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リサコラム
連載863回
      本日のオードブル

スキャンダル・ イン・
ホテルモリス

第6回

「 ホテル・モリスの裏庭」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





深い森に
囲まれた
芝生の庭
美プール
8人は座れる
白い丸いテーブル
ここがリゾートホテルで
はなければどんな人が住む家?





 



第6回 「 ホテル・モリスの裏庭」



 「独断と偏見なんだけどね、」彼はくわを振り上げ、振り下ろしを

繰り返しながら言った。「イギリス人は独自の進化を遂げた農耕民族

なんだと思うね」


            


 彼、モリス氏の突然のなぞかけに私はどう返したらいいかわからな

かった。しかし、慣れた動作でくわを手に土を耕している人が、

「イギリス人、進化を遂げた農耕民族説」をぶち上げたら、見ている

誰もが、意味がわからなくても、なんとなく納得した気になるのでは

ないだろうか。もちろん、私はイギリス人がどんな国民性を持ってい

るのか知りはしない。


            


 「変わっているってこと?でも、G7の国が、進化を遂げた農耕

民族?」私は質問で返すくらいしかできなかった。しかし、彼は私

の質問を無視して、またわけのわからない質問をした。「ガレージっ

てどんなものを想像する?」などと。


            


 私は彼が何を言いたいのかわからず、「それは、どういう意味?」

と聞き返した。「ガレージはガレージだろう?って思うよね。でも、

彼らは家の前が駐車禁止でなければ、まあ、たいてはそうだけど、

自分の家の前、あるいはお隣さんの家の前にも停めたりするんだよ

ね」「ガレージが足りないってこと?」「まあ、車が2台あれば、

1台分のガレージが足りないのはわかる。でも、それなら、2台分

のガレージを用意するだけのことだよね」


            


 
やっと私はピンときた。「イギリスじゃ、車庫証明なしで車が買え

るってことなのか?」イギリス人農耕民族論者のモリス氏は、今度は

くわで土をならしながら「ああ、そうだ」とだけ言った。「へ~そう

なんだね、車庫証明がなくても車が買えるんだね?」「そうだよ。

その代わり、家の前にずらずらっと車を停めることになるから、

まあ、縦列駐車ができなきゃ、車を買う資格はないかもね」彼はそう

言うと、くすっと笑ってから、「だから、ガレージはいらないよう

なものなんだよね。まあ、ガレージの使い方が違うってことだけど」

そう言ってから、くわの泥を落とすと、「見せるよ」と言って彼は

私をガレージに連れてきて、ドアを開けた。


            


 なんとガレージの中には、名前はよくわからないがミニトラクター

のようなものや、芝刈り機、各種機械、農作業用に大工道具、たんす

のようなものまで整然と並んでいた。「イギリスでは駐禁でない道に

なら人の家の前だろうと車は停め放題。だから、わざわざガレージに

入れなくても済むんだよ。するとガレージは物置とか、収納庫とか、

作業場になるってことだよね。まあ、農家ならそれも自然な流れだ

ね。ガレージと納屋の区別がつかないところもあるから。でも、

イギリスでは、サラリーマンの家でもそうだから」「なあるほど、

だから、独自の進化を遂げた農耕民族ってことか。う~ん、なるほ

どね」私は理路整然とした説明に納得せざるを得なかった。しかし、

だからと言って、イギリス人の生活スタイルを真似る必要があると

は思えないが。私は口に出さないまでも思った。


            


 
彼は、ガレージ物置のドアを閉めると、私にバックガーデンを案内

すると言った。そこは素人目にも美しい庭だった。刈り揃えられた

芝生には雑草など1本も生えていそうになく、もう一軒同じ家が建ち

そうなくらい広いその裏庭には直径2mはありそうな大きな丸いテー

ブルと椅子のセットが二つもあった。しかし、驚くのはまだ早かっ

た。競技用とは言わないまでも、庭の3分の1ほどを占めるプール

があったのだ。「こんな立派なプール、いったい、誰が?」

「僕だよ、僕が泳ぐんだよ」私は首を振った。「それはわかる。

そうじゃなくて、誰が作ったかってこと」彼は一呼吸おいて、

ちらっと微笑んでから、「僕だよ」と言った。「すごいな

私は驚いてみせたが、それから先の言葉が見つからなかった。


            


 彼作の美しいプールの周りはすべて芝生で覆われ、芝生の周りは

木々が取り囲み、その先は森に繋がっている。私は生い茂る新緑が

水の上に影を落としているプールの方へ、ぽつぽつと歩いた。かわ

いい小径に沿って。その小径の両側には赤やオレンジの可憐な花が

咲いている。


            


 もし彼に奥さんか恋人でもいれば、こんなメルヘンの世界のよう

な庭にうっとりするだろうが、彼はずっと独身のままでいる。その

理由を問うたこともなければ、家にどうしてこんなエネルギーを割

けるのかと聞いたこともない。仕事もやめても親の遺産で生きられ

るのだから、世捨て人か引退した暇人だからできるんだよと、切っ

て捨てるようなセリフで片付けることもできる。しかし、それなら

何もせず、都会のマンションでテレビだけ見てぼんやりと過ごすこ

とも、世界中の高級ホテルをねぐらにする高等遊民の人生を送るこ

ともできる。しかし、彼はそのどちらもやりそうにない。それどこ

ろか、日々、土いじりをしながらコツコツと見事な自宅とプール付

きの裏庭を作ったのだから。私はそれをやった人間にも、家にも、

庭とプールにも圧倒され、言葉も失っていた。そして、何か言わな

くてはと焦った挙句、「夏はこんなプール、気持ちいいだろうね」

という、なんともさえないせりふしか出てこなかった。


            


 彼はそのつまらない褒め言葉に、相槌は打たず、「家を早く成長

させたいんだよね」と言った。「家が成長する?」「家って成長す

るものなんだと思うね」「成長するわけないだろ?それなら、老朽

化って言うんじゃないか?」と私は半ば冗談めかして言った。

「確かに家は建ち上がった瞬間から老朽化が始まるって言うけど、

でも、僕はそれを成長って呼んでいるだよね。まあ、自分で建てて

いる家だから、老朽化とは言いたくないだけかもしれないけどね。

でも、木が成長するみたいに、家も少しずつ進化させているから

さ、自分なりにはね」彼はそう言った後で、プールサイドの木の

下に行くと、すぐに手付きのざるのようなものを持って出て来た。

そして、さっと落ち葉を二つ、三つすくい上げると、小さな紙袋

に入れた。


            


 「家を成長させるって言っても家の価値を上げて、売りたいわけ

じゃないんだ。家と一緒に僕も成長したいって感じかな?ははは、

まあ、完全なる自己満足だけど。でも、どうだろう?君、僕の代わ

りできるかな?」


            


 その口調、どこかで聞いたことがあると私は思った。それは遥か

昔、小学校の頃、そんなセリフを言って先輩風を吹かせる同級生が

いた。同級生のくせにと、私はいつも歯がゆく思っていたが、

いかんせん、1年から6年生まで学級委員長を歴任し、文武両道、

できないことはないくらいの優等生だった。私はそんな昔の同級生

とモリス氏を重ね合わせながら、恐る恐る、「できるとは、どの

程度のことだろう?」と聞いてみた。


            


 「君に任せる2か月間でいまより庭も家も成長させられるか、

ってことだけよ」と彼は臆せず言った。私は正直、無理だと、

いや、不可能だと思った。しかし、今さら彼の代わりに家を守る

ことはできないとも言えず、負けず嫌いな自分の性格にこれほど

うんざりしたことはなかった。「できるだろう」なんて言ってし

まったのだから




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *2023年4月よりリサコラムは毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1

 芝生とプールのある家、永遠の憧れ。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年5月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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