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リサコラム
連載821回
      本日のオードブル

花を持って歩く7人

第1話

「イエローグラジオラス」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



黄色いグラジオラスを
腕いっぱい抱えた
きゃしゃな
女性
ダーク
ピンクのコートに
やはりグラジオラス色の
黄色いブーツを履いています。
どこに持ってゆくのでしょうか?



 



第1話
「イエローグラジオラス」


 

 幸か不幸か、私は街の中でも有名な花店の向いのビルの1階のオフ

ィスに勤務している。業種は旅行代理店。


            


 
2020年1月に始まったパンデミックで旅行会社全体が大不況に

陥り、そして幸か不幸か私の勤務先も同じ目に遭った。最初の半年、

お客様はほとんど誰もやって来ず、しかし、メールや電話でツアーの

キャンセルに追われた。そんな引き潮の後、暮にやって来た小波に喜

んでいたら、また、ざっ~と引き潮にお客様がさらわれた。これが幾

度となく繰り返された。元はこのオフィスは時折やって来る社長を除

いてスタッフは5人いた。それも2022年6月の今、私一人になっ

た。


            


 朝、私は郵便物を抱えてビルに入り、オフィスの鍵をがちりと開け

る。しんと静まり返った中に「おはようございます」という、私の声

が響く。返事はもちろんないが、それでも毎朝、そう言ってから、オ

フィスのドアをあける。


            


 私以外のスタッフは2020年から翌年の正月までに一人ずつ辞め

ていった。みんな、パンデミックという突然やって来た津波がお客さ

んを全部さらっていったような感覚でこの行く先の不安な日々に耐え

きれなかったのだ。しかし、私は最後までとどまった。とどまった理

由は、ただ、この仕事が好きであること、そして、この場所も好きだ

ということ、さらに、3年後には、また元に戻るだろうと踏んだから

だ。


            


 
私のこの考え方を他のスタッフは甘いと言った。もう元に戻ること

はない、世の中がガラリと変わるんだ、みんなもう旅行なんてしなく

てなって、海外の世界遺産を自宅の巨大スクリーンでバーチャルで楽

しむようになるんだと言って、4人が辞めて行った。その時は多くの

会社、学校がリモートワーク、リモート授業をやっていたし、リモー

トが新たな生活スタイルと言われ、そんな気運が世界中を席巻してい

た。だから、21世紀はバーチャルな旅が旅のスタイルになると言っ

たとしても誰も「そんなまさか?」とは言わなかったと思う。


            


 
去って行った4人のスタッフは今、どんな新たな人生を歩み始めて

いるのか、もう、連絡を取り合わなくなって久しい。それでも生活は

しなければならないのだから、みんながんばっているはずだと思う。


             


 そんな思いの中、私はどんよりどころか、暗黒の嵐の中をさまよう

小舟に一人乗った気分でいた。それでも2021年の後半には徐々に

盛り返し、とたんに一人の私はてんてこ舞いになった。それでも以前

の5分1くらいしか仕事が戻ってきてはいないから、さほど忙しいわ

けでもないが、暇に慣れるこということは恐ろしいことだと思った。

そして相変わらず不安な状況は続いている。何しろ、自由に海外旅行

に行けなくなった今となっては、私たちのこの仕事は寂しいものなの

だ。


            


 時々、私はもしかしたら夢を見ているのかと思うことがある。

夢なら冷めて欲しいと。あるいは、これまでの活況が夢だったのか

もしれないと。しかし、オフィスと歩道を挟んでの向いの1階の花屋

は今では以前とさほど変わらず、お客さんがやって来ては、花を買っ

てゆく。しばらく閉店していた頃もあったが、それもしばらくすると

店先には色とりどりの花が並び、道行く人がまばらな中でも、その花

屋だけは、にぎわっていることもある。


            


 
旅行どころではないのに、なぜ花が必要なのか?私は理解できなか

った。いったい、誰がどんな目的で花を買って行くのか?食べられない

花、眺めるだけの花、そんな花に使えるお金があれば、せめて近場で

も旅行に行ったほうがいいんじゃないのか?1万円でも満足できるグ

ルメ日帰り旅行プランもたくさんある。なのに、なのに、どうして?

私は花屋から花束を持って帰る人々をじっと見つめながら、電話の鳴

らないオフィスの中で考え続けていた。


            


 
そして、2022年6月の梅雨の季節に入り、花屋の店先にグラジ

オラスが並ぶようになった時、私は顔も、いや、上半身が隠れるくら

いの大量の黄色いグラジオラスを抱えた女性がゆっくりと弾むような

足取りで私のオフィスの前を歩いて行くのを見た。彼女はその巨大な

花束を重たそうに抱えたままで、私のオフィスの方をちらっと見た。

見たと言っても、顔も上半身も隠れているくらいだから、表情などは

わからないが、彼女はグラジオラスと近似色のブーツを履き、とダー

クピンクのレインコートを羽織っていた。そして、黄色いグラジオラ

スが90度向きを変えたと思うと、私のオフィスにゆっくりと近寄っ

てきた。私はとっさに立ち上がり、ドアの方に歩き出した。そして、

10秒ほど立ち止まった黄色いグラジオラスと黄色いブーツはくるっ

と方向転換して、ゆっくりした足取りで立ち去った。


             


 巨大な黄色いグラジオラスの花束は一体どこに持ってゆかれるの?

部屋に飾られるのか?それとも、誰かにプレゼントされるのか?私は

そんな思いを抱きながら、ガラスのドアを半分だけ開けて、ダークピ

ンクと黄色が揺れながら遠ざかって行くのをじっと見送った




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1

 新シリーズが始まりました。
ちなみに私はグラジオラスが大好きです。
カサブランカと同じくらいに。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年6月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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