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リサコラム
連載884回
      本日のオードブル

『夢、描きます。』

第13回

「プランB」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。






緑溢れる
森の中の
家なのか
ホテルか
広々とした
前庭の芝生を歩いて
さて物語のなかへ入ってみましよう




 



第13回 「プランB」



 おだやかな秋の午後、画家のアトリエではスーツ姿の男性が画家と

一定の距離を保ったままで椅子に腰かけていた。天井まで切られた大

きな窓から差し込む静かなこの沈黙の時は、もう30分も前から続い

ている。


            


 暖かな日差しはところどころ地肌も見え隠れする男性の頭部を照ら

し出しているが、それでも男性は腕組みをしたまま瞑想でもするよう

に目をつぶり、磨き上げられた靴の先あたりをじっと見ている。


            


 「すみません。出直して参ります」男性は硬い決心を固めた人のよ

うに、すっと立ち上がると床のビジネスバックを取った。画家はイー

ゼルの向こうから顔を出すと、「私のほうは構いませんよ、時間がか

かっても。せっかく時間を作って来られたのですから。ここにいらっ

しゃるのもずいぶん時間がかかったのではありませんか?」

「いえいえ、これ以上お待たせしてご迷惑をかけしても…」

「迷惑とは思っておりませんよ」

「でも、今日は無理なようで、」男性はちらっと腕時計を見ると

「やはり、出直して参ります」と言った。


            


 「そうですか。そうおっしゃるなら私のほうはどちらでも」

「申し訳ございません。今日はまだ、どこからお話したらいい

のか…きっと支離滅裂になりそうで…それではまた改めてお伺

いいたします。今日はお時間とってくださりありがとうござい

ます」そう言うと、男性は深々と頭を下げて、ドアに向かって

歩き始めた。そして、大股で5,6頃歩歩いたところで、立ち止ま

るとゆっくり画家の方に半身、向き直った。


            


 「やっぱり、先生、私…いえ、今日はもう、」

「どうぞ、お続けください」「ただ、こんな私が夢を語るのは恥ずか

しくて。だって、とても実現しそうにはありませんから」「実現する

かどうかは問題ではありませんよ」画家は静かに言った。「夢を持つ

ってのは難しいものですよね。つくづくそう思います。今の生活の延

長で描くのが夢なのか、それとも荒唐無稽な空想の世界が自分の夢な

のか、でも、実現できるようなものであれば、夢ではないような気が

しませんか?それなら、今の生活を変えたらその夢にたどり着けるの

か、そんなことをいつも満員電車の中で考えるばかりで、未だ答えは

出ないんです。


            


 先生、みんなそうなんじゃありませんか?まあ、サラリーマンの世

界では、ですけど。このままずっと定年後も満員電車で通勤するのが

私の人生なのかと考えると悲しいものですよ。これから先の世界は今

までの世界とはおそらく違うでしょうから、このままじゃないだろう

とはうすうす感じてはいても、その漠然とした不安というか、グレー

ゾーンは日々増していくようで…電車の中を見渡すとスマホを見てい

ている人がほとんどですが、それぞれ、みんな夢を追っているのです

よね?もしかしたら、そんな中にはエベレストに登頂の野望を抱いて

いる人も、足が不自由でもオリンピックで優勝したいと思っている人

も、目が見えなくてもピアノの世界的コンクールで優勝したいと思っ

ている人も。


            


 そんな中で自分の夢を人に語って、それを絵にしてもらうなんて、

そんな値打ちのある人間なのかとも思います。第一、自分の夢を聞い

てくれる他人なんていませんよ。だって、勝手にしろ!って感じでし

ょ?特に、こんなおじさんの話を真剣に聞いてくれる人なんかいませ

んし。私くらいの年齢になると仕事と家庭をなんとかやり切るだけで

精一杯ですから、面白い話題も夢もあったものじゃないというのがふ

つうだと思います。まあ、同僚も友人もみなそんなものです。ただ、

今日も明日も、暗い中に家を出て暗い中、家に帰る。そんな日々が、

5年、10年、20年と過ぎていくだけです。いつ、夢に向かって踏

み出せばいいのかわからないんです。怠けているわけではないのに、

そんな余裕なんてまるでなかったんです。子供もあと1人、家を出て

行ってくれたら私と妻だけになりますが、そうなったときに、どう風

に過ごしたらいいのかとか、ただ、こんな面白みのない日々の中で

私に唯一、活力というか、癒しというか、そんなものを与えているの

が、ずっと描いている夢なのです、先生、話してもいいですか?ちょ

っと調子に乗って…」「ええ、どうぞ、お続けください」画家は手で

椅子を勧めた。


            


 「いえ、このままで…私は料理のケータリング会社に勤めていま

す。レストランとかホテルはすべての料理を一から作ることはできま

せんから、私たちのような食品の卸は必要不可欠なんです。だからそ

の経験を生かして小さなホテルのようなものができないかなぁなんて

思ってるんですよ。それには資金もいれば、土地もいれば、いろいろ

要りますから、そんな夢が実現するかは限りなくゼロに近いんですけ

ど、海外の研修で行ったことのあるイギリスの田舎にあったオーベル

ジュがずっと忘れられなくて。それが私の夢の原風景なのです。思い

出してもどきどきするくらいに素敵なオーベルジュでした。まず、環

境が最高でした。右を見ても左を見ても、緑、緑、緑です。もう、日

本に帰るのが嫌になりました。もう20年以上も前ですが、今でも胸

の中にしっかりと…」


            


 「なるほど、それより、お掛けになられませんか?」「いえ、座っ

たら、また恥ずかしさでしゃべれなくなると思います。だってこんな

中年サラリーマンが若者みたいに夢を追っているなんて、恥ずかしい

じゃありませんか?だから、立ち話で耳に挟んだと思って軽く聞き流

していただけるほうが、私としては楽なんです」「わかりました。そ

れで、そのオーベルジュはどんな姿形をしていましたか?」


            


 「昔の木造の小学校のような2階建ての建物で、細長い白い窓枠に

ブルーグリーンの鎧戸が全部についていて、イギリスぽいかわいい

建物でした。全部の部屋の窓から広々とした前庭を見晴らすことが

できて、内装はいい感じに簡素で、清潔ですっきりしたかわいいイ

ンテリアのとても素敵な部屋でした。それに、鳥の鳴き声で目が覚

めるんですよ。宿泊したのはたった1日でしたが、ずっと窓から外

を見ていました。私はマンション住まいですが、窓を開けると見え

るのは隣のビルの壁です。その壁には『麻雀16台』と書かれた古

びた看板があります。すでにその麻雀店は廃業しているんですけど

ね。なぜかずっと10年以上もあるんです。そんな環境に暮らして

いると、美しい庭が望めるようなオーベルジュを持てたら最高だろ

うな、なんていつも思ってしまうんです。笑ないでくださいね。不

可能なのはよくわかってるんです。だけどあの庭に立って、自分の

オーベルジュを眺めている自分を想像するときが唯一、幸せな時間

なのです。やっぱり人は夢がなくちゃ、先生そう思いませんか?実

現不可能でも。夢を見れなくなったらおしまいだとね。こんなオヤ

ジですが、まだ夢を語れるだけ、救いようがあると、先生、お恥ず

かしながら、私の夢のオーベルジュを描いていただけたら…

ああ~、」男性は両手を両膝に置いてから深いため息をつくと、

またすぐに起き上がり大きく両手を広げて今度は深呼吸をした。


            


 「すっきりしました。こんな荒唐無稽な話をしたのは先生が初めて

です。もちろん妻にも。頭がおかしくなっちゃったんじゃないのみた

いに言われるかのがオチですから。実は、この秋、長らく居座った

次男がやっと結婚して、家を出て行ってくれるものですから。だから

先生に描いていただく絵は次男のいた部屋をリフォームして、そこを

秘かに私の夢の部屋ということにして、もちろん、あのオーベルジュ

のような部屋にするつもりですがね、そこに掛けるつもりです。これ

で、オーベルジュが夢のままで終わったとしても、それでいいじゃない

かという諦めもつきます」


            


 「いい夢と立派なプランじゃないですか!」

「ありがとうございました。夢はもちろん持ち続けますが、それは

あくまで理想のプランAです。で、ダメだった場合の、サブの、

プランB、まあ、これ、サラリーマンだからこその危険回避のひと

つなんですが…それが夢の部屋で満足するというプランBです。

あっはははは…」男性は笑い終わると、真顔になって、また深々

と頭を下げてから部屋を出て行った




 



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 森の中のオーベルジュ、行きたいです。

そこに行く前にそんな似た部屋とそんな絵を掛けておくと、

帰ってきてもずっと続きの夢が見られます。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2023年10月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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