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リサコラム
連載852回
      本日のオードブル

カフェにて

第4回

「長いイントロ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




濃い
緑の天井
ハーバル
グリーンの壁
白い格子窓に
淡いブルーの
シフォンレース
ライラック柄の
ドレープと曲線バランスカーテン
壁にはパリの有名なモニュメント
三段ケーキスタンドが乗せられた
テーブルクロスにもそんな刺繍が
楽しいアフタヌーンティ談義が
交わされているのでしょうか?



 



第4回
「長いイントロ」

 

 「私、最近ね、あるマダムにご招待を受けたのよ。それもアフタヌー

ンティ…」


            

「わ~、すごいじゃない」


「彼女、フランスにも10年住んでいたイギリス人のマダムだった

の。そのお屋敷のお宅をリフォームしたから、お茶でもって、お呼ば

れされたってわけ」


            


「わ~、すてき、イギリス人のお宅のアフタヌーンティなんて!


私、そんなチャンス、まだないわ~うらやましい!勉強なったでしょ?」


「まあね、予定の日が1月半らい先ぐらいだったから、心の準備をす

る時間もあったんだけど、でも、だんだん不安になってきちゃって。

だって、その方とは面識がなくて、その方の友人が私の友達だったか

ら、どう振舞ったらいいのかしらとか、どんな格好して行ったらいい

のかしらなんて心配になって来ちゃってね、それで練習を兼ねてシン

ガポールに行ったのよ」



「へ~、お呼ばれの練習のために?そんな心配いらないでしょ、単に

アフタヌーンティじゃないの」


            


「あなたって、私の歯医者さんみたいなこと言うのね」


「歯医者さん、なに、それ?…」


「私の歯医者さんにね、『先週、その歯医者さんに行って、その前

キャンセルした理由を、シンガポールに行っておりましたので、

1回スルーしてすみません』、って先生に言ったの。そしたら、何

しに行ったって聞かれるから、歯をぎーぎー削りながらよ、こちら

はぎーぎーやられている方でしょ?私、ろくに答えられないじゃな

い!なんとか、『プール』って言ったの。シンガポールだから、

日本が冬でも暑いのよ、そしたらね、『プールなら、そこの市民

プールがあるじゃない!』なんて言われるのよ。先生はいいわよね。

削る方だし。でもこっちは口開けてるから反論もできないわけよ。

でも、悔しいから、ぎーぎー言わせられながらもやっとのことで、

『アフタヌーンティも』って付け加えたのよ、そしたら先生、

『アフタヌーンティって?午後茶?午後茶になんでシンガポール

に行くんだ?』って」


「まぁ確かに日本語にすれば、午後の茶お茶ってことよね」


「ええ、もちろん、ごもっともですよ、それはそうだけど、

『午後茶しにシンガポールか、ワッハッハッ』って笑うのよ。

でもね、シンガポールって、結構アフタヌーンティが有名な

のよ。だからよく、ヨーロッパの格式あるホテルのアフタヌー

ンティとかレストランに行く前の練習場に、シンガポールの

ホテルが適しているなんて言われるじゃない」


            


「あら、そうなの?そんなの聞いたことない」


「もう、あなたって、ほんと、私の歯医者さんに似てるわ!」


「それで寒い日本だし、温泉気分でシンガポールに行ったわけ、

それがね、ホテルのアフタヌーンティは結構なお値段いたしまして

ね。シンガポールって、昔、イギリスの植民地だったでしょ、だか

ら、正当なけどイギリスのアフタヌーンティをいただけるかと思い

きや、あの飲茶っていうの?焼売とか餃子が乗ってきたのよ。あれ

っ~て感じだったわ、それも3段じゃなくてね、広めのお皿で2段

だったのよ」


            


「いいじゃない、2段だって」


「そうかもしれないけど、もちろん、私、わざわざ、本場のアフタヌ

ーンティを体験しに行ったんだから、その、3段じゃなきゃダメなの

よ~、ほら、日本のお茶、つまり千利休さんの、日本のお茶には作法

があるでしょ、お菓子が先か、お茶が先かなんて、そんなのわからな

かったら恥ずかしいじゃない。つまり私もネットで勉強してから行っ

たのよ、 1段目がケーキ、そして2段目がスコーンとクロテッドクリ

ームとジムも添えてあって、3段目が、きゅうりのサンドイッチみた

いなね。それ、どの順番で食べるか知ってる?1番下から食べて行く

のが正解という人もいれば、人によっては真ん中から食べて上下に行

くのがいいとか、まあ、今はさまざまらしくて。でも、確かに、きゅ

うりのサンドイッチって甘くないよね、それ食べてスコーン食べて、

ケーキを食べる方がまぁ、なんとなくオードブル、メインディッシ

ュ、デザートって言う感じで理にかなってるかなと思うんだけど、

でもそんなにたくさん食べたら、まさしくお食事でしょ」


            


「もちろんお昼は抜いていくんじゃないの?」


「まあ、そうね、それで2泊4日のシンガポール、アフタヌーンテ

ィ旅行から帰って、考えたのよ。マダムから、好みのお茶を聞かれ

るかもしれないから英語でどう答えたらいいかとか、お茶の種類と

特徴も勉強したわよ。ミルクが先か紅茶が先か、お砂糖は入れる、

入れないとかね。まぁ、調べれば調べるほど、アフタヌーンティは

午後のお茶ってわけにはいかないってわかったわ。でもその前に、

挨拶が先でしょ?グッドアフタヌーンでいいのかしらとか、ハロー

がいいのかしらとか、その後、ハウアーユーって聞かれたらなんて

答えるかとか、でも、いざとなると、口をついてでてこないものよ

ね、緊張してね」


            


「まあ、そうなの?あなた英会話ずっとやってるんじゃない?」


「それはそうだけど、即戦力と言われると、ちょっと厳しいのよ~

まあ、日本人の英会話なんだから。私の部下に前に聞いたことがあ

る。その彼女、イタリア語やってるのよ、もう1年くらい。それで

も、私だって、ボンジョルノくらいは知ってるわよ。あなた知って

る?」


            


「ボンジョルノって『こんにちは』でしょう」


「そうよ。まあ、ボンジョルノを知ってたら、観光客にはなれるわ

よね。それで、私、その彼女に、『はじめましてってなんていう

の?』って聞いたの?彼女、そしたら、『そこまでは…』なんて

言うのよ。『そこまでは、って、あなた、そこから始まるんじゃな

いの?』って、言ったわよ。日本人の外国語ってそうなのよね、

結局、日常会話になるととたんにゼロになるのよ。会話って、即興

力がいるじゃない、まぁ、私も似たり寄ったりなんだけどね。それ

でも、『ハワアユー』て聞かれたら、『グッド、サンキュー』って

答えて、後は、英語が達者な友人が通訳してもらえばいいかなと思

って。だから、恥ずかしくないようにアフタヌーンティの作法を実

戦練習に行ったつもりだったのよ」


            


「わざわざ、シンガポールまでね!」


「さらにね、そうとう美しい屋敷らしいから、服も新調して、靴なん

かピカピカに磨いて。もちろん、午前中には美容室に行ってセットし

てもらってね。そしてお昼も抜いて、午後2時にそのお宅に行った

わけです」



「それで、どうだった?」


「ええ、それはもう素晴らしいお宅でね、螺旋階段でしょ、吹き抜け

の廊下の窓には長~いカーテンが下がっているでしょ、あちらこちら

に踏んでいいのかどうかためらうような高級絨毯が敷いてあって、

おっかなびっくりで。それでお家の中を、バスルームまで全部、見せ

ていただいて、感動して、それじゃあお茶でもいかが?って言われ

て、入ったところはキッチンで、日本人みたいに、壮大なシステム

キッチンじゃないのよ、わりに小さなキッチンで、お茶したのは朝

食用みたいな小さなテーブルで」


            


「あらまあ、そう」


「私、3段のケーキスタンドのこともちゃんと勉強してきたから

もう、作法は大丈夫と思っていたら、なんと、素敵なマグカップに

お茶が出たの。こちらは、どこどこに行った時に買った○○焼きと

か、それはお孫さんからのプレゼントのお皿で、その上にクッキー

が乗っていて『クッキー、どうぞ』って!それだけ。お隣の日本人

マダムの手作りのクッキーだったらしいけどね」


            


「見事に、肩すかしってこと?」


「彼女が私たちを呼んだ目的はアフタヌーンティではなかったみ

たいで、つまりリフォームしたお家を見てもらいたかったのよ。

お茶は普通のおもてなしって感じ。それでね、まだ、その先がある

の。そのマダム、ペラペラの日本語だったのよ、『ハワアユー?』

なんて聞かれなかったの。だって、日本人て「お元気ですか?」な

んて面と向かってあんまり言わないでしょう。彼女は正しく日本人

でした。日本に30年以上も住んでるから、今では日本語から先に

考えるのっておっしゃってたわ。だから、イギリスにいるお母さま

と電話でお話しするときは、毎回、日本語が先に出て、あれ、英語

でなんて言うんだっけなんてことになるらしい」

            


「私の好きなピーター・バラカン並ね!」


「まあね、それなりに楽しかったわ、素敵なお宅を見られて。でも、

ブリュッセルの小便小僧、コペンハーゲンの人魚姫、シンガポールの

マーライオンに、アフタヌーンティを加えたい気分なのよ~」


「何それ?」


「最初の3つは“世界3大がっかり”っていうの。現物はイメージして

たほどはないってこと。まあ、先生の言った、午後茶?は確かにそ

の通りよ。まあ、みんな忙しい日常のお茶はそんなものよね」


            


「なるほど、だから、フレンチなカフェでお口直しってことですね」


「そう。長いイントロのこの話こそ、今日の3大がっかりになりませんようにね




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *リサコラムは毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1

 今は高級なアフタヌーンティがまだ大ブームのようですね。
ほとんど女性同士です。
カップルでアフタヌーンティは似合わないのでしょう。
男性同士はもちろんのことですが。

p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年2月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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