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リサコラム
連載826回
      本日のオードブル

花を持って歩く7人

第6話

「世界の終わり」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




蒼くる光る海は
空が映し出しされたもの
そしてスクリーンは
それをデジタルで
見せているだけ
分かっていても
行ったような
気になるのが
憎いところ



 



第6話
「美しきビーチ」




 私は出勤すると、古い雑居ビルの一階の郵便箱を開けて、チラシの

類をつかみ取り、重いスチールのドアの鍵穴にカギを差し込んだ。


            


 
「おはようございます」誰もいない事務所に声が響く。返事は

もちろんないけれど、ひとりになっても私は律儀にこの朝の挨拶を

繰り返してきた。まあ、何も自慢できるものはないけれど、私がこの

小さな旅行代理店に入社したばかりのとき、「君のあいさつはきもち

いいね~」と言われて以来、私は調子に乗って、挨拶だけは誰にも負

けないようにと訓練を重ねてきた。挨拶に訓練などいるものか?と言

われそうだが、さにあらん。心にわだかまりを持つ人間には相手をす

がすがしい気分にできる挨拶など絶対にできない、それこそが円滑な

人間関係を作り、そして営業成績を伸ばす魔法の言葉なのだ。そう確

信して仕事を続けてきたのだがパンデミックが始まってその確信も

ゆらぎ始めている。


             


 
私は手探りで壁のスイッチを触った。パチッという微かな音を立て

て天井の蛍光灯が光った。そして店の方に行き、いつも通り壁のスイ

ッチを探した。それから店のドアの鍵を開けに行った。とたん、目に

飛び込んできた眩い光りに思わず手をかざした。


            


 
「朝っぱらから、なんだ、この眩い光は」それは私の店の前に

出現した畳3畳ほどの大きなスクリーンだった。そこには眩いばかり

の海の映像が映し出されている。花屋はバラのアーチと赤い絨毯の

イベントを終えると、早速、今度はまた別のイメージ戦略に打って

出て来たようだ。バラのアーチと赤い絨毯の『それが世界の終わり

ではない』のプロモーションは失敗したのか、あるいは成功して、

調子に乗って、またまたこんな仕掛けを考えてきたのか?私はスク

リーンに映し出される海の色、砂浜の様子、そして規則的な波の音

に耳を澄ませた。


            


 
「ここは地中海リゾートのアマルフィ海岸か、いや、海の色から

いえばカリブ海のバハマ諸島かも。バハマと言えば、そう流行りの

イギリス領タークス&ケイコス諸島だろう。それなら世界中のトラ

ベラー誌のアワードを総なめにしている、アマンヤラのグレースベ

イビーチだろうな。この海の美しさから言えば。間違ってもプーケッ

トかバリのビーチ、もちろんハワイじゃあない。いや、まてよ、

もしかしたら、この緑がかった海の色、回りは白砂のビーチアジ

アンビーチであれば、間違いなくフィリピンのパマリカン島のアマ

ンプロしかない。


            


 私の気持ちは青い海に囲まれた優雅なリゾートに飛んでいた。


            


 
アマンプロへは細長い島の真ん中に作られた一本の滑走路目に降り

立ったときから、いや、その前からすでに始まっている。マニラから

専用機で約1時間のセレブな空の旅。乗客はみな滑走路が見えると感

極まって、歓声を上げるというから海の美しさでは世界屈指と言え

るだろう。それに、辿りつくには少々、ハードルの高い憧れのリゾー

トだから、なおのこと、セレブ感をくすぐるのだ。


            


 でも、ハードルの高さで言うなら、ウイリアム王子のハネムーンに

選んだセイシェルのワンアイランド、ワンリゾートかもしれない。なん

たって、インド洋の真珠だしね」私はいつの間にかスクリーンに映

し出された海がどこなのかと想像を巡らせながら小一時間もじっとス

クリーンを眺めていた。が、はっとして自分の店を見渡した。


            


 壁にはお決まりのニューヨークのタイムズスクエア、ロンドン、

イタリア、フランスのヨーロッパ各地の観光地と、ビーチで寝転がる

ビキニ姿の女性たちが写っているハワイのポスターが並んでいる。

パンデミックの前からだから、貼ってからもう4年は変わっていな

い。いや、ヨーロッパのポスターは7、8年前から変えた記憶がな

い。それに比べて、近所の花屋はどんどん新しいアプローチを始め

ている。私は高いがけに囲まれた谷底にひとり置いておかれたよう

な、空恐ろしい気分に陥った。そして私はもう一度、あのスクリー

ンを眺めた。


            


 時折、スクリーンの前に花を持った客がやって来て、その前で

ポーズを決める。写真か動画を#○○花屋とつけてSNSに投稿するの

かもしれない。すると、キャッシュバックがあるか、プレゼントがも

らえるか、もちろん抽選だろうが。それでも、やりたくなる気持ちも

わからないではない。しかし、ポーズを決めるのは花屋の壁にかけら

れたスクリーンの前で、なぜ、うちのポスターの前ではないのか?

そんなばかばかしい質問をするまでもないことが私にもわかった。


            


 「この店はみすぼらしく見えているんだな。みすぼらしいところ

には誰も寄り付かないってことか。でも、このままでいいわけがな

い。なにかやらなくては。花屋に負けているのなんて。いや、花屋

は私の店のことなど眼中にさえないはずだ」


            


 私はよろよろと椅子から立ち上がると、古いポスターをはがし

にかかった。




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1

 アマンプロ、ずっと憧れのビーチリゾート。
そして近いようで行きにいビーチリゾート
でも、リゾートとは本来、「遠くにあって思うもの」
そうでなければリゾートとは呼べないです。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年8月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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