MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載939回
      本日のオードブル

『Live in A Dream』

第1話

「バラの花束」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




高層マンションのバスルームで

バラの花に包まれて

バラの花びらに包まれて

人生を振り返る男性

どんなことをおもうのでしょうか?

「バラ色の人生」の歌の

歌詞を読みながら


 



第1話「バラの花束」




 「ジャズをかけてくれ!」私はバスタブの中で天井辺りに向かっ

てそう言った。すると、音楽はさっきのクラシカルミュージックから

ジャズに変わった。そして鼻の下まで生暖かいお湯につかると長々と

手足を伸ばし、顔の前に来た花びらの香りを嗅ぎながら

「いい匂いだ」と呟いた。馥郁としてむせ返るようなバラの香りが

バスルームに満ち満ちている。それもそうだろう。街中の香りの

する高級なバラをかき集めてきたはずだろうから。


            


  しばらくすると、窓の外からオレンジ色の光が差し込んできた。

私は手のひらで顔を覆うようにしてバスタブの縁に両肘を置くと、

バスルームの窓ごしにビルの谷間に沈む夕日を眺めた。今日はほん

とうに長い1日だった。そして非常に疲れを感じていた。仕事をし

ている時よりも、昨日の私の誕生日パーティーよりも、ランニング

の後よりも。


            


 私は昨日で 58歳になった。いろんなものがこの1年で変わった

が、天涯孤独の身に変わりはなかった。そして相変わらず親友はい

なかった。私にいろいろと言いよってくる人間はもちろん山ほどい

る。しかし、最近はケイタイメッセージもSNSもほとんど見なく

なった。もうそんなものはどうでもよくなってしまった。


            


 昨日の私の誕生日パーティーでは大勢の知らない人間がたくさん

の料理を持ち込んで、私の部屋を占領していた。うるさいほどの話

し声でそれぞれが何を言っているのかわからないまま、知らない人

間と握手し、グラスを重ね、私の58歳の誕生日に58本のバラの

花束持ってきた約15人のゲスト一人ひとりににこやかな笑みを浮

かべては、「今日は世界で1番幸せな日だ」と言った。しかし、

うれしさはかけらも感じなかった。集まったバラはおそらく千本近い

くらいになっただろう。私はパーティの最後に、「好きなように

バラを持ち帰ってくれ」と言ったが、彼らの全員は持ち帰らなかっ

た。私は後片付けのスタッフにも持ち帰ってくれと言ったが、彼ら

も持てるだけしか持ち帰らなかった。そして私のバスルームはバラ

の花であふれかえった。浴槽を埋め尽くすバラはおそらく3、4百

本ほどになるだろうか、おかげで昨晩は風呂にも入れなかった。

シャワーを浴びてしばらく眠って、それから朝が来た。パーティー

の翌日と言うのは常にこのように空虚なものだった。しかも今日は

日曜日である。


            


 私はそこで、ある面白いアイデアを思いついて、すぐに家政婦

に電話した。「セロハンを300枚ほど持ってきて欲しい」彼女は

腑に落ちない感じだったが、1時間後ほどすると、家政婦はセロハ

ンの束を抱えてやってきた。一通りの掃除を終え、私に朝食を作る

と、「このセロハンでバラを包むんですか?」と聞いた。


            


 「そうだ」と言うと家政婦は何も言わずバラをセロハンで1

1本包み始めた。それを見ていると面白そうに思えて、彼女と一緒

にキッチンカウンターでバラを包み始めた。しかし、私はどうも

うまく包めなかった。しかし、彼女は無駄のない動きで瞬く間に

バラの包みの山を作り上げた。私は「昔、花屋さんでもやってた

のかい?」と尋ねると、彼女は「ははは」と笑うだけで何も答え

なかった。結局、私が包んだのは5、6本ほどで残りは全部、

家政婦が包んだ。


            


 彼女は包み終えたシングルローズの花束を取っ手付きの洗濯かご

に入れるとカウンターに置いた。そして、不思議な笑みを浮かべな

がら、「がんばってください」と言って帰って行った。


            


 私は早速、トレニンーグウエアに着替えるとジョギングシューズ

を履いてバラのかごを持って外に出た。歩いて2、3分のいつもの

大きな公園まで行くと、ベンチにバラのかごを置き、ポケットから

メモ帳とペンを取り出し、『バラ15ドル』と書いて脇に空き

ビンを置いた。私はそのバラの横に座って本を読み始めた。


            


 1時間ほどで、私の前を2、30人くらいの人間が通り過ぎた

が、みな、ちらっとバラに目をやるだけで、通り過ぎた。ひとり

の男性が「5ドル?」と言い捨てるように言うと走り去った。私

は1本5ドルでは高いのかなと思い、次に4ドル50セントと書

き直してまた本を読み始めた。しかしそれでも誰ひとり見向きも

しなかった。そこで、「1本3ドル」と書き変えた。それでも誰

も興味を示さなかった。


            


 仕方なく、私は2ドルに書き変えた。すると高齢の女性がバラ

1本掴むとビンに1ドルだけ入れて、「今、これしか持ち合わ

せがないの」と言って歩き去った。


            


 それから私はとうとう1ドルまで下げた。すると10歳くらい

の子供が寄ってきてバラを物色し始めた。そして3本を選ぶと、

全部で2ドルに負けてくれないかと言った。私は「いいよ」と言

ったが、10歳にしてそんな交渉術を使うことに驚いた。その後

も誰も私のバラに見向きもしなかった。たった1ドルなのに、

なぜバラが売れないんだ?と私は不思議に思いつつも、寒くもな

ってきたし、もういい加減帰ろうと思った。しかし、バラのかご

を家に持って帰っても邪魔なだけで、どうしようもない。そこ

で、めんどうになって、通り過ぎる人すべてに「どうぞ」と言っ

て差し出した。しかし、無視していく人が約3割、いぶかし気に

「ありがとう、でも結構!」と振り切る人が3割。残りは、

「ありがとう」と言ってもらっていった。ただでバラをプレゼン

トしているのに、どうして、みな喜んでもらってはくれないの

か、一体この世の中はどうなっているんだろう、セロハンで1

ずつ包んであるというのに!私はわけがわからなかった。


            


 最後に私は7、8歳の男の子にバラを2本手渡すと、向こう

にいる「パパとママに渡して!」と言った。すると彼はお金は

ないと言った。私は、「いや、お金は要らないよ」と言うと

「ママは知らない人からものをもらっちゃいけないって言うから」

と言って両親の元に走り去った。私は家政婦が「がんばって」と

いった言葉を思い出していた。そこには、「あなたにものが売れ

ますか?」という意味が込められていたような気がする。


            


 私は何かに愕然として、そのバラのかごを公園のベンチに置き

去りにして、走り去った。私はやっと身軽になった。バラから

解放されただけで、こんな解放感を味わえるものなのかと驚いて

いた。ただですら、ものが売れないのなら、どうやって値段をつ

けて売れるのだろうか?私は今まで一体何をしていたのだろうか、

そんな考えが帰り道、頭の中を占領していた。私はこれまでいろん

な人間とビジネスをやってはきたが現金のやりとりはなかった。

すべては数字だけの世界でビジネスは展開していたのだ。そして

、エレベーターで最上階の自分のフロアに上がるまでの間で1

の決断をした。それは田舎に帰ることだった。とうに両親はいな

いが、年老いた叔父が1人で酪農をやっている。私はその叔父の

後を継ぐことに決めたのだ。


            


 玄関ドアを開けると大きな花瓶に残っていたバラから花びらを

ちぎってバスタブに散らした。今日、ここでの自分の最後の日に

しよう。できないかもしれないが、何とかなるだろう。私はそこ

でやっとリアルな人生を送る決意を固めた。


            


 私はすぐに家政婦と秘書に電話をした。「明日から田舎に帰る

から1週間以内に部屋にあるすべてのものを処分してもらいたい。

家具など一切合切、好きなように処分していい。」私はそう言う

と電話を切った。そして、バラの馨しい香りの中で、ただ、じっ

として、58年間を思い返していた




  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 人は知らない人から物をもらうのを嫌がります。

価値がゼロのものに不審を抱くからではないかと思います。

 新シリーズは、

大富豪の話しを描いてみることにしました。

今まで庶民の話しをたくさん描いてきましたので、

なんだか自分が大富豪になったようでいい気分です♪



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年10月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
    お申込はこちら→「Contact Us」                                     

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.