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リサコラム
連載864回
      本日のオードブル

スキャンダル・ イン・
ホテルモリス

第7回

「 晩夏と幻と
コンサバトリー」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





ガラス
張りの
建物は
コンサバトリー
お天気のいい日は
陽射しがさんさんと
降り注ぐ温室になり、
雷雨の日は避難所になり
雨音を聴きながら本を読む
夜が一番かもしれませんね。





 



第7回 晩夏と幻とコンサバトリー



 Mr.モリスはふと手の平を上に向けると空を見上げた。


 「雨が降ってきた、山はいきなりざっとくるからね」と独り言の

ように言うと、「行こう!」と私をコンサバトリーに案内した。


 コンサバトリーという建物の中に私は初めて入った。そこはガラス

張りの温室のような場所で、彼の言った通り、夕立のような激しい雨

がいきなりガラスの天井にバラバラと大きな雨音を立て始めた。


            


 「ここは庭にいる時の避難所だよ。雷から逃げるためにね、避雷針

も埋めてあるから大丈夫」彼はそう言いながら私に真白いモダンな

デザインの椅子を引くと、座るように勧め、彼自身は窓際のカウン

ターに肘をついて、そこに頭を乗せ空を見上げた。


             


 「ユーミンのこんな歌って知っている?『♪ゆく夏に~』で始ま

る歌だけど…」彼は私の方をちょっとだけ振り向いたが、すぐに

また窓の方を向いた。


 「『晩夏』かな?」と私はそう言って、スマホで検索し始めた。

その歌はすぐに見つかった。YouTubeもたくさんあった。

「あーこれだ、これ、」私は画面をタッチした。


             


 『♪ゆく夏に 名残る暑さは 夕焼けを

 吸って 燃え立つ ハゲイトウ

 秋風の心細は、コスモス

 何もかも捨てたい恋があったのに

 不安な夢があったのに

 いつかしら ときのどこかへ置き去り

 空色は水色に 茜は紅に

 やがて来る淋しい季節が恋人なの~」


            


 
彼は黙ったままで聴き入っていた。しかし、晩夏などという歌を思

い出すにはまだ時に肌寒いくらいの初夏の入り口なのに、何を言いた

のだろうか?その歌に彼の青春数ページでもあるのだろうか?大学時

代、私たちは同じ図書館でアルバイトをしていたが、彼に限って女性

とのうわさはまるで聞いたことがなかった。彼の興味の対象は本しか

なかった。さらに、いつの間にこんな隔絶された森の中の家に興味の

対象が移ってしまったのだろうか?


             


 「もしかして、昔、そんな女性がいたとか?」私はからかい半分

で聞いた。しかし彼は笑うこともなく、「知っての通り、私が1

苦手とするものが恋愛小説だし、その現実はさらに嫌いだね。そう

じゃなくて、この歌を聞くと、ずっと昔に、小学1、2年生の頃か

な~、この主題歌で始まる連続テレビ小説みたいなもの見ていた記

憶があってね。それで、ある瞬間、雷のせん光のようにふっとその

ドラマのシーンと、ユーミンのその歌が頭の片隅に現れるんだよ

ね、不思議だけど。でも、いつもその題名が思い出せないんだよ

ね。なぜ、そんなドラマのことを思い出すのかもわからないん

だけど」


             


 私は急に興味を惹かれた。「それはどんなドラマ?」「ああ、

まあ、簡単に言えば、田舎の人間が都会生活に憧れたり、夢を抱い

たりした時代があったんだなと思うよね。だけど、今はネットの時代

だからどこも標準化されて随分変わったけどね。田舎から都会に出て

来て、一旗揚げようとか、有名になって、故郷に錦を飾るなんて言葉

が昔はあったけど、そんな期待値は今ではほとんど幻のようなものだ

ろうだけどね、だって、現実はもう赤裸々の元になっているから…」

彼はそう言った途端、「ああ~」と叫んだ。



 「やっと思い出したよ!」彼は振り向くと、椅子の背中に両手を

置いて、「君の田舎は山梨じゃなかったっけ?」と聞いた。

「そうだけど、何か関係ある?」「山梨と言えば、勝沼ワインだよ

ね。もっと、たくさんのワイナリーがあると思うけど、そう、

『幻のぶどう園』、確かそんなタイトルだったような気がする」


             


 「『幻のぶどう園』?」「うん、そうだ、そうだその話はね、」

と、彼は私が尋ねる前にすぐに話を始めた。


 「ミュージシャンを目指して、東京に出てきた貧乏暮らしをして

いる男の話だったよ。その男は所属事務所のオーナーが海外に行っ

ている間にマンションの鍵を預かることになったんだが、まあ、

当時で言えば、成功者の住む代名詞みたいな麻布か六本木なんかの

高級マンションに住んでいるんだけどね。そこで、そのミュージシ

ャンを目指している男の田舎の父親が息子に会いに上京してくるこ

とから話が始まる。男の実家はぶどう園農家だが、田舎に帰ってぶ

どう園を継ぐつもりはさらさらない。そこで、自分が成功したと見

せかけるために、オーナー氏が仕事で海外に行っている間、その部

屋に住んでいると親父さんにウソを言って、早々に田舎に返そうと

思ったんだよね。そう簡単にミュージシャンで成功できるなんてこ

とがあるわけはないから、現実は、古いボロボロのアパート住まい

で、当然だけど。それで、親父さんはその高級マンションに当然の

ように納得して、「あぁ、お前は成功したんだね~」と言うことに

なって、その同じマンションに同居すると言い出すんだよね。そこ

で事件が起きるんだよね、親父さんは息子の世話になろうと思って

田畑も売り払って来たわけだから…」彼はそこで、黙った。気まず

く重たい空気がコンサバトリーの中に充満してゆくのを刻一刻と感

じた。


             


 明らかに、私が2カ月間、この彼の家を維持管理している間に私が

変な気を起こして、この家が自分の家だなんて嘘をついて、友達や家

族やらいろんな人間を連れてきては、めちゃめちゃにしてしまうんじ

ゃないかというそんな疑念がふと彼の頭をよぎって、そんな古い昔の

ドラマを思い出したのではなかろうか。私はその重たい空気を打ち破

りたくて、テーブルの上の大きなフルーツが入っているガラスのドー

ムのふたをちょっと持ち上げてみた。


            

 「ああ、それ、それ、うまいフルーツがあるんだ、ちょと珍しいや

つがね」と言うと、彼は食器棚から食器とナイフを持って来た。

そして、両手の平にやっと乗るくらいの大きなやつをひとつを取り

出すと、皿の上に乗せて、真上に包丁を構えた。


            


 「ざくっ、」いつの間にか雨音がしなくなっていたコンサバトリ

ーに、地響きのような重い音が響いて、「ゴロン」と床に転がった

果物は種まで真っ二つに切れていた




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *2023年4月よりリサコラムは毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1

 コンサバトリー、いいですね~
お客様のお宅にあります。。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年5月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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