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リサコラム
連載932回
      本日のオードブル

『空想の部屋』

第9話

「セザンヌとアンヌ」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




カウチの上に多彩な生地、

白いクロス、

いろとりどりのリンゴ、オレンジ、ピッチャー、

この配置はわざとらしく、

インテリア的観点からのセンスは?

しかし、感情を揺さぶられる

何かがある。

これが絵画とインテリアの違いでしょう。


 



第9話「セザンヌとアンヌ」




 「みなさま、本日は、『セザンヌを味わうつどい』にお集まり

いただきましてありがとうございます。私は当美術館、副館長の

瀬崎アンヌと申します。これからみなさまとご一緒にセザンヌの

フルコースを味わい尽くしたいと思っております。最後まで、

ごゆっくり、笑って、語って、楽しんで頂ければと思っており

ま~す」副館長の瀬崎アンヌが挨拶をすると、会場に集まった

年齢も様々な19歳から90歳までの美術館会員20人からまば

らな拍手が起きた。


            


 「それでは早速ですが、アミューズといたしまして、お手元に

ございます白い袋を開けていただけますでしょうか?」副館長は

好奇の目を輝かせて会員の反応を待った。


 「館長、これは一体なんです?」「なに、これ?」「かなり

、ヤバい、エプロンじゃん!」ざわめきと笑い声、そして驚きの

声などがあちこちから沸き起こった。「はい、エプロンです。

しかし、頭に『副』をつけて頂きませんと、ちょっとヤバイこと

になります。もしくは、『アンナ』と呼んでいただいても…、

まあ、少々気恥ずかしくはございますが、それでも、結構で…」


            


 「あの、セザキさん、」今、広げたばかりのエプロンをステッキ

の先にひっかけて、挙手の代わりにしたのは最高齢の常連会員で、

真っ白な口ひげにベレー帽をかぶり、蝶ネクタイにピンクのシャツ

という画家風の男性だった。「私はこれまでセザンヌはいくらでも

見てきました。本家、オルセーはもちろん、日本の各地の美術館に

来たときは必ず足を運び、セザンヌに関する研究書も読破し、セザ

ンヌの講演会があれば、日本全国、どこへでも駆けつけてきまし

た。しかしながら、本日はこの奇妙な姿になってセザンヌと対面

することには、いささかどころか、かなり面食らっております。

この、この『もの』の使用目的を説明して頂きたいものですね」


            


 すると、その横の若い女性が「このエプロンでお料理するとかで

しょうか?」と尋ねた。副館長のセザキはすぐに「ご明察です。

それではみなさま、隣の会場へ行きましょう!」と言うと、開き戸

をさっと全開にして、会員たちを中に誘導した。


            


 そこは広々とした料理教室のようで、カウンターその上にはいろ

んな食材が並んでいた。「早速オードブルからご説明をいたし…」

とセザキが言いかけると、先程の口ひげの常連会員が、すぐに遮っ

た。「この、キュイジンヌの参加は義務かね?」「ご安心ください

ませ。レシピは簡単ですし、懇切丁寧にご指導申し上げます」

「そんな馬鹿な!セザンヌの座談会と思って来たのに、なぜ、

今から料理なんて作らきゃいかん?」口ひげの男性はエプロン

を吊るしたステッキで床をトンとたたいて、「悪いが、これで

失礼する。私はこれまで『男子厨房に入らず』をずっと貫いて

きた人間です。ここに来て、いきなり料理など作るなど、考え

られん!!」


           


 すると、2人右隣りの女性が少々冷やかさを携えた口調で、

「あなたの奥様はさぞかし従順な、大和撫子でいらっしゃるん

でしょうね?さぁ、アンナせんせ、はじめましょう、カチカチ

の日本男児なんて、自由の国、フランスの芸術家、セザンヌを

鑑賞する資格などございませんから」と、果敢にも言い放っ

た。


            


 すると、常連会員はまさしくセザンヌのりんごのように顔を

真っ赤にして反論した。「結構!私の妻は従順で、しかも料理

がうまい。各家庭には各家庭のやり方というものがある。お分

かりか?これ以上のプライバシーの侵害はご無用。私はこれで

結構失礼する!」と言うと、ステッキにへばりついたエプロン

をいらだちの形相で床に放り投げてから、杖をつきつつ、出て

行った。


            


 「なさりたくない方は結構でございますよね、先生、私は、

今日、どんな仕掛けが待っているのかと、わくわくして来まし

たの。見るからにおいしそうな食材が並んでいるでございませ

んか?りんごにオレンジ、チーズ、卵、そしてじゃがいも、

青野菜、すべてセザンヌが好きだった食材です。私だって知っ

てますよ、セザンヌの好物はジャガイモのソテーだったってね、

だからこの食材を見ただけで何が作れるか、わかりますわ」女性

は得意げな表情で調理台の周りを回った。


           


 セザキは、その女性のほうに歩み寄ると、「おっしゃる通りで

す。よくご存知のようですので、もしかしたらそちら様がお料理

の指導なさった方がよろしいのではないかと、今、ちらっと、

思ったのですが…もしかしたら、お料理の先生でいらっしゃい

ますか?私は料理人の資格を持っているわけではございませんし、

ただ、一セザンヌファンとして、セザンヌが好きだった料理を

よく作るものですから、それをみなさまに作っていただき、

そして、一緒に味わいながら、セザンヌ談義を深めていただけ

ればと…」とセザキが言い終わらない内に、その女性は、

「こう見えても若い頃には、パリの、それもそれなりのレスト

ランで2年間修行した経験がございます。日本に戻りましてか

らはフレンチシェフである夫の手伝いをしながら、2人3脚で

一応ミシュランの一つ星も獲得いたしました。お店は銀座界隈

にございまして、いつかお越しいただけましたら光栄に存じま

す」と言うと、早速、名刺を配り始めた。


          


 「まぁね、セザンヌの料理といいますと、エクサン・プロヴァ

ンス料理ですから、一種の田舎料理でございますね、しかし、

セザンヌファンのみなさまとテーブルを分かち合えることは、

とてもうれしいことですわ」しかし、そんな中、「私も失礼し

ます」と、1人、2人、とうとう5人が会場から去って行った。

残った15人の中のひとりの男性が発言した。


          


 「セザンヌはりんごを女性とみなしていたとか、そこに鬱屈し

た精神性を見ることができるなどと物の本にはよく書かれており

ます。しかし、りんごはフランス語でポム、そして、セザンヌが

大好きだったじゃがいものソテーはポム・ド・テール、つまり

意味は、大地のりんごですから、ポムとポム・ド・テールは大変

近しい関係です。つまり単に丸い素朴なものが好きだったのでは

ないかというのが長年の私の意見です。それに彼の絵はずっと

『ヘタウマ』とも言われます。そこが魅力なんですが、りんごと

いうのは描きやすい素材だから、描き始めたら、評判になって、

セザンヌ=りんごと、彼のトレードマークになったのではないか

という、“純粋説”を私は支持しています。あまりに描きやすい

素材ゆえに、他の印象派の画家は子供の描くものだと蔑視したの

ではないでしょうか?彼は逆にそこに目をつけたんだと思いま

す。さらに、乱視など、目の不調もあり、糖尿病も患っており、

1日に1個りんごを食べれば医者を遠ざけるという説も信じてい

たのだろうと思っています。描いたあとのりんごは食べたので

しょうからね。りんご料理も好きだったと思いますね…」


            


 すると、また別の中年男性が話しを遮った。「私もそちらの方

に賛成ですね。62歳でセザンヌは丘の上にアトリエを作って、

毎日、家とアトリエを20分かけて歩いて往復した健脚です。

さらに昼は家に戻って昼食を取ったそうですから、美食家では

なかったはずです。昼食後は外にスケッチに行ってますから、

まじめな画家だったと思いますね」


           


 セザキはどうやら自分に発言の機会はなさそうだと思った。

しかし、会場はいいムードになってきて、一時はどうなるかと

思ったが、今はほっとして事の成り行きを見守っていた。


 ようやく会員同士の会話も弾んできたところで、先ほどのフレ

ンチシェフの妻が料理指導をし始めた。「…オードブルにはスラ

イスしたりんごとチーズ、それとフェンネルなんかがありますか

ら、たまねぎ、じゃがいもを使ったフェンネルのクリームスープ、

そしてじゃがいものソテー、レタス、セロリとハーブのグリーン

サラダ、ズッキーニとチーズのグラタン、そしてデザートにりん

ごのタルト、タルトタタンなんていかがでしょうか?」会場内か

ら拍手が沸き起こった。「それでは、私がみなさまを担当分けい

たしますが、よろしいでしょうか?」女性は副館長をちらっと見

た。セザキは無言で首をたてに振った。


           


 女性は勝手にグループ分けをすると、手際よく野菜の下処理を

やって見せた。それから30分もすると、グランタンとタルトの

焼き上がりを待つだけになった。その一部始終を副館長はやはり

黙って見守るしかなかった。


           


 オーブンから香ばしい香りが立ち始めた頃、セザキのところに

ひとりの若い女性がやって来てささやいた。「あの、副館長さん

のお名前、瀬崎アンナさんって、もしかして、本名、なんです

か?なんか、違うのかな~なんて、思ったりして…」


 副館長の瀬崎は、にっこり笑った。「ええ、お察しのとおり、

偽名です。まあ、こういう予想外の展開になっては、もう私の

出番はなくなりましたけど、実は、セザキアンナ、セザンナ、

セザンヌ…って、」若い女性は「なんちゃって、セザンヌかな

って思ってたんです、やっぱり、そうなんだ…ふふふ」と言っ

て軽く笑った。


            


 「最初からばれてたんですね。それが今日のオチだったんで

すけど…」なんちゃってセザンヌは会場を見渡すと、「もう、

アミューズからお口直しのシャーベット、そしてデザートの後

のオチまで全部、持ってかれましたから…セザンヌファン、

恐れ入ります、です」と表情を崩すと情けない表情でちいさ

く笑った。



  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 セザンヌのリンゴとオレンジ

この絵を見て、りんごを食べたくはならない、

しかし、模写したくなると言った画家がいたそうですが、

まさしく、その通りで、2時間では模写にはまるで

なっていませんが、トライしたくなってしまいました。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年9月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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