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第2回 「負けられない相手」
春に間近い早春のカフェ。街路樹の木々は次第に青い葉をつけ始め
ているものの、時折、木々をざわざわと揺らす風にテラス席の人々は
ぶるっと身震いをしているようです。
さて、それでも、春の気分を味わいたくてか、吹きさらしのカフェ
でお昼休みのひと時、カフェの丸いテーブルを囲む女性二人。ひとり
は青い半そでシャツにデニムのパンツ。もうひとりはシフォンレース
がピンクの濃淡で幾重にも重なったバレリーナの衣装のようなワンピ
ース。ふたりのお名前ですか?さて、わかりませんが、服装から、ひ
とりはローズさん、もうひとりはブルーさんとでも呼びましょうか。
フランス人の友人を持つローズさんは今日も熱心にフランス人と日本
人の違いをブルーさんにぶっているようです。二人のおもしろそうな
話にちょっと耳を傾けてみましょうか?
「それで、今日はどんな比較文化研究?」
「それがね、そのフランス人の友人の友人が最近、アニメ好きが高
じて日本にしばらく遊びに来てるんだけど、その彼が地下鉄の朝の通
勤ラッシュにびっくりしたんだって」
「えっ?フランスには通勤ラッシュなんてないんだ?」
「いや、もちろん、パリでも、他の都市でも通勤ラッシュはあるけ
ど、彼、曰く、その満員以上の満員電車に乗って日本人がまるでエイ
リアンみたいに思えてきたって」
「エイリアンって、どういうこと?島国の人間だからってこと?」
「いや、そんなことじゃなくてね、その彼は、それまで日本人とい
うのはとても親切で丁寧だと思っていたのに、電車に乗ったとたんに
豹変するんだって知って、びっくりしたんだって。つまり、自分が電
車に乗るために、降りるために、他の人をどんどん押すじゃない、彼
は押されてどうしたことかとびっくりしてその押している人たちの顔
を見たら、表情は全くのZENだったて言うの」
「ゼン?」
「そう、つまり、禅寺の禅ってこと。Z, E, NでZENよ!」
「ゼンとか、ZENとか言われても、わかんないわ~」
「私も最初は意味がわからなかったわよ。日本人は普段、関係者で
ない限り、禅なんて使わないでしょ。でも、フランスではもう、外来
語になっていて、まさに禅寺の和尚さんや修行僧が醸し出す冷静沈着
な雰囲気を言っているみたいよ。でも、フランスのラジオでもZENっ
てけっこう耳にするし、かなり、広義に使っているみたいよ。雑誌記
事のサイトなんかでも頻繁に見かけるしね」
「は~、フランス人ってそんな難しい言葉を輸入して簡易に使って
いるんだ~。おどろき!」
「らしいわよ」
「まあ、考えてみたら、他人を押して入るのも、満員電車でだけ許
された、なんちゃって善行?っていう感じかしら?」
「でもね、笑い話では終わらないみたいよ。彼曰く、もし、パリの
地下鉄でそんなことをしたら、間違いなく戦争になるって!」
「戦争!そんな大げさな」
「いや、大げさじゃなくて、そのくらい大変なことになるらしいわ」
「警察沙汰になるってこと?」
「かもね。要するに、そこが、彼が日本人はエイリアンだっていう
ことじゃない?普段はおとなしくて、親切で、デモなんてしそうもな
いし、電車は2,3分おきに正確に来るし、めったなことじゃ止まら
ないでしょ?フランスじゃ、ダイヤの乱れなんてしょっちゅうだし、
突然、電車を降ろされて、何時間も足止めされるってこともあるけ
ど、そんな時でもだれも、人を押したりしないってことよ。だって
それ、暴力行為でしょ?」
「まあ、そう言われてみれば、そうかもね。フランスではストラ
イキなんて、一番、みんなが迷惑な時にやるしね。クリスマス休暇
でみんな里帰りするときとか、外国人がたくさんやって来るイベン
トの多い冬の時期とかね。でも、彼らは寒い構内で足止めされても、
動いている交通機関を探して長い行列を作っても、みんな仕方ない
ね~みたいな表情でさ、呆れてはいても、怒ってはいないよね。
まあ、自分もストライキやっていたら、お互いさまってところもあ
るのかもしれないけど」
「そうね~それにフランスはデモがすごいでしょ?黄色いベスト
運動もあったけど、今は年金の支給開始年齢が62歳から64歳に
上がるってことで、大変なことになってるでしょ?そのデモの参加
者が全国で1日、200万人よ!人口、6,700万人しかいない
のに、200万人よ!」
「6,700万、割る200万って…ええと、33.5人!赤ちゃ
んも子供も入れて33.5人に一人が参加してるってこと?
すごい!信じらない!」
「よね~、日曜日にあのシャンゼリゼ大通りがデモの人たちで埋
まるのよ!日曜日の銀座で何万人規模のデモ行進なんて、きっと日
本人しないでしょ!?それも、全国の都市で一斉にだから!」
「ほんと、そんなすごいデモ行進なんて言ったら、60年代のベ
トナム戦争反対とか、日米安保反対とかで大学生の学生運動を歴史
の教科書で学んだくらいかな?でもさ、今の若い人にそんな覇気あ
るかな?私は悪いけど、ないわ、若くもないし」
「それがね、年金問題でデモやっている人たちって、若い人とか
中年とかばかりじゃないのよ、リタイヤした人たちもいっぱい!中
には80代もいて、すでに年金はもらっているひとたちでいっぱい
よ。そんな70代、80代って、自分たちの子供や孫のためにデモ
やっているんだから。すごい覇気あるよね~」
「スゴ!私のおじいちゃん、おばあちゃんはおかげさまで認知症
にもならず、元気で、テレビ見て、あ~だ、こうだとは言ってはい
るけど。でも、テレビの前に座ってお菓子食べながらだから。デモ
なんてとんでもないって感じするわ」
「でしょ?それが、そんなデモに参加しているおばあちゃんた
ち、みんなお化粧して、イヤリングして、着飾ってるのよ。まあ、
フランス人の女性は着飾るのを止める時は、人間を辞める時って思
ってるみたいけどね。女じゃなくて、人間をよ」
「なるほど、だからあなた、いつもそんなバレリーナみたいな
衣装着て、女をアピールしてるってこと?」
「まあね、自分を鼓舞するためよ。寒くていい加減になりそう
になる自分をね」
「はは~ん、だから、こんな肌寒い日でも、
そんなひらひら着てるんだ」
「まあね、半そでのシャツ着て、やせ我慢して、女の強さを見せ
つけてる、あなたと同じよ」
「そうね、まだ、フランスの女には負けられないわね」
「もっちろん!
上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。
*リサコラムは毎週水曜日に連載いたします。
p.s.1
負けられない相手はいますか?
もちろん、私もフランス人の女性!
p.s. 2 インスタグラム、私の日常です。
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年2月号です。
p.s.3
E-Book「Bedroom, My Resort リゾコのベッドルームガイド」
の英語版です。
写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。
タイトルは、"
趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
E-bookにしていただいたものです。
p.s.3
下は日本語版です。
E-Book「Bedroom, My Resort リゾコのベッドルームガイド」
どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。
バックナンバーの継続表示は終了いたしております。
書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。
どうかご了承くださいますように。
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