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リサコラム
連載936回
      本日のオードブル

『空想の部屋』

第13話

「秋とシスレーと絵はがき」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




サン・マルタン運河の眺めは

当時、たくさんの船が行き交い

倉庫が立ち並ぶ場所だったようです。

紅葉の季節の美しさに

うっとりして

画家は絵の具を塗り重ねては

水面の輝く様を表現しようと

していますね。

(原画では)





 



第13話「秋とシスレーと絵はがき」




 「秋も深まりましたね。お元気でいらっしゃいますか?」男性は


そう書き始めて、大きなため息をつくと、右手の窓から10月の空

をじっと眺めた。見える風景は昨日と変わりはない。あれから2週

間、秋は深まったようだが、ビルの壁の向こうの景色がどう変わっ

ているのか想像がつかなかった。


            


 「私は、実は、元気ではないのです。」男性は、そこでまた小休

止した。そしてまたため息をつくと、白い便箋に書き始めた。

「実をいいますと、先日、つまらないことで、大怪我をして、救急車

で運ばれ、入院中の身なのです。理由は天袋の中の探し物をしてい

て、頭の上に本が落ちかかってきてしまって、それをよけようとし

て、脚立から落ちて、あろうことか、引っ張ったままの引き出しの

角でこめかみを打ち、頭蓋骨にひびが入ってしまったのです。たま

たまそこに妻がいたからよかったようなものも、もし誰もいなかっ

たら、誰にも気づかれず、動けないまま、そして、その先はどうな

っていたか分かりません。


            


 ことの発端はどこかにしまったはずだったと思った本を探し出し

たかったのです。それがどんな本かといいますと、今は、ある本と

だけ申し上げます。そのある本を探していたのです。


            


 時は一気にさかのぼりますが、今から30数年前、私はまだ社会

人になりたてでした。昼休み、会社近くの公園のベンチに座って

本を読んでいました。その時、前を通り掛かった女性が何かを落

としたのです。まぁ、ドラマによくあるような風景ですね。しか

し、私はそんな親切な人間でもなく、何も考えず、落としたもの

が一体何であるかも知ろうとせず、知らんふりをしていました。

どうでもよかったのです。しかし、落とした本人がいなくなって

しばらくして、ちょっと気になってそれを拾い上げました。それ

はおそらくこれから投函しようとしていたはずの切手が貼られた

絵はがきだったのです。そこには書いた人の住所も書かれていま

した。内容はよく覚えていないのですが、重大な内容ではなかっ

たと思います。季節は秋で秋の挨拶が書かれていて、出だしはさ

っき私が書いた『秋が深まってきましたね』と言う言葉だったの

です。


            


 私は拾ったものの、それをどうしたらいいのかわかりませんで

した。恐らくこれを書いた女性は本か何かの間に挟んでいて、

投函しようと思ったものの、知らず落としてしまったのでしょ

う。私はそんな他人の私物の面倒までみたいとは思わなかった

のですが、仕方なく代わりに投函しようかなと思い、それを自

分が読んでいた本にはさんで帰り道で郵便ポストに入れようと

思いました。しかし、もしかしたらそれは投函したくなくて、

あえて落としたのかもしれない、などと、ふとそんな考えが浮

かびました。それを私が投函することによって何か悪いことが

起きてしまうのかもしれないとも考えました。それで私は投函

しないままにしていました。やはり、書いた本人に返すべきと

思ったのです。しかし、迷っているうち、1日、2日、3日、1

週間、そして数ヵ月間が経ちました。ただぼんやりとあの絵は

がきの絵が気に入っていました。どこかで見たことがあるよう

な気がしていました。そして、ある日、たまたま、世界の美術

図鑑のようなものを開いていたときにはっと気づきました。そ

の絵はシスレー、印象派と言われる画家の絵だったのです。そ

してその時のことが思い出されました。


           


 私はあのはがきを何かの本に挟んだのですが、どの本に挟んだ

のか忘れてしまっていました。ずっと考えて、その時、落ち葉を

踏んで歩いていた記憶から、やっと思い出しました。私はその本

を見つけ出して、その彼女に簡単な手紙を添えて返送しました。

それから間もなく彼女から返事が来て、それから何度か手紙を交

換して、会うことになりました。それがあの同じ公園です。


            



 私は独身でしたが、彼女には既に婚約相手がおり、だからと言

ってドラマのように恋愛関係に発展したわけでもありません。

ただ、しばらくは、毎年、秋になるといつもなぜか思い出して

いました。


            


 私はその後、結婚し、家庭を築いたものですから、そんな出来

事は次第に忘れ去っていたのです。しかし、先日、美術館に行っ

て、またそのシスレーの絵に対面したものですから、私は一気に

あの30数年前の出来事をありありと思い出し、あの本に挟んだ

彼女からのはがきを引っ張り出そうとしたのです。それは、彼女

が落としたシスレーの絵と同じ絵の絵ハガキでした。それで先に

申しました顛末が起きたということです。


            


 もういい加減、そんな事は忘れ去ったほうがいいはずなので

す。しかし、人というのはおかしなものですよね。つくづくそう

思います。こんな恥ずかしい出来事を書けるのは、つまり、先生

しかいないのです。先生、あなたの『秋の想い』という本がきっ

かけで、私はこのような30数年を生きてきました。そして、

今、こうして病室で、やっと先生に、この本の作者のあなたに

手紙を書いているのです。


            


 『秋の想い』と彼女と私はなんという因果なつながりでしょ

う。暇なものですから、思い切って、病室から筆を執りました。

さて、この先、どんな顛末が待っているのか楽しみでもありま

す。」男性はその手紙を書き終えると、紙飛行機にして、

窓から外に飛ばした



  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 『サン・マルタン運河の眺め』1870年 
 
アルフレッド・シスレー(1839-1899)作

iPadでの模写です。デジタルでは水面の絵具の筆致を

真似ることは難しいですね。原画に申し訳ないです。




p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年10月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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