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リサコラム
連載831回
      本日のオードブル

窓をめぐる
ショートショート

第4話

「マダムのデリバリー」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



白いフレンチ窓
向いにはパリの
街並のような
風景
女性が
ひとりで
じっと街並を
見ているようです。
もしかしたら秘密のサインを
送っているのかもしれません。


 



第4話
「マダムのデリバリー」




 長い栗色の髪の毛をそよぐ風になびかせながら、アイボリーホワイ

トのローブと同じ色のサンダルを履いた私の顧客のマダムはフレンチ

窓の外から向いの建物をしばらく眺めていました。しばらくして私の

方にすっと向き直ると、「こちらのブルーのベルベットのカーテンも

すてき。それに窓からのこの景色も大好き。ご近所のお店もステキで

みんな親切だし、何よりあの古い部屋がこんなに美しく蘇るなんて、

信じられないわ。いいお部屋をみつけていただいて、こんなにきれいに

して頂いて、ほんとにありがとう。


            


 「マダムのお気に召すように、がんばりましたから。気に入ってい

ただけましたらうれしいです」「ええ、パーフェクトよ」「他に何か

ございますでしょうか?」私は以前からの顧客のこのマダムのご希望

の部屋を探し出し、半年かけて内装工事を請負ました。そして少し時

間ができたので、先週、入居したマダムのごきげん伺いにお部屋を訪

ねたところでした。


            


 「いいえ、今は何もよ」「そうですか、でも、また、何でもお申し

付けくださいませ。私もマダムのお手伝いができてほんとうにうれし

いですから」マダムは振り向いてにこやかな笑みを浮かべながら、

「お茶でもいかが?」と言うと部屋の中を見渡しました。がらんと

したサロン風の部屋にはテーブルもなく、ただ、デッキチェアとキ

ャンバスと絵の道具だけがあるだけでした。「ああ、私としたこと

が、そうそう、テーブルも椅子もまだ用意してはいなかったわ」

「いえ、どうかお構いなく。突然伺ったのに、私の方こそ大変失礼

いたしました」と帰り支度をしていると、マダムは窓の周りを見渡

してから、「ああ、そうそう、このカーテン、どうやって動かす

のかしら?」と少し恥ずかしそうな顔で質問したのです。


            


 「はい、こちらのカーテンはリモコンなどで動かすものではござ

いませんので、こうやって手動で左右に引いていただければ結構で

す」「なるほどね、私、リモコンもスマホも全然得意じゃないの。

スマホでアプリをダウンロードして、アカウントとって、パスワー

ドなんていうの?まるで苦手なのよ。それでちょっと心配になって

…」「いえ、ご心配には及びません。このお家はデジタルとは無縁

な構造ですから。エレベーターさえない築70年の建物ですから」

「それなら安心だわ」マダムは私の顔を見て、ほっとした表情を浮

かべました。そして、「ぜひ、お茶でもご一緒させて」と私に懇願

するように言うのです。


            


 「いえいえ、お構いなく」私はそう言いながらも、テーブルもな

いにもかかわらずどうやってお茶をするのかなと不安になっていた

のです。


            


 「もしかして、お忙しいの?」「いえ、この後、予定もありません

」「それなら、そうさせて。ちょっと待ってね!」マダムはそう

言うと、床の上に転がっていたアンティークショップでしか売ってい

ないような電話機を持ち上げるとダイヤルを回しました。


            


 「こんにちは、私、お元気?ええ、もちろん、元気だわ。あのね、

この間お願いしていたティテーブルと椅子、今から配達していただけ

るかしら?あら、そう、何度もお電話いただいたのね。ごめんなさい

ね。私、このところ忙しくてアトリエにも自宅にもほとんどいなく

そう、大丈夫?ありがとう。それじゃ20分後くらいね。待っ

てるわ」マダムは電話を切ると、あっけにととられている私にはま

ったく目もくれず、またくるくるとダイヤルを回し始めた。


            


 「こんにちは、私、元気よ、もちろん。1週間もご無沙汰?あら、

そうだってかしら?ごめんなさいね。このところ、なんだかんだって

忙しくてね、あの、今からいつものアフタヌンティセット二人分、

お部屋に持って来ていただけるかしら?そう、あの白いレリーフの

入ったセットでそうそう、いいの?ありがとう。30分後くらい

ね?パーフェクトだわ。それじゃ、よろしく」私はいったいどこに

どう電話をすれば、こんなふうにすぐに配達してきてくれるのだろ

うと考えていました。今、即配と言えば、都心のネットショッピン

グでしかできないと思っていたのです。その時、マダムが重たそう

な電話機を抱えたままでいることにやっと気づきました。私はマダ

ムが何も見ずに電話をかけることにあっけにとられていたのです。

慌てて私は電話機持ちの役になりました。


            


 「こんにちは。私、ご無沙汰してごめんなさい。お店にもお邪魔

するけど、持ち帰りでシラビラメのシャンパンソースと付け合わせ

にアスパラとほうれん草のソテー、そしてイカのフリットをお願い

できるかしら?ああ、焼いたレモンを添えて、あったかいままで持

ち帰れるようにしっかりパッキングしてね。それに、揺れてもいい

ようにね、分かってる?もちろんよね、失礼いたしました。ええ、

一人前で結構よ、ありがとう。それじゃ、1時間後くらいにね、指

笛ね、もちろん、いいわよ」私はマダムが最後に言った口笛とは何

なのかとか、とにかく疑問でいっぱいになりました。しかし、その

後の展開はまさに舞台装置のようにドラマチックだったのです。


             


 まずはマダムの電話から20分後くらいに、家具屋さんのスタッ

フ2人が円形のテーブルと椅子2脚を運び込んで来たのです。マダム

はすぐに壁際に丸めてあった絨毯を指差すと、ちょっと太り気味の中

年の男性スタッフが、「OK!」と言ったかと思うと、くるくると巻

き戻すようにサロンの真ん中に絨毯を広げ、その上に先ほどのテーブ

ルと椅子をセットして帰りました。


           


 そして入れ替わるように、大きなバスケットを持ったアフタヌーン

ティのデリバリーがやって来ました。まず、テーブルと椅子をきれい

に拭き上げたあと、白いテーブルクロスをぱあ~と広げて、その上に

3段のケーキスタンドを置き、サンドイッチ、スコーン、ケーキ、数

種類のジャムの瓶を置きました。そしてキッチンでお湯を沸かすと、

お茶まで淹れて帰って行きました。


            


 「マダム、こんなサービスが、いったい、あるものなんですか?

私、初めて見ました。しかも、電話一本で、まるで魔法みたいですけ

ど…」マダムはにっこり笑っただけでそれには答えず、「仲良くなっ

たらいろいろといいことがあるものなのよ」とだけ言って、レリーフ

の入った白いポットから私のカップにお茶を注ぎました。


            


 「さあ、いただきましょ、ご近所で評判のアフタヌーンティ専門

店、見つけたのよ。スコーンもケーキも全部手作り。味は私のお墨付

き!」私はただただ、床に転がったアンティークな電話機を眺めなが

ら言葉も出ないほどに驚いていました。それでも、お茶もお菓子も私

が今までいただいたものの中で最高でした。食いしん坊の私はうれし

さのあまり、もう夢中でサンドイッチもスコーンもケーキもパクパク

と口に運んでいました。そして、マダムの分までいただき、挙句の果

て、「突然押しかけて、アフタヌーンティまでごちそうなって、ほん

とすみません」としか言えませんでした。


            


 
「ひゅ~」どこからか、甲高い指笛の音が聞こえてきました。マダ

ムはローブを上品に翻して、すぐに窓のそばまでやって来ると、下に

向かって手を振り、それからアフタヌーンティを運んできたバスケッ

トの取っ手に手慣れた手つきで細めのロープをくくり付けると、お札

を何枚か入れてするすると下に降ろしたのです。


            


 それから1,2分後、また指笛が聞こえると、マダムは紐をするす

ると引き始めました。私は後ろで見ていて何が始まったのかとまたま

た驚くばかりでした。そして、マダムが引き上げたバスケットの中に

はナプキンで包んだ箱が入っていました。「さあ、最高においしい舌

平目のムニエルよ、晩ご飯にどうぞ。エレベーターなしの階段だから

こうして、イタリア式のお買い物方法を思いついたの。アナログ式も

便利な時があるのよね~」マダムはそう言うと、あ然としている私の

胸にシャンパンソースが香るほかほかの箱をそっと押し付けるように

して渡したのです
.。




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1

イタリアにはこんなマダム、いるようですね。
いや、ここ日本にも!
毎日が楽しいでしょうね。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2022年9月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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