MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載862回
      本日のオードブル

スキャンダル・ イン・
ホテルモリス

第5回

「 ホテル・モリスの書斎」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





こげ茶の床
青緑色の天井から
大きなゴールド
シャンデリア
暖炉を挟んで
書棚が二つ
その中央に家の絵
古き良き、いえ今もある
イギリスの田舎の家の書斎




 



第5回 「 ホテル・モリスの書斎」



 「唐突に、ほんとに悪い、気にしないでいいよ」私は散歩から戻っ

てくると、ホテル・モリスの主人、Mr.モリスが散歩から戻ってきた

私を玄関で迎えた。


            


 私がまだ何も返事をしないでいると、彼はちょっとはにかむよう

に笑いながら、「いや、実はね、君が最初じゃないんだ。すでに何

人かに声をかけたんだが、全部ふられてね。まあ、こんな山の中で

2
カ月間も暮らすなんて酔狂な人間はそうそういないからね。それ

に社会生活を営んでいたら、仕事を2ヶ月も休めないだろうから

ね」と言った。そして靴箱から長靴を出すと、「ちょっと庭仕事し

てくるから、好きにしてて、」と言って、玄関から出て行った。

しかし、またすぐにドアが開いて、「ああ、書斎に少し、珍しい本

が入っているから、よかったら、」と言うと、また、何事もなかっ

たように出て行った。


            


 
「そりゃ、そうだよなぁ」私はひとりごとを言った。「こんな豪邸

2カ月間ただで住めるなんて、夢のような話だが、そうだよね、私

だけに声をかけてきたわけじゃなかったんだ。まあ、そりゃ、そうだ

ろう」彼くらいの人間なら友人、知人がわんさと集まって来るのは

当然だし、そんな中でも私は、この家を2か月間任せられる、

つまりは信頼に足る人間の一人に選ばれただけでも光栄だと思わなく

てはならないだろう。


            


 「僕でいいなら」私はすぐにそう言いたかった。のどから手が出る

ほどとはこんなことなのだ。しかし、どうしてもその一言が言えなか

った。私は鬱々とした気分で彼の書斎へと向い、重いドアをグイと押

した。


            


 緑青色の天井からキャンドル型の簡素な形の、しかし、おそらくは

アンティークだろうが、シャンデリアが下がっていた。私は無意識に

シャンデリアの電球を数えた。8灯あった。そしてゆっくりと書斎の

中へ入った。


            


 ぎしぎしと軋む床を歩くと、その奥には作り付けの美しい白みがか

った茶色の書棚が、青い背中をバックにした暖炉を挟んで2つ並んで

いた。冬の間はきっと暖かな光を放っていただろうその暖炉の上には

見たことのある家の絵が掛けられていた。その絵に引き寄せられるよ

うに近づいてみると、まさしく、ホテル・モリス、この家だった。彼

の話に時々出てくる画家の友人が贈った絵ではなかろうか?金色の

デコボコした額縁がその絵をゴージャスに見せている。しかし、

そんな絵より、私の関心事はその絵を挟んだ2つの書棚の本だった。

その大半は外国語で書かれた本で、中には金文字で書かれた希少本と

思える古書もあった。


            


 学生だった4年間、私は彼と同じ図書館でアルバイトをしていた。

私は、別の大学の経済学部の学生で、特に本に対する興味はそれほど

でもなかったが、楽な小遣い稼ぎができそうだという理由だけでやっ

て来ていた。一方、Mr.モリスはその大学の法学部の学生で、

まさに、本の虫だった。さらに彼の読書の守備範囲はあまりに広かっ

た。文学、社会学、経済学、哲学、数学、物理学、そして様々な語学

の本まで彼は手当たり次第に読んでいた。本の整理をしたり、本を戻

したりしながら、暇さえあれば、はしごに腰かけて読んでいた。

私は、彼の書棚の前で、今も変わらず若いが、さらに若い彼の姿を

思い出していた。


            


 「まだ、こんな難しい本を読んでいるってことだな」私はきらびや

かな装丁の1冊の本を手に取ってみた。「ディケンズか、まさか、

初版本では?」私は恐る恐るそのディケンズをまた書棚に戻した。


            


 5分5分、6分4分、7分3分、私の揺れ動く気持ちはぐるぐると

同じ輪の上を回っていた。仕事さえなければ、いや、仕事ではない、

家族だ、家族さえいなければ、二つ返事でOKするに決まっている。

仕事はやろうと思えば何とかなる。リモートワークを主体にすれば、

週1日か2日、3時間かけて出勤すればできない話ではない。しかし、

同時に、「あなた一体どういう気なの?そんなことしたら首になるわ

よ!それに私たちはどうなるの!」という、妻の恐ろしい顔を想像す

ると、なまりのようなものがみぞおちあたりに落ち込んでくるのを感

じた。それでも、豊かな自然、静けさ、自給自足の暮らし、広い家、

美しいインテリア、そして、余りあるほどの自由、そうだ、この余り

あるほどの自由、私がずっと望んでも手に入らなかった1人の生活、

私の意思で全てを決められる自由が、私を強く、強く、誘惑した。


            


 私は自由への渇望と、現実の生活の縛りとの間で、立ったま、発狂

寸前になっている自分を感じていた。彼が庭仕事から戻って来たら、

もう気が変っているかもしれない、その間、別の友人が手を挙げてい

るかもしれない。彼は「他をあたってみるから」と言いかけたわけで

はないが、おそらくその寸前だっただろうと私は感じていた。こんな

チャンスはそうそうあるわけではない、いや、もう二度とない。逃す

ものか!私は部屋履きのままで書斎を飛び出すと、庭でくわをふり上

げている彼に向かって唐突に言った。


            


 「あの、なんなら、喜んで引き受けるよ」と。彼はぽかんとした顔

でちょっと笑ってから、「ああ、そう、それはよかった」とまるで忘

れていたかのように言った。そして、また土に向かってくわを振り下

ろした




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *2023年4月よりリサコラムは毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1

 憧れのホテル・モリスの書斎、
どこかにあるなら、すぐにでも飛んで行きたい。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年5月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.