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リサコラム
連載812回
      本日のオードブル

マダム・シック

第18話
最終回

「バラ色の人生は
いつ来る?」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




開け
放した
窓から、
見えるのは
パリの空か?
それとも美しい中世
ヨーロッパの街並か?
バラの香りで満たされた
バスでうっとりしている
修行から帰ったばかりの女性
バラ色の人生に至るまではそれ
なりに、がんばったようですから
今は夢の中に置いて置きましょう。




 


 第18話「バラ色の人生はいつ来る?」



 

  「『ハウスキーピングでバラ色の人生を!』ジェニファー、


おかげさまで、本は大好評!2作目のテーマ、これに決定!

よろしく!」ジェニファーは編集者キャサリンからのメッセージを

帰って来たばかりの自宅のリビングで受け取った。しかし、ジェニ

ファーは手放しで喜ぶことなどとてもできない心境だった。


            


 なぜなら、彼女の目の前には大いなる困難が立ちはだかっていた

からだった。それは自宅そのものだった。


            


 パリの美しい貴族の邸宅から戻ったジェニファーを待ち受けてい

たのは、草ぼうぼうの庭、風雨で汚れ放題のエントランスホール、

汚れた廊下、そして、食べ物、飲み物のドロップが点々と柄をつけた

巨大なソファのカバー、同じくチョコレートと油と手垢のついた様々

なリモコン。くしゃくしゃのクッションとミッキーマウスのぬいぐる

み等々が散乱したリビング。窓には羽の間にほこりを積もらせたブラ

インドが静かに佇んでいたからだった。


 「は~、なんてこと!私のいない間にこんなありさまになって!

少しは掃除でもしたらどうなの?」ジェニファーは荷物を置くと、

せめてうがいでもして気分をリフレッシュさせようと、バスルーム

に入った。しかし、そこで目にした光景に改めてぞっとした。


            


 散乱したハンドドライヤーに化粧水の瓶、夥しい数のクリームの

瓶やチューブがひしめく棚、引き出し、そして洗面ボウルの脇に無

造作に置かれた髪の毛が絡みついたブラシ。ジェニファーはため息

と共に、初日にアンヌが教えてくれた言葉を思い出していた。「髪の

毛が絡まったブラシほどだらしないものはないのよ。それを何とも思

わない人たちの家は絶対に美しくなることはないから」。


 ジェニファーはそれだけでなく、家族みんなが、今朝、バタバタと

仕事や学校に出かけた後のキッチンでさらにぞっとしない気分を味わ

った。



            


 ダイニングテーブルの上には、口からこぼれ出したシリアルの巨大

な袋が数個、ふたが半分空いたコーヒー缶、使用済みのペーパータオ

ルがぐるぐる巻きのまま放置され、出窓には腐りかけた果物の周りを

小さな虫が飛び回っている。それ以上に絶望に近いため息をつくこと

になったのは、シンクの中で汚れた食器が無造作に積み上がっている

皿の中で一匹の大きなハエが気持ちよさそうにくつろいでいる光景を

目にしたときだった。


            


 「ぎゃ~!」ジェニファーは大声を上げた。自宅に帰って来るまで

のジェニファーの高揚したハウスキーピング魂、すがすがしい精神性

を帯びた気分はひなたに置いたチョコレートのようにとろけていくの

を感じていた。そしてリビングに戻ってソファに座ろうとしたとき

思わずぞくっ、とした。シートの間から鋭角にとがったポテトチッ

プスが顔を出していたからだった。


 「ひどすぎる!うちの家族!もう、一体全体、なんなの?娘はハウ

スキーピングの本まで出しているっていうのに、実家がこんなありさ

まだって知られたら、タダじゃ済まないわ!」ジェニファーはぶつぶ

つ文句を言いながら2階の自分の部屋に上がって行った。当然のごと

く階段のすべての段の隅には以前と変わらずほこりが積もっている。

彼女はほとんど打ちのめされた状態で、半年前から誰も入っていな

いはずのドアを開けた。


            


 ぷ~んと、かび臭い匂いに思わず鼻をつまんで、慌てて窓を全開し

た。ベッドの上には一応、ベッドスプレッドが掛けられてはいるもの

の、それは過去に一度もアイロンなどかけたことのないシーツがだら

しなく脇からはみ出している。ジェニファーは自宅なのに、もう一瞬

たりともいたくない、早くここから出て行きたいという衝動に駆られ

た。そして、今日はホテルに泊まると母親にメッセージを送ろうとし

て、もしやと思った。


            


 「これって、私がいた半年前までと何とも変わっていないってこと

じゃない?つまり。私はパリでハウスキーピングの修行をしてきたけ

ど、彼らはやっていないってことよね。今までの日常をそのまま継続

していただけのことで、何か特別に悪いことをしたわけではないのよ

ね」その真実に気づいた途端、ジェニファーは飛ぶように階段を駆け

下りた。


            


 そしてリビングに置き去りにしていたスーツケースを開けたとた

ん、ダマスクローズの香りをかいだ。あのマダム・シックの家の残り

香りがもうずっとずっと遠くに行ってしまった恋人のようにも思え、

ジェニファーは胸が締め付けられ、心の中でほろりと涙をこぼした。

しかし、すぐに立ち上がった。


            


 「仕方ない。こうなったら、逃げも隠れもできない。私はハウスキ

ーピングのエキスパートの弟子なんだし!本だって出したんだか

ら!」ジェニファーはエプロンをかぶってひもをきゅっと結ぶと、

パリで使っていた白いゴム手袋をはめた。そしてまずはバスルーム

に行き、アンナに名言に従って、ヘアブラシから絡まった髪の毛を

一本残らず取り去り泡だらけにした。次に洗面室とバスルームにあ

る雑多なバスグッズをすべて洗濯かごに放り込むと廊下に出した。

それから巨大なスポンジを使って、洗面ボウル、バスタブ、バスル

ームの壁と言わず、天井と言わず全てを泡で包み込んだ。


            


 次はキッチンだった。同じく、目につくものを片端から巨大なスー

パーの紙袋に移すと、食器もシンクも調理台も、きめ細かな泡ですっ

ぽり包み込んだ。その後でバスルームに戻ると一気に強いシャワーで

洗い流し、タオルとふきんで全部の水滴をぬぐった。キッチンでも同

じことをやると、リビングに移った。


            


 ソファカバー、クッションカバー、ミッキーマウスを洗濯機に放り

込むと強力洗いのボタンを押した。ブラインドは元から外して庭とつ

ながったガレージに置くと、車用の洗浄スプレーでやはり泡だらけに

してから洗い流し、庭の木に立てかけて干した。それから、庭の草を

刈り、ほうきでごみ袋3袋分の草と落ち葉を集めた。もしそこに、家

族の誰かがいたとしても、誰もジェニファーを止められなかっただろ

う。彼女はハウスキーピングの神様が降臨してきたかのように、5時

間、一時も休まず、一気に庭掃除、床磨き、窓拭きを終えると、乾い

たソファカバー類を取り付け、パリのアパルトマン風にセンスよくセ

ットアップした。この家中の大掃除の間、洗濯機は5回転した。


 
最後にパリで買って来たシーツで丁寧に自分のベッドのメイキング

し、クローゼットから衣類を全て床に出すと、30枚を選んで、後は

すべてごみ袋に入れた。そしてクローゼットの中も掃除機をかけ、き

れいに拭き上げると、一つのベッドルームができそうなくらいに広々

としたスペースに彼女自身が驚き、感動した。空いた場所は新たな住

人、パリで愛用したエプロン5枚、アイロンのかかったパジャマ7

枚、ローブが3枚美しく陣取った。


            


 そこまで終えるとジェニファーは汗をぬぐってエプロンを外し、

バスルームに降りて来た。もう陽は傾いて、ご近所の帰宅してくる

車や人の声がし始めている。彼女はバスタブにローズのバスジェ

リーをたっぷり垂らし、バブルバスを作った。それからゆっくりと

ローズの泡の中に体を沈めると目をつぶった。


            


 
つい数時間前まで自分のテリトリーだったパリと貴族のお屋敷、

そこで暮らした麗しい日々そして今日の自宅の大掃除までを早回し

で次々に思い返した。2,30分が永遠に思えるほどにジェニファ

ーはバラの香りの中で夢うつつのトランス状態に陥っていたとき、

帰って来た家族がそれぞれに奇声ともつかない、大声を上げる声で

はっと気づいた。


            


 「ここ、うち?うっそ~!え~、どうなっちゃってるの?ジェニ

ファーよね、帰ってるの?どこいるの?家が別物になってる~?魔法

使いが棒を振ったみたい!信じられない!どうしよう!」それから

ジェニファーはキャサリンに次の本に早速取り掛かることを簡単な

文章で送った。


            


 「完全なハウスキーピングの後にやってくるもの、それこそが、

”La vie en Rose”、バラ色の人生だと思います。この線で次の本を

書きたいと思います」と


 

                             完

   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 大好きな家事をテーマにして、
実話のベストセラー、『フランス人は10着しか服を持たない』の
パロディを書いてみました。
これまで読んでいただきありがとうございます。
次は何を書きましょうか?


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年5月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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