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リサコラム
連載937回
      本日のオードブル

『空想の部屋』

第14話

「だから、

ゴッホはやめろ」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ブルーの壁、

ブルーのドア、

緑の窓枠、

黄色い椅子、

黄色いピロケースとシーツ、

赤いベッドスロー

おそらくパイン材のベッド

色に溢れて美しい。

質素な住まいだけと。





 



第14話「だから、ゴッホはやめろ」




 これは、ゴッホの『ゴッホの寝室』という絵の僕の模写です。

実はずっと仲が良かった親友と最近、大喧嘩をしてしまい、

どうしたら仲直りできるか、僕にできるものは何かと考えた時、

この絵を彼の誕生日に贈ることにしたのです。


            


 僕たちは幼稚園、小、中、高、そして大学1年まで、同じ学校

に通った古い友人関係です。生まれも育ちも田舎のことですから、

僕たちは他人でも兄弟のように過ごしてきました。この感覚と

いうのはわからない人が多いと思います。さらに僕たちには似て

いるところがありました。それは、僕たちの家の家業が似ていた

ということです。僕の家は材木店で彼の家は木工所でした。家族

ぐるみの付き合いもあり、地域の行事や祭りにも必ず参加すると

いうふうに、常に行動を同じくしてきたのです。


            


 しかし、大学進学が決まった高校3年生の時、彼の家は家業が

うまくいかなくなって、彼のお父さんはサラリーマンになり、お母

さんも主婦からパートタイマーになりました。僕らは、それでもず

っと変わらず付き合いを続けてきたのです。


            


 僕は卒業後、一度、企業に就職したのですが、なんとなく合わな

い感じがして、画家になりたいなんて、そんなことをちらっと思っ

たんです。簡単に言えば、得意だと言えるものは絵を描くことしか

なかったからです。地元に有名画家の絵が来るとなれば彼を誘って

必ず見に行っていましたし、小中高と絵のコンペでは僕は必ず入賞

していました。一度は最優秀賞を取ったこともありました。それ

で、もしかしたら、もしかするのではないかと思い、ポスト印象派

と言われるゴッホの絵がもっとも好きだったので、それで、ゴッホ

の模写から始めました。『ひまわり』、『カラスのいる麦畑』など

何度も模写をしてきました。趣味とはいえ、絵を本格的に始めた

のも、ゴッホと同じ28歳でした。


            


 
ゴッホは住まいも職業も転々として、最終的に28歳から画家の

道に入ったわけですから、僕にも、画家への道が開けるのかもなん

ていう夢のようなものもありました。そして10年経ちました。


            


 ゴッホ自身は父や、弟、テオの援助にすがりながら絵を描き続け

ますが、生前はほとんど評価されず、37歳で亡くなるまでの10

年間にたった1枚の絵しか売れなかったと言う、悲劇の画家です。


            


 
サラリーマンの僕は10年描き続けて、展覧会もやったことがあ

りませんし、もちろん、売れる絵など描けてはいません。でも、描

き貯めた絵がワンルームの部屋を占領し始め、その絵を久しぶりに

彼に見て欲しくなって、幼なじみの親友を誘ったのです。


            


 久しぶりだったので、僕は彼のために自分なりにできる最高の手

料理を作り、もてなしたのです。そこまではよかったのです。彼は

お父さんの木工所がうまくいかなくなり、彼が大学を中退すること

になってから職を点々として苦労し、やっと今の職業に落ち着いた

ものの、厳しいサラリーマン社会の中で日々、葛藤を続けている話

しをしました。僕は僕で、のほほんと生きてきたわけではないので

すが、10年間、ずっとゴッホにめり込んでおり、『ゴッホの寝室

』という絵を描き上げたばかりだったのでそれを彼に見せました。


            


 僕のワンルームはまさに、そのゴッホの部屋のようにベッドが壁

にぴったりくっつけてあり、窓際にデスクが1つ。椅子が別々にふ

たつ。テーブルはかろうじて2人食事できる位の大きさがひとつ。

ただキッチンはちゃんと料理ができる位のスペースがあります。

彼は、その絵を見ながらひとこと、「のんきでいいなぁ~」と、

そう言いました。僕は自分の生き方のどこがのんきなのか?と憤

りを感じました。僕は僕なりにサラリーマンをやりながら、四苦

八苦して、画材や絵の具を買い、それなりに絵を勉強しながら描

き続けていたので、「のんき」という言葉を聞いたとき、かちん

ときたのです。それで、「よくも、そんな、のんきだなんて!ど

んな思いをして、絵を描いているかわかるかい!」などと売り言

葉に買い言葉を言ってしまい、そして彼は食事の途中で帰ってし

まいました。まさかこんな顛末になるとは…僕はその時にそれま

でで最も悲しい思いをしている気がしました。それからすぐに、

彼との関係を修復できないかと電話をかけてみたり、メッセージ

を送ったりしましたが、全くの音沙汰なしなのです。


            


 それからしばらくたってから、私は重大なあることに気づきま

した。ゴッホという人間は、絵を描きたいという情熱と相互扶助

の精神をもっていました。そして、自然の景観にあふれるアルル

に画家仲間の共同組合のようなものを作って、刺激し合いながら

、絵を描き、売買代金を画家で分け合うなどと、そんな夢を描い

ていました。まあ、実現はしなかったようですが。そして、わざ

わざパリからゴーギャンを呼び寄せ、共同生活を始めたものの、

数か月で仲違いをしてしまいます。ゴッホは当てつけに、自ら、

自分の耳を切落すという妙な行動を起こしています。以来、ずっ

と精神的に不安定な時期が続きます。それにもかかわらず1890

年7月、37歳で自ら命を絶つまで絵を描き続けています。

そして、ゴッホの死から半年後、ずっと彼を援助し続けた弟テオ

が兄の後を追うように亡くなるという悲劇で幕が引かれます。


            


 僕は彼を家に招いたとき、自分のゴッホの模写を見せながら、

10年間に油絵、水彩、素描、スケッチなど2000点も残して

いる偉大なる天才画家のことを熱く熱く彼に語ってしまったので

す。僕らは、ゴッホと弟テオのようなそんな強い関係ではなかっ

たかもしれませんが、ずっと関り合いを持ちながら生きてきたの

で、彼の中で、ゴッホとテオの関係に対する思いも重なっていた

のかもしれません。それが彼に漠然とした不安な気分を起こさせ

たのかもしれないと、一月後にやっとわかったのです。


            


 彼は今、37歳、私も37歳。ゴッホの絵は精神的に異常な感

じを受けるものがありますが、それはまさに、彼の精神状態を物語

っているのだろうと思います。しかし、僕は彼の不遇な人生設計に

何かのキーワードを見つけることができるとしたら、それはテオと

いう弟ではないかと思います。テオは金銭的に兄を支えつつ、尊敬

し、そして兄に精神的に依存していた面もあったのだろうことが膨

大な書簡から伺えるからです。そしてそれは彼と僕との関係にも似

ているところがあるのです。きっと彼はそれを感じたのではないか

と、だからもう僕との兄弟のような友人関係を断ち切りたいと思っ

たのではないかと、そんな考えが、今、浮かんでいます。


            


 画家の絵を模写すると、その画家の魂がその筆跡から感じ取れ

ます。それが乗り移るような感覚がするのです。絵が写真と違う

点はここではないかと僕は思うのです。親友で弟のような彼は言

いたいのではないかと思います。「だから、ゴッホはやめろ」と。


            


 それで、彼の38回目の誕生日にこの絵を贈ることにしました。

この絵を贈るにあたって僕は描き加えたことがあります。それは、

壁のゴッホの自画像の横の小さな額の絵です。そこに、彼の愛猫の

絵を描き入れたことです。まあ、気づくかどうかはわかりませんが。




  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 『アルルのゴッホの寝室』1889年 
 
フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)作

iPadでの模写です。好きな絵です。

自分の寝室を描いた画家は少ないのでは

ないかと思います。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年10月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
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