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リサコラム
連載933回
      本日のオードブル

『空想の部屋』

第10話

「モネの庭と先生」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




紫色の花は

アイリス

密集した花壇はどのくらいの

手がかかっているでしょうか?

この花壇を作ったひとと

絵を描いたひとが同じというのが

価値をさらに高めているのでしょう。


「モネの庭、アイリス」から。



 



第10話「モネの庭と先生」




 「ここで、私の半生からお話ししたいと思います。


            


 私は8人兄弟の下から2番目に生まれました。上に兄が3人、

姉が3人いるわけです。1番上の兄とは、20才の年の差があり

ました。兄と言うよりは父親と言ったほうがいい位の年齢差で

す。物心ついた頃から兄は父親の役目をしており、私は兄と姉

たちに大変かわいがられて、というのは全くの嘘で、ほぼ、見放

された環境で育ったのです。


 少子化の時代にあって、子供は大事、大事に育てられますか

ら、今は児童労働とか、あるいは児童虐待ということになろう

かと思いますが、私の時代は、子供は労働力の1つでございま

した。私の家は農家で花とか果物とか、もちろんお米もなんで

も作ており、学校から帰ってくると、「〇〇の畑に来い」と書

き置きがございます。そんなわけで、高校卒業まで友人と遊ん

だり野球したりもほとんどなく、畑や田んぼで農作業をするの

が常でした。おやつは畑や庭の果物をちぎって食べるのが当た

り前でした。家におやつが用意してあるサラリーマン家庭の子

供とは全く違いますから、そういう環境にいる友人たちを大変

羨ましく思っていました。ですから、卒業したら一刻も早くこ

の家と畑から抜け出して都会に行きたい、有名人になりたいと

願っておりました。転機は高校1年生のある日、友人が音楽の

発表会に誘ってくれた時にやって来ました。私がいつも農作業

に明け暮れているため、かわいそうと思ったのでしょう。


            


 それまで音楽会などというものは、音楽の授業以外、私の

日常とはかけ離れたものでした。そして、そこで衝撃を受け

たのです。なんと、同級生がいとも簡単にピアノでモーツァ

ルトなんぞ弾いていたのです。そしてもう1人の友人はなん

とバイオリンでした。そんな友人たちは毎日、学校帰りに直

接、音楽家の先生の所行き、手ほどきを受け、家に帰っても

寝る前まで、毎日、毎日、練習していたのだと言います。私

はその時、音楽家を目指そうと思ったのです。


            


 しかしです、楽器がございません。そこで、放課後は音楽先生

に相談して、部活に入りピアノの練習したのですが、これがなか

なか上手になりません。しかも練習は30分が限界で、その後は

畑や田んぼで作業が待っております。私はここでやむなくピアノ

を諦めました。さらに、ピアノ習っている子の家に必ずピアノが

あるのですが、私の家にはピアノどころか、個室さえなく、どう

やってピアニストを目指せましょうか!


            


 そこで次にプロ野球選手になろうと思いました。しかし私は

身長が前から3番目で、野球部に入ろうにも部員が大変に多く、

追加の部員になるにも、たいへんな狭き門だったのです。

身長の低さと足の遅さはどうしようもありませんでした。

これで泣く泣く、プロ野球選手も諦めました。


            


 そして、私は絵描きになるのはどうかと思いました。早速、

放課後、美術部の先生のところに行き、いきなり、「先生、私、

将来、画家になりたいです」と言いました。先生は一言、

「どんな画家に?」聞きました。どんな画家?私はこう切り返され

るとは全く思ってもみなかったので、返事に窮しました。しかし

人生、どう転ぶかわからないと言うのはまぁ、こういうことなん

だと思いますね、絵画の知識はまるでなく、ただ何かの聞き覚え

か、おそらく教科書に載っていたのだと思いますが、「モネの

睡蓮」と言うのがぱっと浮かびました。他は何にも浮かばなかっ

たんですが、「モネ」と言いました。


            


 今思えばレオナルド・ダ・ヴィンチとかゴッホとか、誰もが

知る有名画家を挙げればよかったのかもしれませんが、その時

私の頭にぱっと浮かんだのがモネだったのです。しかし、もう

これ以上聞かれても何も答えることはできないし、私が画家にな

ろうなんぞ、畏れ多いと思われるだろうと後悔しました。しかし

その時、先生の顔がぱっと、スポットライトを浴びたみたいな

りました。私はなんか大変なことを言ってしまったに違いないと

思ったのですが、先生はうれしそうに、こう言われました。

「今度の日曜日、家に来ませんか?」


            


 先生の話によれば、家にアトリエがあり、そこでモネの絵をた

くさん模写されているとの事でした。「弟子入りさせてもらえる

のかもしれない」私はとっさにそう判断しました。次に先生は

「タダとは言わない。ちょっとしたアルバイトで来てくれないか

な?」と、そんなことまでおっしゃったんです。私のお小遣いは

当時、新聞配達の月3000円くらいでしたが、13000円も

くれると言われるではありませんか!それは1ヵ月分の新聞配達

代と同じですから「先生、そんな僕なんか…」と思ったものの、

ぐっと飲み込んで、「ハイ」と返事をしました。「それじゃ、

今度の日曜日、朝8時に来てくれないかな?色々と勉強になると

思うよ」


            


 それはもう私にとっては天にも登るような気持ちでした。運動

もダメ、勉強もダメ。音楽もダメな自分があの家から飛び出すに

は一体どうしたら良いかと考えたときには、もうこれしか残って

いなかったのです。その時私は高校2年生でした。家は貧乏で、

私立大学は到底無理、かと言って、国立大学など受かりそうに

もありませんでした。ということで、就職するとなるとこの辺の

役所かあるいは企業に就職するしか方法がありませんでした。

これといって、秀でたもののない私はうれしくて、これで将来は

画家になれると思い、日曜日が待ち遠しくてなりませんでした。


            


 約束の日曜日は1時間も早く先生の玄関に立っていました。

先生の家は大きな敷地に建つ洋風な感じのする家で、庭の方に回

ると、たくさんの実をつけたぶどうの木が見えました。そこに麦

わら帽子をかぶった1人の老人がいるではありませんか。なんと

それが先生だったんです。先生はすぐに僕に気づいて手を挙げま

した。「ここから入れるよ。自転車はそこに置いて」と言われた

ので、急いで自転車を置いて庭の方から入ってきました。「とり

あえず、これかぶったほうがいいなぁ」と言われて、帽子と軍手

を渡されました。私はどこで絵を描くのだろう。庭で描くのか

な?と思ったんですが、そこから何が始まったと思います?


 土木作業です。


            



 先生は掘り返したような跡のある場所を見せて、「ここに池を

作ろうと思っている。ここの土を掘り出して…」と、設計図を広

げて、「水は、ここからこうやってここを通して、そして太鼓橋

をかける。つまり睡蓮だよ、あのモネの睡蓮をここに浮かべるん

だよ。それが私は長年の夢だったからね。ただ、1人じゃどうに

もできそうになかったんで、君が手伝ってくれると言うなら、

これはもう願ったり叶ったりだ。一緒にモネの庭を作ろう!」


            


 私は唖然としていました。私は絵を習いに来たのに、なぜ家の

作業と同じような鍬を持たされるんだろうかと、がっくりしたの

ですが、もう後には引けず、言われるままに穴を掘りました。

ひたすら穴を掘りました。休憩と昼食をはさんで、その日1日、

日暮れまで掘り続けました。


            


 そして先生はニコニコ顔で、「それじゃまた来週、待ってるか

ら」と言いながら封筒に入ったお金を渡してくれました。私は複

雑な思いでしたが、「ありがとうございます」と言って自転車で

帰りました。その頃の私には大金の3000円でしたから。そして

私はその翌週も行き、土運びやいろんなことをしました。しかし

またお金をもらえると思うと、家で働いたって1円にもなりはし

ないんだからいいアルバイトだと思って、草むしり、剪定、

苗の植え付け、果物の収穫、花の世話などなどの先生の庭づくり

の手伝いを、1年も続けたのです。


            


 先生の庭はまさしく『モネの庭』のようになりました。先生は

私にモネの絵画を見せて、「ここにね、アイリスを植えようと思

ってるんだよ、この池のほとりに、アイリスの小道を作るのが私

の一番やりたかったことでね。これを描きたくて絵描きになった

んだよ。しかし、ある書物で読んだら、モネは画家と言うより素

晴らしい造園家だったらしい。つまり、造園家でなくては庭の絵

は描けないということに気づいたわけだ。自分の庭を絵に描ける

なんて素晴らしいことだろう!しかも、私は君みたいな助っ人を

得て本当にラッキーだった」と、こうおっしゃったのです。私は

さらに高校を卒業し、近くの工場に就職しても、先生の家に毎週

通いました。


            


 そして私は、はたと気づいたんです。私に1番向いているのはやっ

ぱり畑仕事か造園だと。しかし畑仕事は収穫次第で、リスクが

大きい。それに比べ、造園業はあまりライバルがなかったので

す。私はそこで、庭師になることに決めました。そこから50年、

ようやくこの栄えある造園大賞を受賞することになったのです。

これまで私を支えてくれた多くの人々とこの受賞を分かち合いた

いと思います。


 人生はどう転ぶか分からないものです。やりたくないなぁ、

きつそうだなと思う方向に行けばおそらく人生、間違いございま

せん。そちらのほうに運命の神様が月桂冠を持って待っていた

のですから




  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 「モネの庭、アイリス」

パレットで色を混ぜることなく、描いた絵だそうです。

ipadで模写するときは、光が当たっている場所と

日陰の場所の色の変化をつけるのは簡単ですが、

絵具でつけるのは高度な技術のいることです。

こんな庭を作ってみたいです。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年9月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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