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リサコラム
連載925回
      本日のオードブル

『空想の部屋』

第2話

147年後のパリ

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





ギュスターブ・カイユボットの絵

『パリ、雨の日』の中で

二人のカップルが傘の中で話しをしています。

ここはパリの街中。

雨は見えないけれど、

降っているようです。

さて、どんな会話をしているのでしょうか?







 



第2話「147年後のパリ」




 「ねえ、ねえ、なんだかわくわく、しない?」女性は顔の上の

ベールをちらりとめくると同じ傘にいる横の男性を肘で軽くつつ

いた。男性は傘の中から恐る恐る外を見渡した。


            


 
「歩いてる人間の服装は多少違うが、建物はそっくりそのまま

じゃないか!何だ!みんな、手元を見ながら歩いてるぞ!何を見て

るんだろう?」「私たちね1877年から2024年にやってきたの

よ!」「なんだって! 2024年!俺たちはそんなに歳をとったの

か?」「あなた、そんなにびっくりすることないわ。おんなじ

街の、おんなじ通りよ。何も変わりはしないわ。建物はだいぶ

汚くなって古びちゃってるけどね。でも、そっくりそのままじゃ

ない!ああ、でも、傘持ってきてよかったわね。雨が降ってるな

んて思わなかったし」


            


 「それにしてもなんだ。この旗は?『パリ2024』ってこと

は、つまりほんとの2024年にやってきたってことかい?今が

1877年だから、147年後ってことか!」男性は信じられな

いという顔で、また傘の中から恐る恐る、あたりを見渡した。

「なんで、みんな、手元を見ながら歩いてるんだ?」「私ね、

知ってるのよ。あれで世界が見えるらしいの。そう、あの小さ

なコンパクトみたいなものの中に世界が入ってるんだって?!」


            


 「はあ?なんだって?世界が入ってるって?」「つまりね、

みんな、あの小さな箱の中で世界中のことを見ているらしいの

よ。今、世界中がどうなってるかとか手元で全部わかるんだっ

て。そして、世界中の人々と会話できるんだって」


            


 男性は «Oh là là! »と言うと、「君、頭がおかしくなったん

じゃないかい?そんなことあるわけないじゃないか!鏡の中に世

界中の人間が入ってる?万華鏡みたいに?その中から代わる代わ

る人が飛び出してくるとでも言うのかい?」男性が呆れた顔で女

性の顔を見たが、彼女はじっと回りの人間を観察していた。


            


 「ほら、ごらんなさい。後ろを!」女性は高い塔のようなもの

を指差した。「なんでもね、アメリカのワシントンっていうとこ

ある世界一高かった塔をあの塔が追い抜いたらしいわよ。

まぁ、21世紀のこの時代には、そんな高さのものを超えるもの

は、世界中にたくさんあるらしいけどね。でも、あれは、エッフ

ェル塔って言って、世界中から観光客が見にやって来るんだっ

て。海を越えてよ!だからこの時代はパリの観光名所のひとつな

のよ。さっきまで私たちがいた時代から11年経った1889年、

つまりバスチーユ襲撃から100年を記念して建てられたらしい

のよ。ギュスターブ・エッフェルっていう建築家が設計、施工し

たからエッフェル塔って言うんだって。それを1889年のパリ

万国博覧会の目玉にするためにね」「なんでそんな、未来のこと

知ってるんだい?」


            


 女性はにやっと笑った。「実はね、さっき、カフェの壁に貼ら

れてたポスターで全部読んじゃったのよ。2024年はパリで大

きなスポーツの祭典が開かれる年なんだって。オリンピックって

いうものよ。それも、もうまもなく始まるらしいわ」男性は女性

の言うことがとても信じられない様子で頭をふった。「…ここが

パリの147年後なんてね…」「馬車は乗り物ではなくて過去を

懐かしむ観光用になっているんだって。今の移送手段は空らしい

わ。それに空を飛べる写真機が自動で空中写真を撮るんだって!

まさに、ジュール・ベルヌの世界にやって来たのよ!」「写真

機が自動で空を飛ぶ!まさか!」男性は目の前のものがほんとう

に147年後だとは信じられないような顔で、傘の中にじっと身

を縮めている。


            


 「そのオリンピックの開会式では、運動選手がセーヌ川を船で

渡るんだって。それってちょっと、古臭いわね。だって、私たち

の時代にだってそんなのもうやってなかったのに。そんな古臭い

ことが今は流行ってるのかしら?まぁ、ちょっと不思議な感じ。

だけど、ちょうどこのオリンピックという時代にタイムスリップ

できたっていうのはちょっとすごいことよね。種目はね、陸上と

か、乗馬とか射撃だけじゃいらしいわよ。ブレキンとか言うのが

あってね、頭で踊ったりするんだって」「なんだそれ?頭で踊る

?」「そうよ、頭を地面につけて、くるくる回転したりする競技

よ」「オリンピックって、サーカスか?わけがわからない」男性

は首をふると、通りのカフェをちらっと眺めた。


            


 「ちょっと待て!コーヒー1杯が10フラン?冗談じゃないよ」

女性はすかさず、「フランはなくなったらしいわ」「フランがな

い!それはどうゆうことだ。ここはフランスじゃないのか?ドイ

ツかイタリアに占領されたか?」女性はふふふと笑った。「この

時代にきたんだったら、この時代の人たちに合わせなくちゃ、

あなたも一気に150年進化するのよ!」


            


 「それで、今は一体、だれが大統領だ?」「もう、25代目

よ。エマニュエル・マクロンって言う人物が2期目をやってるら

しいわ。法律を変えて3期できるようにしようとか画策してるら

しいけどね、次は政変が起きるらしいわね」「まさか、また、

ルイになるってことか?」「さあ、それはないでしょう。でも、

世界中から人と選手が集まるオリンピック大会を目前に控えて、

今の政府はかなりガタガタの状態らいしいわね。まあ、どの時代

もこの国は似たり寄ったりだけどね」


            


 そう女性に言われて急に心細くなったのか、男性はじっと足元

を見た。「石畳がずいぶん擦り減ってるな。政府は石畳も張り替

えられないのか?建物も古びたままで使っているし、その割に

人間は多いな。いったいどこに納まっているんだろうか…フラン

はなくなるし、人々は頭でダンスをするし、街は廃墟に向かって

いるようだ…もう、この国は、フランスはとうとうおしまいって

ことか?もう、こんな未来しか待っていないってことか…」男性

が途方に暮れている間に、女性はどこかいなくなっていた。男性

が慌てて周りを見渡すと、カフェ前にちょっとした人だかりがで

きていた。


            


 
「このひと、19世紀から来た人みたいね」という声が聞こ

えた。「私、この人、見たことある!あの、ギュスターブ・カイ

ユボットのあの絵、ほら、雨の日のパリの絵よ。絶対そうよ!」

そう言うと、ひとりが女性の脇に来てスマホ写真を撮ると、また

別のだれかが同じく写真を撮った。男性はあっけに取られ、そし

て女性は得意なポーズを取ると、『Paris2024』の旗をバック

に次々にスマホ写真におさまっていた。





 



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 カイユボットの絵の模写(らしきもの)を

していたら、傘の中の二人に会話をさせたくなって

ジュール・ヴェルネの世界を体験させました。

さて、パリ2024、楽しみです。

無事にはじまり、終りますように。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年7月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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