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リサコラム
連載861回
      本日のオードブル

スキャンダル・ イン・
ホテルモリス

第4回

「 突然にやって来たもの」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




緑色の中に
土色の道が一本伸びて
その先に古めかしい一軒家
ピンク色の煉瓦の壁に茶色い屋根
青い庇
深い
深い
森の中
に佇む
お屋敷こそが
ホテル・モリス



 



第4回 「 突然にやって来たもの」



 「ちょっと外の空気を吸ってくる」私は今日、ここに来るために

新調した麻色の綿のジャケットを羽織るとリビングを出た。そして、

玄関の重いドアを開けた途端、目に飛び込んで来たのは家の前庭から

つながる緑の芝生と雑草が共存する庭だった。


            


 その真ん中に一本の土の道が、この別世界から塵芥へと伸びてい

る。この道も彼が切り開いたに違いないが、家の前の開けた場所を

しばらく行っても煮炊きをする時などに感じる人間の営みの匂いが

しない。そして、家の裏はと言えば、裏庭に塀はなく、ただ大きな

木が植えられているだけで、そのまま鬱蒼とした森につながってい

る。この家の唯一の主人である彼はひとりでこの森を切り開き、家

を建て、水道、電気、ガスをこの家まで運んできたことになる。


            


 「ああ~すごいな」私は深いため息をついて、改めて彼の荘厳な

作品、ホテル・モリスを仰ぎ見た。すると得体の知れない、胸につ

まるような気分がどっと押し寄せてきた。そんな友人がなぜ、私に?

よからぬことを企てるようなそんな小さな人間に、彼のようなすごい

人間がなぜ?


            


 彼の家は、まさしくイギリスの田舎にある家を移築したような風情

を持っている。しかしそれは移築されたものではなく、彼がイギリス

の田舎の家を研究し、忠実に真似て作った古めかしく見せた新築の家

である。イギリスでは古い家ほど価値があると言われ、さらに幽霊で

も出ようものならその価値はさらに上がると言われる。しかし、一体

どうやってここまで作り上げることができたのか、その工程も彼の努

力の欠片さえ、想像がつかない。自力で家を建てるなんて、私にはエ

ベレスト登頂と同レベルの不可能な神の領域に他ならないから。その

神の領域に達した強靭な精神力の人間から見れば、小さな衝撃で瞬く

間に崩れ落ち、水でもかけられたら、へなへなと溶け出してしまうら

くがんのような私になぜ?


            


 私は家を取り囲む緑に向かってゆっくり、いや、恐る恐る入って行

った。私に降ってわいたような幸運、いや、これを幸運と言うのか、

はた迷惑と言うのか、あるいはまた不幸への扉なのか、開けてみない

ことにはわからない。私は返事を保留したままで外の空気を吸いに行

ってくると言ったが、内心は、興奮のために足元もおぼつかない感じ

で玄関を出たのだった。


            


 確かに、今日はいつもの彼とは違って少し違っていたような気が

してはいた。私に新しい部屋を見せたかっただけではなかったのだ。

それに、いつもは2か月くらい前から遊びに来ないかとの打診がある

が、今回はそれが2週間前だったから、彼にしてはかなり急だった。

そんなことを思いつつ、どう返事すべきか?と、かさかさとなる地面

の音に答えを探しながら私は歩き続けた。


            


 森の中はとても静かだった。時折、小鳥の鳴き声が響き渡る。

まあまあの天気の昼間でも森の中は薄暗く、冷房の効いた部屋に入っ

たようにひんやりと冷えている。ああ、ここはまさに森の中なのだと

改めて感じる。


            


 イギリス人はわざわざ田舎に住み、時間をかけて電車で都会に通勤

する生活がステイタスだといわれるが、その暮らしとはこんな古めか

しい家で休日、家の修繕をしたり、庭の手入れをしたりして過ごすこ

となのか?窓を開ければ隣のビルしか見えない私のマンション暮らし

とはまるで違う。さらに、何でも簡単に手に入り、簡単に出来上がな

いと、なぜ?と感じる人間には、似つかわしくない暮しだと断言

できる。


            


 ずっと以前、アメリカのメディアが、日本人の家をウサギ小屋と

呼んだらしいが、当然、広い家で優雅な暮らしをしている日本人も

いれば、それを肯定せざるを得ない日本人もいるだろう。私は確実

に後者の方である。それでも、狭い住まいながらも、インテリアに

対して意識がなかったわけではないが、壁やカーテンに対して思い

入れなどはまるでないと彼のこの家を見てわかった。


            


 ホテル・モリスには全ての窓に見たことのないよう生地のカーテン

が掛けられており、その上に飾りまで付いている窓もある。壁は色や

柄のあるものしかない。私には想像もつかないセンスだと思うが、

私にとって「インテリア」は、「なくても不自由しないもの」と区別

がない。しかし、彼はその「なくても不自由しないもの」に、自分の

すべてを費やしているように見える。もう十分だろうと思うイギリス

の田舎の家のモデルのような家に彼は日夜、手を入れながら住んでい

るのだから。


            


 私がもし、こんな家にずっと住んでいたらどんな心持ちになるのだ

ろう?人間性が変わるだろうか?私には別世界にやって来た気分でし

かないここでの数時間で、彼のここでの暮らしを想像するには想像力

が追いつかない。ただ、私のウサギ小屋の生活とはまるで違っている

としか、言えそうにない。


            


 そんなウサギ小屋の主人に投げかけられた「2か月間、ホテル・

モリスの主人になってもらえないか?」というあり得ない依頼に

いったいどう答えたらいいのか、分かるわけがないだろう




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *2023年4月よりリサコラムは毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1

 深い森の中に佇む一軒家にひとり住めるかな?


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年4月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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