにのけぞり、廊下

の塀に倒れかかる寸前のところを私が抱き上げる恰好になった。


            


 「わ~、すみません!」それはドラキュラの私が発した声だっ

た。それから急いで仮面を外すと、平謝りに謝った。気絶すること

ろだった理事長は、息も絶え絶えで、その後、やっと正気に戻る

と、「ハロウィーンとかいうやつですか?もう、おわったと思って

ました。それより、自治会費の集金にきました。お帰りがいつも遅

いから」と私が手に持ったままの仮面を恨めし気に眺めながら言っ

た。私は慌てて、財布を持ってくると会費を彼に手渡して、また平

謝りに謝った。


            


 スーパームーンのその満月の夜、ドラキュラ以外の誰も現れるこ

ともなく、ただ、理事長が帰る前に、「玄関ドアのインターフォン、

鳴らないことはご存じでした?事務所に伝えた方がいいですよ」

と実に温かなアドバイスをくれて、私のロマンチックな還暦の夜

は終った。



   




上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1



『郵便配達は二度ベルを鳴らす』という映画がありました。

めったにないこととされるようです。

3度目なら、いらだちでしょうか?

思い通り、期待通りにゆくことはめったにないと思っていたら

ストレスなく過ごせるはずです。




p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年11月号へ。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.