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リサコラム
連載817回
      本日のオードブル

2CVと過ごした夜

第5話
「2CVは一日にしてならず」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




緑濃い
村の道をのんびり走るボルドー色の車
毎年、メンテナンスを繰り返しながら
子供のように育てた車のようですが、
無事に、目的地に到着しますように。


 



第5話「2CVは一日にしてならず」


 

 CVのオーナーでカフェ2CVのオーナーはバゲットのサンドイッチ

を満喫した私になぜか、恥ずかしそうに、ポケットからスマホを取り

出した。


            


 
「私のは、自慢じゃないけど、結構かっこいいですよ」彼は私に自慢

の2CVを見せてくれた。それは私の憧れの地、ボルドーの赤ワインを思

い来させる、深いダークなルビー色と黒のツートンだった。


            


 「1989年式ですが、なかなかきれいでしょ?」「ああ、ほんと

うに大事にされているのがわかりますね」「そう言っていただくと、

超うれしいです」と言うと、さっとスマホをズボンのポケットに突

っ込んだ。


            


 
「写真、嫌いなんです。撮るのも、見せるのも」「そうですか、

でもお若いのに、写真が嫌いなんて、珍しいですね」「あのぉ、何

ていうか、スマホ写真を見せるのって、ほとんどが自己満足でしょ?

見せる方は見せたくて見せるんですが、見せられる相手はどうでも

いいってこと、よく、ありませんか?」私はそこまで考える彼をと

てもかわいくて感じて、思わずふき出した。彼はびっくりしたよう

な顔をして私を見た。


            


 「失礼、さっきまで泣いていた、いいおやじが今度は笑うなんて、

ひどい話ですね。全く絵にならないですはははは。でも、それ、

その感覚、わかります。子供やペットを見せられるのは、確かに、

そうですね、でも、あなたの2CVは美しい。ほんとうに美しい。

私もそんなボルドー色の2CVを持っていたら、絶対、見せまくり

ますね」「そうですか?よかった」彼は照れ笑いをしてからまた、

話を始めた。


            


 
「実は、初めて訪れたパリで、初めてシトロエンのタクシーに乗

ったんです。そのタクシーはもちろん2CVではなく、エグザンティア

でしたが、その時のなんともふかふかで滑らかな乗り心地に驚きまし

ハイドロニューマチックのシステムを取り入れたのは、シトロエ

ンが始めてだということは知っていたんです。でも、実際に乗ると

あの、」「ああ、わかります、わかります、どんな悪道でも、舌平目

のムニエルのような極上の舌触りですよね、それに」私は話を取る

と、今度は彼が話を取り返した。


            


 「耕した後の畑を走っても、かごに積んだたまごが一個たりとも割

れないような」「でも、よく止まる」私たちはお互いに笑い出

した。


            


 CVに採用された舌平目のムニエルのような舌触りの乗り心地は

ハイドロニューマチックのおかげで、しかし、そのシステムは人間の

体をめぐる血管のようなもので、どこかから液漏れすれば、ハンドル

が重くなり、ブレーキが利かなくなることがしばしばあるから、その

先はお互いにそれ以上言わなくてもわかっているのだ。それがわかっ

ているのに、なんで乗るのか?とドイツ車や日本車信望者に尋ねられ

たとしたら、口をとんがらせて、「好きなものは好きなんだ!」とし

か言いようがない。



            


 「ああ~、ほんとうに、私はラッキーでした。ありがとうございま

す」私は笑いが収まったあたりで改めて彼に深々と頭を下げた。そし

て、「気持ちだけ」と、私はさっき引っ込めた1万円札を出した

が、「いえ、いえ。気持ちだけ頂きます」と言って彼は頑固に拒ん

だ。


            


 
「それより、あなたの車を山道で発見したときは、夢じゃないかと

思ったんです。まさか、こんな田舎の山道で私の車と同じ車を転がし

て、しかも動かなくなってしまった人がいるなんて、ほとんど信じが

たいことでした」私は仕方なくまたお札を財布に戻しながら、

「それはそうですよね、呆れたでしょ?」と照れながら言った。

すると、彼は「とんでもない」と、びっくりするくらいの大きな声

で否定した。そしてゆっくりとまた話を始めた。


            


 
「私は、すぐに、南フランスのアルビでレンタカーが動かなくなっ

てしまった時のことを思い出したんです。あの時はほんとうに参りま

した。田舎町の夕暮れの道で路頭に迷っているとき、通りがかった、

やっぱり2CVのオーナーに助けられたんです。私は片言のフランス

語といい加減な英語でなんとか自分の今の境遇を話したんですが、

すると、そのオーナーは髪の毛の薄さから年の頃、60代後半くらい

だと思いましたが、なんと私を自分の車で彼の家に連れて行って、

夕食をごちそうしてくれただけでなく、泊めてくれたんですよ。その

時のジャガイモのスープの美味しかったことは今でも忘れられませ

ん。彼は奥さんと二人暮らしでしたが、恐縮する私をまるで遠来か

らのゲストのように迎えてくれた上に、それから3晩も泊めてくれ

たのです。今、思い出しても胸が詰まります。その当時、私は東京の

ど真ん中のマンションに住んでいましたが、隣は誰なのかももちろん

知らず、当然、お隣さんと話しだってしたことがなかったんです。

なのに、海外の、全く知らない田舎町で、まるで息子のように、温か

いもてなしを受けたことから、私の人生観は変わりました。


            


 壊れるとわかっていて、修理代がかかるとわかっていて、それでも

乗りたい車に乗るのはどうしてなのかを知りたくなったのです。あの

舌平目のムニエルに例えられる乗り心地のかわいい車のオーナーにな

りたいと。故障に悩まされるのはもちろん承知の上です。そして、

お金を貯めて、いつか田舎で生計を立てたいと思うようになったん

です」


            


 
彼はそこまで話すと「おかわりいかがですか?コーヒーの?」

と私に尋ねた。「ああ、ありがとうございます。私も2CVのご

縁で、遠慮なくいただきます。でも、ほんと、素敵な話ですね」

と言うと、彼はキッチンに戻って、淹れたての香ばしいコーヒーを

持って来ると、私のカップに次ぎ足してくれた。


            


 「まだ開店前なので、どうか遠慮なく」そう言うと、彼は自分の

カップにもコーヒーを注ぎながら、さらに続きを話始めた。

「それから私は生活のいろいろを節約して、車を手に入れることを

考えました。そして、あのアルビの親切な夫妻の家へレンタカーの

2CVで、今度は、故障せずにたどり着こうと、私は綿密な計画を

立てました。このカフェもその計画の内のひとつでした。しかし、

ほんとうに、世の中も人生も計画通りにはいかないように、

まさに、あなたの2CVのように、私のレンタカーの2CVのよう

に途中で止まってしまったのです。


 そのアルビの夫妻の奥さんの方が老人施設に入ってしまわれ、

その1年後、ご主人が亡くなられてしまったんです」彼はまるで

つい、昨日の出来事のように顔を曇らせると下を向いた。


            


 「今は、奥さんがいらっしゃる施設に毎年クリスマスカードを

送っていますが、まだ全然、あの時の恩義は返していないと感じて

います」それから彼は私より10歳は若い彼は私に人生の先輩が贈

るようなユニークな考え方を話してくれたのです。



   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 2CVが欲しくなりました。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年6月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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