MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載866回
      本日のオードブル

スキャンダル・ イン・
ホテルモリス

第9回

「夕暮れの丘」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



夕暮れの丘の上
背中を向けた
男性がひとり
見渡す丘は
オレンジ色
に染まり
何を
思うのでしょうか?





 



第9回 夕暮れの丘



 日が落ちる前、私は彼の家を後にした。帰りの1本道には対向車は

もちろん、追手の車もやって来ない。しばらく走ってオレンジ色に染

まる見晴らしのいい丘の側道に車を停め、少し車窓から景色を眺めて

いたが、刻一刻とオレンジ色に染まる丘を間近で眺めてみようかと、

なぜかセンチメンタルな気分になって、車を降りた。


            


 
丘の上に足を踏み入れると初夏の雑草は見た目以上に葉を伸ばして

いたらしい。通り雨の湿気を吸って私の足の下でざくざくと音を立

て、みるみるうちに靴はびしょびしょになった。いっそ裸足になれば

気持ちいいようなものだがちぇっ、何から何までついてないな

私は舌打ちをした。


            


 小高くなった丘の頂上の開けた場所まで来ると下から眺めていた

太陽はもう地平線に沈みかけ、見晴らす木々の緑は夕陽で日焼けで

もしたようにオレンジ色に染まっている。「ああ~長い1日だった」

私は深いため息をついた。


            


 そう言えば、Mr.モリスはイギリスのコッツウォルズというこんな

田舎の風光明媚な場所のあるマナーハウスに友人が暮らしていたと言

っていた。わざわざ学生時代に遊びにも行ったことさえあった。私は

ロンドンなどの都会ではなく、どうしてそんな田舎の家に興味がある

のかわからなかった。今ではそのマナーハウスは分譲のマンション

とホテルに変っているらしいが、丘のてっぺんにある恐ろしく広大

な家だったらしい。きっと見える範囲をおさめていた領主だったのだ

ろが、こんな場所なのだろうかなどと思いながら、私はしばらく夕陽

を眺めていた。


            


 
眺めながらやはり、彼の家を2か月間管理すると言ったことを後悔

していた。彼が私に課した数々の家の仕事をイギリス人なら好んでや

るのだろうか?休みの日はDIYや庭いじりをするのが大半のイギリス

人の過ごし方だと彼は言っていたが、彼の家に限らず、大きな家は執

事とか、メイドがいなければとても維持できるものではない。そんな

家もまだあるのだろうが、雇えないなら休みの日は家族総出で家の仕

事に当てるということだろうか?そんな膨大な家事時間はまさに人生

そのものではないのか?家にそれほどの時間をかける意味がその時の

私には理解できなかった。


            


 今日の最後に彼は私が彼の家を2か月間管理するためのTo Do List

を読み上げた。しかし読み上げただけでは私の理解が不足していると

思ったのか、「ちょっとやってみせるからね」と言って私をキッチン

に連れて行った。そしてシンクを磨き粉できれいに磨き上げた後、

さらに何かの液体をシンクに沿って流し広げ、すぐに全体をラップで

覆った。私は何かぞっとするものを感じつつ、黙って彼の後ろ姿を見

ていたが、彼はそれを察知したのか、「重曹とクエン酸を混ぜた液体

をかけておくとシンクにくすみができないからね。ラップをすれば

完璧だ。翌朝、すすぐだけでいいからね」と言った。


             



 「はあ、なるほど」と私はそう言ったきりだったが、もしかしたら、

週1とかやるのだろうか?いや、こんなに手間のかかることを週1

回もやるわけはない。そう思った途端、「1日の終わりに、夕食の

後に1回でいいよ」と、彼はこともなげに言ったのだった。


            


 
もちろん、やるべきことはそれだけではなかった。すべての部屋に

はたきをかけて掃除機をかけ、床磨きをし、窓ふき、庭の水やりと草

むしり、外壁の掃除もやる。私は段々と彼が結婚しない理由が分か

った気がした。彼の家にかけるその情熱を理解し、共有し、喜んで

行動に移せる女性はほんとうにいるのだろうか?私の妻やその友人

を見るにつけ、とてもいそうにない。


            


 そんな今日1日の衝撃の出来事を思い出しながら、夕陽が丘をオレ

ンジ色に染め上げ、やがて闇と交代する間、私は労働の辛さを憂い、

夕陽を眺めながら、自分自身をなぐさめていたかもしれないお屋敷

のメイドの気分になっていた。彼女、彼らは貴族の屋敷で日々過酷と

も言える家事労働を課せられ、休日も余暇も奪われ、どんな気持ちで

日々を過ごしていたのだろうか?私は英国貴族の屋敷を展開するどろ

どろの人間模様のドラマを思い出していた。


            


 
そんな階級社会が今でも先進国イギリスには残っているらしい。現実

に執事を養成する学校もあり、様々な国から多くの執事志願の若者が

やってくるというのだから。あのドラマはなんと言ったか?私は思い

出せなかったが、つい、100年ほど前までイギリスのお屋敷で働い

ていた人々の憂いが夕陽のセンチメンタルな気分と共に、私の体に染

み込んでくるような妙な感覚にとらわれていた。


            


 イギリスの湖水地方には危険な沼地がたくさんあるらしいが、

絶望のあまり、身投げしたメイドはいなかっただろうか?そんな心配

をする私は、すでにモリスの家という沼地に足を踏み入れてしまった

のかもしれない。私は執事にもメイドにもなれそうにない。いや、

なるものか。一刻も早く逃げ出すが勝ちだ。


            


 
私はスマホを取り出すと彼に電話をかけた。同時に丘を駆け下り、

車に戻ると、暮れかった道を猛スピードで走り出した。もちろん、

向かう先は自分のウサギ小屋だ。もう二度と彼の家には行くことは

ないという強い決意をして




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *2023年4月よりリサコラムは毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1

 ダウントンアビーですね。
2023年新シリーズのブルーレイ&DVDが出ているようです。
まだ見てはいませんが、物語自体は嫌いですが
インテリアはすばらしく、とてもお勉強になります。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年6月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.