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リサコラム
連載926回
      本日のオードブル

『空想の部屋』

第3話

ひまわりと最後の授業

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




花瓶のひまわり

黄色い壁の前置かれた花瓶には

15本のひまわり。

満開の花と枯れかかった花

ひまわりの中に花の命の様が

それぞれ

絵描きの人生を見る思い


 



第3話「ひまわりと最後の授業」




 「私は当時、無名に近い画家の1枚の絵を買ったことがある」

老教授は、そう言うと、階段教室の中にまばらに座った学生たちの顔

をひとりひとり、記憶にとどめるかのようにゆっくりと見渡した。

そして老教授はしばらく沈黙した後、「絵には黄色い花がたくさん

描かれていた」と穏やかに話を始めた。


            


 「私はそれを自宅の廊下の壁にかけた。食堂か客間か、あるいは

玄関の最も客の目につく場所にかけようとも思ったのだが、大した

絵でもなく、やめにした。廊下であれば有名画家の絵でなくも、家

の格を下げることにはならないと思ったからだ。しかし、その花の

絵を買ってしまったことを後悔することになるとはその時は思いも

しなかった。そんな花の絵が、奇妙な力を持っているなどとは、

まさか…そう、単なる花の絵、それもありふれた夏の花、ひまわり

の絵なのに、しばらくすると、廊下を歩くたびに、その絵は私の

心の中に、ぐいぐいと入り込んで来た。


            


 「この絵をあなたが買ったのであれば、一生、あなたとずっと

ずっと一緒です…」とでも言わんばかりに。まさか、そんなバカな

ことがあるわけはない。たかが絵ではないかと私は思ったのだが、

その絵の前を通るたびに、私はなんとも不愉快な胸のざわめきと焦

燥感を感じて、つい足早に通り過ぎるようになった。そして、その

絵は恐るべき力を持っていると事を私は知るようになった。


            


 絵を掛けてから1月ほど経ったある晩から、私は奇妙な夢を繰り

返し見るようになった。その夢の中では、私は家の中にペリカンを

買っていることになっていた。その巨大なペリカンは廊下をのしの

しと歩き、私はその鳥に餌を与え続けた。なぜペリカンが家にいるの

かという疑問は起きなかった。ただ、無言でエサを要求するペリカン

にエサを与え続けた。そして、ペリカンは次第に人間と同じさらにた

くさんのおいしい食事を要求するようになった。ペリカンの要望に応

えて、私は必死になって毎日、大量の“料理”を用意した。その何度も

見る夢のために、私は夜、眠るのが恐ろしくなった。そしてその夢の

原因は、このひまわりの絵にあるのではないかと思うようになった。


            


 ペリカンとこの花の絵がどういう関係を持つのか、見当もつかなか

ったが、もしかしたら、あのひまわりはペリカンの顔をした画家本人

かもしれない。作者はどんな意図を持ってこの絵を書いたのかわから

ないが、その思いがこの絵に乗り移っているに違いない。だからこの

絵を所有した人間は、その作者の悩ましく、苦しい、焦燥感を一緒に

味わわせているのではないか、私はそんなことを考えてしまった。


            


 大げさに思えるかもしれないが、そう思ってからは、とても正常な

気分ではいられない日々が続いた。そして、精神の不安定さは体に現

れると言うが、その通りで、私はだんだんと食欲がなくなり、具合が

悪くなってきた。私はもうそれ以上我慢することはできないと判断し

て、その絵を売ることにした。しかし、周りには絵を買いたい人間は

いない。私は知り合いにいくらでもいいから買ってくれないかと無理

に売りつけてしまった。


            


 それから2,3か月後、たまたま通りがかった街の画廊のショウ

ウインドウに私が売ったあの絵が、売った値段の数十倍の価格が付け

られ、飾られていた。


            


 その絵の作者はペリカンとなって肥え、太り、栄養価満点の花に

なってしまったようだった。そうなると、栄養を蓄えたひまわりは

ますます傲慢になり、私の次の犠牲者にさらなる美食とさらなるわ

がままを要求してくるに違いない。私は恐ろしくなって、もうその

絵のことを忘れることにした。


            


 そして、数か月後のある日、たまたま、その画廊の前を通りが

かった時、当然と言えば当然だと私はその時思ったが、その絵は

売れずに同じ場所にあった。しかもその絵は前よりもさらに高い

値段をつけていた。あんな奇妙なひまわりの絵がそんな高い値段

で売れるわけがなかろう、私の売った値段の100倍近い値段を

つけているんだから!と私は失笑した。


            


 しかし、私がその絵を見ている脇で、1人の客が私の横から店の

中へ入った。そして中からもじっとその絵を見ていた。その男性は

シルクハットをかぶり、銀のライオンの頭のついたステッキを持ち

顎ひげを生やしていた。私もすかさず、その紳士の後から店の中

に入った。彼はじっくりと画廊の中を見学していたが、画廊の主人

は常連らしい彼にあのひまわりの絵を指さし、「あれは間もなく高

くなるでしょう」と言った。そして付け加えて、「うわさによれば

、この画家は病院に入院中で、どうやら精神的に病んでいるようで、

まぁ、この絵からもそういうものは見て取れるのですがね…」といき

さつを話し始めた。


            


 自慢のヒゲを整えながらその話を聞いていた紳士は、画廊の主人

を横目でちらと見て、「気に入ったが、それにしても、私の懐具合

にはちょっと…」と言うと、その絵から離れて、別の絵のところに

行った。すると画廊の主人はすぐに、「もう少しならお勉強できそ

うですから…」と言うと、ポケットからメモと鉛筆を出して、

「これならどうでしょう?」と紳士に数字を書いて見せた。私は

そっと二人の話に耳をそばだてた。


            


 紳士は、「わかった。それの半分なら今すぐ買おうじゃないか」

と言った。画廊の主人は、一呼吸してから、「わかりました。あな

たは素晴らしくお得なお買い物なさったと思いますよ。それで結構

でございます」と言った。「それでは」と、紳士は主人と握手を交

わし、ポケットから小切手を出すと、その場で支払いを済ませて、

絵をさっさと持ち帰った。


            


 それから1月ほど後、私はその画廊で、あのひまわりの画家が、

自分自身をピストルで撃って、病院で亡くなったと聞いた」


 老教授は先ほどからひそひそしゃべっている最前列の二人の

学生たちの顔をじっと見てから言った。「若い諸君、絵画という

ものは本当に危険なものです。美しい、技巧が優れているかなど

の技術的な理由で、価格が決められるわけではないからです。平

たく言えば、その画家がいかに生前、苦悩を味わったか、不遇な

人生を送ったか、さらに、その画家の命が短ければ短いほど高く

なり、さらに非業の死を遂げでもしたら、さらに値段はつり上が

る。つまり、画家の不幸が、絵の価値を高めると言っても過言で

はない。


            


 もし、ある絵を見たとき、私のように重苦しい気持ちにさいな

まれることがあれば、そこには画家の苦しい人生が塗り込まれて

いる、後に価値を持つ絵だということです。実際、あの絵は素晴

らしい絵だった。私はあの絵を手放した後、絵から学んだ2つの

ことの一つです。重ねていいますが、素晴らしい絵画というもの

は恐ろしいものです。文章を書く人間のように画家は言葉を絵筆

に持ち換えているからです。


            


 そして、あの絵から学んだもう一つのことは、私は莫大な財産

をみすみす、どぶに捨てたということです。もしもあの時、別の

選択をしていたら、こうなっただろうにと、後悔はできても、

それを実現できた人は未だいません。画家がもし、あの時、ピス

トルで自分を撃たなければ、どうなったかと想像はできても、実

際にそれはできないのですから。人生は何度でもやり直しはでき

ても、時というものは決して取り戻すことはできません。過ぎ去

った時という最大のチャンスは取り戻すことができないのです」

老教授は大きくため息をつくと、「それでは以上で、私の最後の

講義とします」と言った。そして、まばらに起きた拍手に無言で

手を挙げると、靴音を響かせてゆっくりと教壇を降り、ドアをか

ちりと音をたてて開き、そしてまた、かちりと音を立ててドアを

閉め、出て行った





 



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 ゴッホのひまわりの絵は8枚ほどあると言われます。

その内の7枚が現存し、その1枚は日本の損保会社の

美術館に納められています。

その有名なひまわりの模写&アレンジです。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年7月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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