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リサコラム
連載867回
      本日のオードブル

スキャンダル・ イン・
ホテルモリス

第10回

「ベイカリー・モリス」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。






深い
森の中
煉瓦作りの
赤茶色の建物
グレーの屋根に煙突
細い道を歩いて行くと
ああ、パン屋さんですね。
いい香りも漂ってきました。





 



第10回 「ベイカリー・モリス」



 「無理強いして悪かったね」Mr.モリスの家を出てからしばらく

走り、夕陽の丘を眺めた後、私は思い直して彼に電話をかけ、

2か月間、彼の家にメンテナンスをしながらタダで住めるという

またとない申し出を断ると、意外にも彼の方が謝罪の言葉を述べた。


            


 
つい1分前まで夕陽の丘を駆け下りながら、怒りをにじませ、

厭世的な気分に浸っていた私は拍子抜けした気分になった。


             


 
「はっきり理由を言ってなかった僕が悪かったと思う。僕が2

月間この家を開ける理由は、店を作ろうとしているからなんだ」

「お店?どんな?」私には意外な展開に思えた。


 彼は2ヶ月間家を開ける理由を、最初、ちょっと言いにくそうに、

「私的なことで…」と言葉を濁したため、私はてっきり彼の両親

のどちらかが介護状態になったか、家族内のもめ事でも起きて、

実家に戻らなくてはならない状況になったのかなと想像していた。

まあ、私にとって、最初は棚からぼたもちみたいなラッキーなこと

として受け止めていたため、彼の『私的な理由』についてはなんら

興味も抱かなかったのだが、しかし…まさかそんな出店計画が

あるとは想像もしていなかった。


            


 「ベーカリーだよ」「ベーカリー?!パン屋さんってこと?」

「そう、」「パン屋さんをやるってことかい?」「ま、びっくり

するとは思ってたけど、パン職人はちゃんといるんだよ。若い友人

というか、親しい知り合いというか。彼が田舎でパン屋さんを開き

たいって言うんで、『それなら僕の住んでる近くの町はどうだい?』

って言ってみたら、早速、僕の家に来て、近くをドライブがてら

案内したら、ひとめぼれしたらしくて、はははは…ここはただの

田舎じゃなくて、新婚旅行で行ったことのあるイギリスの田舎の

風景に似たところがあるからって、なんだか一気に盛り上がって

ね、この場所でパン屋をやるのは運命だったんじゃないかな、

なんて、そんなことまで言い出して、それで一気に話が進んで

ね。彼は都会の下町でパン屋をやっていたんだけど、奥さんが出

て行ったら、やっぱり噂が噂を呼んでやりづらくなったらしい。

それで30前に離婚して、今は独り身。そんな人間関係のいざこ

ざもあって、だから、誰も彼を知らない場所でパン屋をやり直し

たいって言うことだね。それで何度か一緒にこの辺りの空き家を

探してたら、西洋風にも見えるいい感じの古い家が見つかってね。

何とかすれば、住宅兼ベイカリーができそうだとなって、それで

まぁ、言い出しっぺの私が力になることになってね」「力になる

って、それは経営もタッチするってことかい?」「いやいや、

そこまでは。彼はリフォームとか内装工事云々には素人だし、余裕

もあるわけじゃないから、それじゃまあ、ボランティアだけどやっ

てやろうってことにしたんだよ。そうなったら、そうなったで、

大変な面はいろいろあったけど、だんだん自分の店みたいに楽し

くなっちゃってね。それで、ショップイメージとリフォームプラン

は決まって、幸い、私は家のことなら大半のことができるから、

近所のいい大工さんを連れて3人の突貫工事で、2ヶ月で何とか形

を作ろうと言うことになったんだよ。彼も早く収入の道を作ってあ

げなくちゃならないからね。場所は隣町の別荘地で大きなテニスコ

ートのある公園のすぐ隣で、環境もまずまずだと思うけど、ここか

ら車で毎日通うとすると往復1時間半くらいかかる。だから、2か

月間、ほぼ毎日、びっちり工程を組んでもぎりぎりだとわかった

時点で、まず、上の階に僕ら2人のそれぞれの部屋を作って、そこに

住み込んでそれでやろうってことになったんだよ。それも楽しみでは

あるんだけど、2か月間、どうしてもこの家を空けなくちゃいけない

んだよね。その間、僕の家の面倒みてくれる人はいないかなと思って

ダメ元で聞いてみたんだ。信頼できる友人に託したほうがいいかなと

思って。でも無理も言えないのはわかっているよ。家族もあることだ

し、仕事も会社もあることだし、色々と不都合も出るだろうからね」

Mr.モリスはずっと弾むような調子でしゃべった。


             


 「そういうことか、そのパン屋さん、楽しみだね」私はそれしか言

いようがなかった。「まぁ、別荘地だけど、普段は人通りも少ないと

いうか、ほとんどないから、集客の問題はあるけど、今は、やり方次

第でいろんな方法もあるし、逆においしければ、それに雰囲気がイギ

リスのすてきな田舎町のベイカリーみたいだったら、人が集まるかも

しれないと思ってはいるんだけど。それにこの辺りは自分の故郷とか

田舎を持たない人間にとって、憧れの田舎って言う感じもするから、

軽井沢みたいな町に育てていけたらなんて、大それた夢を二人で語り

合ったりしてね、僕も正直、とっても楽しみで、実は、毎日が興奮状

態なんだよね」彼の弾むような声はなぜか私の気分を一層暗くした。


             


 「…でも、仕方ない。他人の家をふた月も維持管理してくれって言

われたら、それはやっぱり困るよね。まあ、最終的には業者に管理を

頼むことにしようと思っているから大丈夫だよ。僕がひとりで作り上

げたこの家の魅力を信頼できる友人とかその家族に味わってもらえた

らいいかなぁなんて、ちょっと欲を出してしまって、ほんと余計な心

配をさせてしまってほんとに、すまなかった」彼は心から謝っている

ように思えた。私は自分の非も詫びざるを得なかった。


             


 「いやいや、1度は受けるって言った僕の方が期待をさせてしまっ

て、悪かった。こんな大きなすばらしい家に2ヶ月も住めるなんて夢

みたいだと思っただけど、なにしろ、メンテナンス力ゼロの僕にはあ

まりにハードルが高すぎてね。パン屋さん、楽しみにしてるから、大

変だと思うけど、がんばって。応援してるよ」私はそう言うと電話を

切って、また走り出した。


             


 自宅へと帰る道すがら、喜々として内装工事に精を出す彼の姿を私

はぼんやりと想像していた。彼は用意周到にすべてのことをきちんと

やり遂げられる人間だから、何もかも計算ずくで、きっとうまくゆく

だろう。今までだって、何の問題なく日の当たる道を歩いてきた人間

なんだから。


            


 私はふと、そのパン屋の名前はなんというのかと聞きたくなった。

おそらく訪れることもないだろうが、花束のひとつでも送ろうと思っ

たからだ。私は高速道路を降りて停車するとスマホからメッセージを

送り、また走り出した。雑多なビルが両側を埋める道はすでに帰宅す

る車のライトが数珠つながりで、私もその列に入った。このペースな

ら家にたどり着くのは午後9時を回るだろう。


             


 何度目かの赤信号につかまって、私は何度目かの舌打ちをした。

妻の機嫌が悪くなっていないかの心配と、明日の朝は5時起きで、

早朝会議に出席しなくてはならないことを思いながら。


             


 「ちえっ、今日はほんとについてない!」私は独り言を言った。

その時、「リン!」とスマホがメッセージの到着を知らせた

「『ベイカリー・モリス』、光栄だけど、彼がそう決めてくれた

んだ!』」ホテル・モリスに住むMr.モリスからだった




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *2023年4月よりリサコラムは毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1

 ベイカリー・モリス、1時間以内で行けるなら行きたい。
いや、2時間でも、3時間でも行くかも。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年6月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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