MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載818回
      本日のオードブル

2CVと過ごした夜

第6話
「ラベンダー畑を行く」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



青い青い
ラベンダー畑の
間の道を行く
ラベンダー色に染まった車
さて、今日無事に止まらず
帰り付けたら拍手喝采!


 



第6話「ラベンダー畑を行く」


 

 「南フランスなんて言ったら、どんな感じします?」


            


 
すっかり意気投合した私に、カフェ2CVのオーナーは、男性同士の

会話ではまず出てこないような質問を投げかけた。


            


 
「南フランス、そうですね~」私はしばらく考えてから、

「モネとかゴッホとか、印象派の画家の描いたような美しい風景

でしょうか?行ったことはありませんが、行ってみたいですね。

パリとはまるで違うけれど、ゆったりしてまさにフランスの田舎

って感じかな?ヘンないい方ですけど。そこで愛車を転がして、

ワインカーヴをめぐりたいものですね」と答えた。


            


 
「私もです」彼はそう答えてから、「でも、問題は運転できない

ことですよね、ワインを飲みながらだと」と言うと軽やかに笑った。

「ですね」私もつられて笑った。


            


 
それから彼は南フランスの風景、フランス人の画家のよもやま話、

そして彼の好きなロートレックの話を始めた。


            


 
「ロートレックって稀有な画家だと僕は思うんです。まあ、歴史に

名前が残る画家なんて、稀有な才能の反面、奇癖やおかしな考え方も

あるものですけどね。ゴッホみたいに生きている間には1枚しか絵が

売れなかったとか、自ら命を絶ったとか、若くして亡くなったとか、

いかにドラマチックな人生だったかが、死後、絵が高くなる理由にな

るのですから。画家という人物が高い商品になるためには平凡な人生

を100歳まで全うできないですよ。ロートレックもそんな切ない運

命を背負ったひとりだったんです。


            


 
彼は裕福な貴族の出身でしたが、子供の頃に脚を骨折して以来、

上半身は大人の体形なのに脚だけは子供のままだったんです。きっと

バランスの悪い体形を揶揄されたり、差別を受けていたのだろうとい

うのは想像に難くありませんよね。もとより、彼自身がそんな体形の

劣等感に悩まされていたはずですけど。その反動なのか、ロートレッ

クはとても陽気な人柄で、人に手料理をふるまうのは趣味だったと

か、料理本なんて書いていたとか、そんな救われるような話もあっ

て、私も出身地とか、学歴とか、いろんな劣等感を抱えていました

から、親近感を感じましてね、」彼は私の顔色をちらっと伺うかのよ

うに話を中断した。


            


 
「いや~なるほど、そうなんですか」私が慌てて答えると、

「いや、すみません、ロートレックを語るとき、自分のこととダブ

って見えるような気がして」と彼は恐縮した。「あの南フランス

のアルビで2CVが動かなくなった後、3日間、農家の夫婦にお世

話になって、無事になんとか日本に戻ってきたら、自分の今までの

仕事の仕方とか考え方が間違っていたのではないかと思うようにな

ったです。それからしばらくして、僕の商売道具のパソコンが壊れ

てすごく困っていたら、それを私の友人が一所懸命修理してくれた

んです。それまでは自分は彼より上だなんて思っていたんですが、

それが一気に形勢逆転というか、ははははは、わかります?」

「わかりますよ、よく、わかります、その先も」私は大きくうな

ずいて、「つまりは、その友人もあなたの恩人になったわけですね。

2CVのご夫婦と同じように」と言った。


            


 
「まさしく、その通りです。それまでは技術畑のサラリーマンでし

たから、同僚には負けてはいけない、負けるのは恥だ、人生の落伍者

くらいに思ってきたんです。なのに、私が窮地に陥ったとき、何の見

返りもなしに助けてくれる人がこの世にはいることに2度驚いたので

す。


            


 
その頃、ストレスがものすごくて、時々、憂さ晴らしに山に登って

いたんですが、辛い登りでふと背中に背負っていた重たいリュックサ

ックを後ろを歩く人がふっと持ち抱えてくれた時のような感覚を感じ

ました。そうか、自分が困ったときは人に頼ればいいのかとそんな風

に感じたんです。自分自身を強がらせていた鎧をその時、初めて脱い

だ思いでした。もしかしたら、世の中はそんな親切心で回っているの

かもと思ったら、何かうまく行くときは自分だけの力じゃなくて、

きっと多くの人が私の背中のリュックサックを下から抱えていたから

だったんだと、そんな風に思えるようになったんです。すみません、

つまんない話で」彼はまた私の顔色を伺うように言った。


            


 
「とんでもない。すごくよくわかります。だって、あなたに助けて

もらえなかったら、私は山の中でどうなっていたのか、わかりません

から」と私はまた礼を述べた。


            


 
「いえ、当然のことです」と言った彼は、明るくなってきた空を見

上げて、「今日は快晴のお天気になりそうです。でもそれだけでラッ

キーだと今は思えます。大海原に船を出した人間が順風満帆を心から

喜ぶような感じですよ」と言った。「順風満帆ですか~、私の人生は

そうではないですね」と私が言うと彼は、「それが普通なんだと思い

ます。順風満帆の反対の、逆風破帆とでも言うのか、それが普通なん

だってね、逆風だけど、帆は破れているけれど、毎日なんとかやって

行くのが普通で、何事もなく、南フランスのラベンダー畑で2CVを

転がして目的地にたどり着いて、また何事もなく、日本に帰り着いて

も面白さも感動もそこそこでしょう。でも、現実には、仕事をする、

日々を生きるのは、添乗員付きのバスに乗って、窓からラベンダー畑

を眺めているようなわけにはいかないです。故障したり、壊れたり、

失敗したり、怒られたり、辛い目にあったり、病気をしたり、ケガを

したり、それが普通、ですから。だから、それが故障するのは当たり

前の2CVに乗るのも当たり前になりました。車に限らず、物でも、

人間関係でも、メンテナンスが要らないのが当たり前だなんて思って

いたとしたら、ちょっとしたアクシデントがものすごく大きなものに

なって、それがきっかけでものごとが悪循環に陥ることもありかもし

れません。でも、日常すべてが私の2CVみたいに手はかかるし、故

障はするんだと思えば、死ぬこと以外、かすり傷って感じになったん

ですよ」


            


 「死ぬこと以外、かすり傷、逆風破帆か~すごいな~」私は感動し

て彼の言葉を繰り返しした。


            


 その時、カフェ2CVのオーナーはラベンダー畑をゆっくりゆっ

くり運転しているかのように夢見るような顔になっていたのです。



   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 「死ぬこと以外、かすり傷」この言葉は
クリス岡崎さんの言葉です。
勇気をもらえる言葉です。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年6月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.