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リサコラム
連載816回
      本日のオードブル

2CVと過ごした夜

第4話
「赤煉瓦の街で」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




煉瓦
の家
並み
石畳
の道
空に
突き出た
大聖堂の尖塔
青い2CVはこの風景に
いい感じにはまっているのでしょうか
それとも止まっているのでしょうか?


 



第4話「赤煉瓦の街で」


 

 私が山の中で2CVと一晩を過ごした日から約1年後、私はあの時の

命の恩人にお礼を言いに、彼のカフェに向かって相棒を転がしている

のだ。


            


 
あの日以来、私は何かが変わったように感じる。それがどんな変化

なのかは、まだ自分の中で消化吸収されてはいないかもしれないが。


            


 ともかく、私は1年前、動かなくなった相棒の2CVを山の中に置い

たまま、たまたま通りがかった男性に助けられ、まだ夜明け前、彼の車

に乗せられ、山を下りた。


 彼は私より10歳以上若い30代そこそこの感じで、さっぱりした

性格の青年に思えた。


            


 「このあたりは初めてですか?」彼は車の中でそう私に尋ねた。

私は「はい」とだけ答えると次に何を言ったらいいのかわからず、

「ほんとうにご迷惑をおかけしました」と言ったきり、恥ずかしさの

あまり口をつぐんでしまった。それなのに、2CVという彼のカフェ

の看板を見た時、抑えきれない気持ちが一気に湧き出てきて、まるで

5歳児のように泣きじゃくった。


             


 だいたい、40過ぎの男が子供のように泣きじゃくる様子など想像

してもぞっとするものなのに、それが自分だなんて、ほんとうに情け

ないやら、恥ずかしいやらで、今、思い出しても穴があったら入りた

いくらいだ。そんな経験はあの日を最初で最後にしたいに決まってい

る。


           


 彼が営むカフェは中で飲食はできない小さなスタンドバーだった

が、いかにもフランスと言いたげな赤と白のテントのあるかわいい

カフェだった。


            


 彼は私を外の丸いテーブルに案内すると、「ちょっと待っていて

ください。小一時間で僕の友人がきますから、隣街で修理工場やっ

てるんです」と言ってから、自分はキッチンの中に入った。中では

何かを洗う音が聞こえた。そして、恐縮するばかりの私に向かって、

キッチンの小窓から顔を出すと、「野菜、お好きですか?」と、私の

情けない気分など意に介さないかのように明るく私に声をかけた。


            


 「ああ、ええ、好きですが」「それなら、レタスとトマトもたっ

ぷり挟んでおきますね」と言うと、間もなく紙に包んだバケットのサ

ンドイッチを外のテーブルに座っていた私に持って来てくれた。


 「うちのサンドイッチはフランス式なもので、バゲットなんです」

恐縮するばかりの私ににっこり笑いかけると、香ばしい香りをぷんと

させるコーヒーマグも一緒にテーブルに置いた。私は慌てて財布をポ

ケットから取り出し、1万円札を引っ張り出した。彼は「いえいえ、

それは、結構です」と両手を広げて私を推しとどめた。「そんな、

とんでもない、どうか、取ってください」と彼と私との押し問答が

何回か続き、とうとう私は根負けして、頭を下げると、「それでは

遠慮なく」と言って、フランス式のサンドイッチをほうばった。


            


 軽やかにパリっとはじけるような音がして、たっぷりの発酵バター

の香りとともに、新鮮な野菜とチーズの味わいが口の中いっぱいに広

がった。「おいしいです!」私はモグモグさせながらも感動を彼に伝

えたくて、うなり声とも何ともつかないような声をあげると、

「それはよかった」と店の中から声が聞こえた。


            


 まだようやく朝日が昇ったばかりの朝6時前にもかかわらず、見ず

知らずの人間を助け、さらに食事まで与えてくれる、こんな若者が

まだ日本にいることに私は正直、驚いた。


            


 「あの、ほんとうに、なんて、お礼を言ったらいいのか…」

「いえいえ、ご覧の通り、このカフェもあなたと同じ2CVですか

ら。これも何かのご縁です。そして推して知るべしの、実は、私も

2CVのオーナーです。だから、お気持ち、よくわかりますよ。私

のなんか、しょっちゅうですよ。何の前触れもなく、スコンと止ま

ります。だから、あまり気になさらないでいいですよ。同じ仲間と

して、同情半分、仲間で傷のなめ合い半分って感じすから」


            


 「そうですか、カフェの名前を見た時に、もしかしたらと思いまし

た。同じ2CVのオーナーに助けられたのだと思ったら、感動というの

か、感激というのかこんな気持ちは初めてで、こんな年で子供みた

いに泣くなんて、ほんと恥ずかしい。改めてお礼申し上げます」私が

深々と頭を下げると、彼は笑いながら、「いえ、いえ、大したこと

ないですよ。私なんて、言葉も通じないようなフランスの田舎町で

同じ目に遇ったんですから」と言うと、自分の経験談を話し始めた。


            


 「まだ若かったから、贅沢なんて知らないし、野宿だって平気でし

たから、それでもまあ、何とかなったものですが、その時はフランス

の田舎で、レンタカーの2CVが動かなくなって、しかも現金もほと

んどなくなって、ほんとに途方にくれたんです」「それで、誰かに助

けてもらったんです?」「ええ、地元の方にねあの、アルビってご

存知でしょうか?南フランスの」「アルビですか?いえ知りません」

「それならロートレックってご存じですか?」「ロートレック?

ああ、画家ですよね、フランスの」「ええ、そうです。彼が生まれた

のがアルビなんです。私はロートレックのタッチが好きで、特に彼の

抱えたコンプレックスとはまるで違うおしゃれなタッチのポスターが

大好きで、それでいつか彼の生まれ故郷の南フランスの村に行ってみ

たいと思っていたんです。そこがアルビなんです。通称、『赤い街』

なんて呼ばれている赤煉瓦造りの家が並ぶ中世の街です。そこの大聖

堂は世界最古の煉瓦造りらしくて、そんな世界遺産の中世の街を2C

Vでゆっくり巡りたいなんて、そんな洒落たことを考えたんです」


           


 「なるほど、洒落てますね、しかし、お若くてそんな趣味趣向をお持

ちなんて、なんだかうらやましいです」「いえ、そんなにかっこいい

ものでもないんです。でも、人間て、どんなに体を鍛えて強靭になっ

ても、誰かの助けがなくちゃだめなんだって、その時、感じたんです

よ」私はそう言う彼の表情からその先の展開を想像した。


            


 そしてその当事者に今は私がなっていたのだった。



   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 アルビの街、中世の赤煉瓦の街並。
歩いて見たい、もちろん、2CVで走ってみたい
南フランスの街です。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年6月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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