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リサコラム
連載931回
      本日のオードブル

『空想の部屋』

第8話

「バレリーナ」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ドガの「エトワール」

バレリーナ

華麗な踊りを見せる少女たち

それをじっと見つめる紳士

過去にはバレリーナが

パトロンを見つけるための

舞台だった時代がありました。


 



第8話「バレリーナ」




 「先生、私、もう、疲れました」16歳のバレリーナの恰好を

した少女は両膝に両手を乗せて息を切らしながら、言葉をひとつ

ひとつ、吐き出すように言った。「もう、だめです。私、これ以

上続けられません」


            


 先生と呼ばれた長身痩躯の女性はむちを持った手で床を軽く叩

くと、「そんな事はありえません。これまで一生懸命練習してき

て、かなり、上達してきているわ」「いいえ、もうだめなんで

す。本当にだめなんです」先生は深いため息をつくと、少女の

足元にむちの先を軽く置いた。「なぜだめなのか、今ここで、

説明なさい」


            


 少女は顎を少し持ち上げて、先生の顔を見ると、「もう全部が

嫌になりました。すべてです。仲間同士の争いも、バレエ自体

も。私と同じ時期に入った子たちはみんなお金持ちの家にもらわ

れて行きましたが、私はどなたからもお声がかかりません。この

先、もっときれいで上手な若い子がやって来たら、お金持ちは

そっちがいいに決まっていますから、長くやっている私なんか

は、やはりどなたからもお声掛けされず、ここで年をとってゆ

くだけなのです。それに、キャバレーでの前座の仕事はチップ

だけですし、縫子の仕事だけでは、ここのレッスン料を払った

ら何にも残らないんです。ですから、辞めさせてください。私

は別の道で身を立てたいと思います」


            


 先生は腕組みをしたままで、一転してなだめるような猫なで

声に変えると、言った。「あなたは素質もあるし、もう少し辛抱

して続けたらプロのバレリーナになれるかもしれないわ。そんな

に焦る必要ないわ」「先生、私、自分に素質がないことには知

っているんです。お世辞も結構です。やる気がなくなった人間

にかける言葉なんかないって、前もおっしゃってたでしょう。

私がまさに今、そんな状態なんです。どんなに頑張ってもこれ

以上は無理だと思います」


            


 「あなたね、努力が足りないってことは考えたことはないの?

みんな必死になって、家に帰っても、兄弟姉妹の世話をしながら

も、レッスンに通ってきているのよ。それなのに、あなたは、少

なくとも孤児院で暮らせているじゃないの。それも、これもお金

持ちの人たちが寄付金を寄せるからなのよ。だったら、そんな方

々に恩返しをしなくてどうするの?どなたからでもお声がかかる

まで辛抱するしかないのよ」


            


 少女はやっと片手を膝から離した。「でも、先生、この世の中

って、どうしてこんなに不平等にできてるんでしょうか?マリー

・アントワネットが、ギロチンにかけられてから、100年も経つ

っていうのに私たち庶民の暮らしはまるでよくはならない気がし

ます。貧しい家に生まれたら、ずっと貧しいままで、勉強もろく

にできず、すぐに働きにでなくちゃならなくて、だから、養って

もらえるパトロンを見つけるために、バレエをやらなくちゃなら

ないなんて…私、他に生きる道を見出したいんです」先生はあき

らかに焦りを感じているようで、少女の周りをむちを持ったまま

でぐるぐる回り始めた。


            


 「ガブリエル、今、世の中を動かしている人たちはどんな人たち

だと思う?」「先生、おっしゃりたいことはわかります。与えら

れた道で努力すればみんなにチャンスはあるっておっしゃりたい

んでしょう?今まで何度聞いたかわかりはしません。私も重々わ

かってるつもりです。でも、努力さえすれ誰だって、というのは

違うと思います。どんなに努力をしたとしても、そこに大きな差

がでるのは、やっぱり、向き不向きがあるってことじゃないない

でしょうか?一生懸命やってもだめだと思えば、そこでふんぎり

をつけて違う方面でがんばるやり方もあるんじゃないでしょうか

?私、やっぱりバレエには向いてないんです。それにバレエを見

てもらってパトロンを見つけるやり方自体が、向いてない気がし

ます。一緒に練習してきたほかの仲間はみんなそうやって、お金

持ちの家のお宅にもらわれていきましたけど、私にはどうもそれ

が納得できないんです。他にもっと自分らしく生きる方法ってな

いんでしょうか?」先生は笑い出したが、答えることなく、ずっ

と笑い続けた。


            


 「私は先生みたいなプロのバレリーナになれませんし、なるつ

もりもありません。でも、1つ私は考えてることがあるんです。

それは私みたいに孤児院に子供を入れざるを得ない社会を作らな

いことです。女の子にもっと職業の自由を与えられる社会が必要

だと思います。貧しい家に生まれても、孤児院に入れられても、

どんな子供も思い切って挑戦できる社会が理想だと、そう、思っ

てるんです」


            


 少女の周りをぐるぐる回っていた先生は、ぴたりと歩みを止め

た。「挑戦?バレエだって挑戦でしょう?」「はい、もちろんで

す。でも、別の挑戦もしてみたいんです。もっと多くの人に幸せ

を与えられるような…」「あなた、そんなセリフをいったい誰に

吹き込まれたのかしら?このフランスでそんなことは無理でしょ

う。どこか別の世界にでも行かない限り。だって、女性が政治に

参加することはできないだから、自分が思った人に投票すること

もできなければ、女性が社会の表舞台に出ることもできない世の

中なのに、どうしたらそんな絵空事が描けるの?」「だから、

別の道で…」「あなたね、バレリーナ崩れのあなたに、ほかに

どんな能力があるって言うの?」


            


 少女はごくんと、つばを飲み込むと、「先生、お言葉ですが、

それは先生にはわからないことです。望みはゼロではないと思っ

ています」少女はやっと体をまっすぐに伸ばすと汗びっしょりの

額を手の甲でぬぐってから胸を張った。「やりたいことは、まだ

漠然としてはいるんですが、惨めな女の子のままでは終わりたく

ないんです」


            


 先生は窓の方につかつかと歩いてゆくと、パチンと床に皮音を

響かせてから、少女と背中で向かい合った。「実はあなたのこと

を気にかけている紳士がおひとり、いなくもないんだけど…」

そう言うと、先生はくるりと少女の方に向き直った。しかし少女

はまったく表情を変えてはいなかった。


            


 「お気遣い、ありがとうございます、マダム。でも、私、女性が

もっと個性を発揮して、社会で自由に羽ばたけるための服を作りた

いと思っているんです。お針子仕事なら、孤児院でたくさんやらさ

れましたから、ちょっとは自信があるんです。いつか、先生にステ

キな舞台衣装を作りにここに戻ってきます。それまで、どんな小さ

なチャンスも逃さないつもりです」先生は深いため息をついてか

ら、「いいでしょう。ガブリエル、お好きになさい」とだけ言っ

た。少女は吹っ切れた表情でバレリーナのお辞儀をしてから、

ドアの方に軽やかなステップであゆみ寄り、部屋を出て行った。


            


 先生はくちびるを噛みしめた。それは一人分のレッスン料を失っ

たからではなかった。30を過ぎて、40歳に近い彼女でさえ思っ

ていても、口には出せない切実な願いをこんなに若い少女が全て

言い尽くしたことに耐えられない屈辱を感じたからだった。


            


 しかし、独立心と忍耐力と独特の魅力を秘めた少女が15年後、

大成功を納め、30年後、世界中のセレブの憧れのデザイナー

にまでなることはもちろん、想像もできなかった




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 ドガの「エトワール」

実は油絵ではなく、パステルで着色された絵だそうです。

パトロンを見つけるために踊り、

パトロンを見つけてバレリーナを続ける少女たち。

もしも、ガブリエル・シャネルがバレリーナを

やっていたら?という空想の物語です。

ドガに叱られるような模写です。




p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年9月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
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