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リサコラム
連載868回
      本日のオードブル

スキャンダル・ イン・
ホテルモリス

第11回

「白と黒」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





ダーク
ブルーの
カーテンの
奥のバスルーム
白と黒の市松柄の
タイルを敷きつめた上に
大きな白いバスタブがひとつ
真ん中の
窓の向こうは
緑の庭のようです。
暗い浴室内に明るい光が差し込んでいます。


 



第11回 「白と黒」



 友人のMr.モリスがベイカリー・モリスというパン屋を開くとい

う話しを聞いた日から、ひと月が経ち、あっという間に2月半が経

ち、夏がすぐそこまで来ていた。


            


 私は相変わらず骨の折れる煩雑な仕事に、部下の失敗の後始末に追

われる日々を送る傍ら、些細な問題でごたごたしている家族の調停や

調整に追われていた。そして今日は終業時に保険会社の営業マンが私

の保険の更新にやって来た。私は真摯に彼の提案に耳を傾けていたわ

けではないが、「いざという時、家族に迷惑をかけないために」と言

った彼の一言で私はさらに毎月5千円の掛け捨ての保険に加入するこ

とにした。


            


 そのため、普段より1時間遅い電車はさらに混んでいて、おまけに

雨降りで、濡れた社内はエアコンが効かず、スマホの不快指数は95

を突破していた。私より20才は若いだろうその営業マンは、帰り

際、片手でドアノブを持ったままで、「人生は、日々、楽しまない

と損ですから」とにっこり笑った。私はドアの横の、これまでもず

っと眺めてきた壁のシミをぼんやり眺めながら、使い古され、手垢

にまみれ、陳腐化したそのせりふに、「そうですね」と相槌を打っ

た。


            


 「人生は、日々、楽しまないと損だ」今さらながら、それは真実だ

と思った。家族を養うために、長年、満員電車の通勤を続けて来た

が、もう、万一のために、それも可能性はかなり高い、万一のため

に備えなくてはならなくなっていた。しかし、このまま介護状態に

でもなれば、いったい、いつ楽しむことができるのだろう?私は営

業マンが、ドアノブを放した瞬間からずしりと重い古い耐火扉がゆ

っくりと閉まるまでを見届けながらそう思った。しかし、どうすれ

ば楽しめるのか?そんな単純で深淵な疑問に対する答えさえ分から

なくなっている自分が霧の向こうにいた。ぼんやりと哀れだった。


            


 フランス人は自分が一番、相手のことは二の次、バカンスを2か月

取るために働き、イギリス人は庭を維持し、DIYをするために人生

の大半を使う。アメリカ人はいつ、首を切られるかわからない環境

でバケーションも取らず働き続け、GDP世界一を辛うじて守り抜い

ている。ならば、日本人はどうなのか?大半のサラリーマンはきっ

と私とさほど変わらないだろう。しかし、そうでない人間も少なか

らずいることを私は知っている。友人のMr.モリスという人間がそ

うだ。


             


 私はその時、はっとした。「そうだ、ベイカリー・モリスの改装

祝いを送り忘れていた。しまったな~」あれからもう2か月半経っ

ているからきっともうオープンしているはずだ。私はスマホを開い

て彼に電話をかけようとして、電車の中であることに思い、諦め

て、検索してみた。「これかな?」私はベイカリー・モリスと打

ち込むと、それらしい外観のサイトを見つけた。やはり、もう開

店していたようだ。店先にはおいしそうなパンがたくさん並んで

いる。すでにスタッフブログも更新されている。用意周到な彼の

ことだから、内装工事も予定通りこなし、万事怠りなくあれから

も日々を送っているのだろう。一度足を運んでみよう。花束でも

持って。そう思うとつい、2か月前に行ったホテル・モリスでの

出来事が順々に思い出された。


            


 鬱蒼とした森を背にイギリスの田舎には未だたくさんあるような

威風堂々とした一軒家。バラの花はもう終わっただろうか、美しい

前庭にプール付きの広いバックヤード、ガレージという整然とした

物置、コンサバトリー、そこを最後に訪れたのはつい2か月半なの

に、もう1年も前のような気がする。


           



 私は電車を降りるとホーㇺでMr.モリスに電話をかけた。午後9時

を回っていたためか、彼は電話に出なかった。私は乗り換えの駅の

ホームでまた、ベイカリー・モリスのサイトを手繰った。そして、

その片隅にホテル・モリスという小窓を見つけた。彼が自分の家を

公開しているのだろうか?私はちょっと不思議に感じてその中に入

ってみた。


            


 まず目に飛び込んで来たのは市松のタイルが敷きつめてあるバス

ルームだった。まさか…SNSを嫌っていた彼が最もプライベートな

バスルームを公開するだろうか?一体どうしてだろう?私は不安と

疑問符を抱えながら、次々に公開される美しい彼の家の中の隅々ま

で動画ツアーをしていた。まさか…私はずんと重たいものが胃の中

にいきなり入ってきたような気分になった。そして疑問符を抱いた

まま、急いで改札を出て、タクシー乗り場に向かった。向かう途中

妻に電話かけたが留守伝になっていた。


             


 タクシー乗り場は梅雨時に傘を忘れた人たちで長蛇の列ができてい

る。私はまたMr.モリスに電話をかけてみた。やはり出なかった。

これから夜中にモリスの家に行ってどうなるものでもないが、何か

大きな転機が彼に訪れたのではないだろうか?あの優美なエントラ

ンスホールは、希少な古書が納められた書斎は、どうなっているの

だろうか?私はそれが何かはわからないが、風船のようにどんどん

膨らむ不安に駆られていた。


            


 タクシー乗り場の屋根のない場所にはみ出して立ったまま雨に濡れ

たままで、市松柄のタイルが敷きつめられた彼の自慢のバスルーム

を、そして繰り返されるホテル・モリスの部屋を、人生の途方に暮

れた瞬間があるとしたら、これもその一つの瞬間だろう感じながら

眺めていた。


             


 電話が鳴った。Mr.モリスだった。「もしもし…」白と出るのか、

黒と出るのか



   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

   *2023年4月よりリサコラムは毎週金曜日に連載いたします。

p.s.1

 市松柄の床を描くのに5時間もかかりました。。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年6月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。













































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

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